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「……まだ、終わっていないよ……!!」


 もう、身体がボロボロで動けないはずの倉瀬は再び立ち上がった。


 そして、その姿を見て俺は心が高鳴っていた。

 だって、あいつは限界を超えてついに命覚オルスヴァを果たした。


 やっと、俺たちの領域に辿り着いたんだ!!!


 ん?命覚オルスヴァを知らない?

 はぁ…せっかくだし説明してやろう。


 命覚オルスヴァとは、運命に導かれて異能が覚醒することだ。

 運命に導かれてってことは、いわゆる運ってやつだな。

 つまり、生まれた時に全て決まるわけだ。

 これぞ、親ガチャならぬ運命ガチャってな。


 命覚オルスヴァは、死に瀕した時に起こりやすい。

 だからって、絶対に起こるわけでもない。

 結局は運命さん次第だな。


 ま、だいたいはこんな感じだ。


「このままで終われるか…!!」

「その身体でよく動けるな」


 さっきも言ったが、倉瀬の身体はボロボロだ。

 普通なら動けないだろう。


「俺も不思議だよ。でも、動けてるんだ…なら、最後まで足掻くしかないだろ!」


 倉瀬のその言葉を聞いて俺は笑みを浮かべた


「最高だ!」


 命覚オルスヴァのおかげか、周りを冷静に見ることができるようになっている。

 それでいて、常識というものを捨ている。


 ああ、本当に失うのが惜しいな。

 あえて、倉瀬を見放してみたがこんなふうになるとは…


 選択を誤ったか?

 まぁ、いいか。

 考えたところで仕方ない。


「技名…はいらないか。考える余裕なんてない、てかもう何も考えるつもりもないしな」


 え〜、技名ないの?

 密かに楽しみにしてたのに…


 まぁ、確かにめんどくさいもんな。

 俺も一時期技名を考えてましたよ。

 もうやめたけど。


「さ、雲雀丘。始めよう」

「……!!」


 なんの圧もないただの言葉。

 だが、その言葉にはしっかり力がある。


 おお…!!

 倉瀬、お前そんな芸当できたんだ…!!


「俺は確かに弱者だよ。でもね、だからって逃げる言い訳にはならない!!死ぬんだったら弱者らしくもがくよ」


 倉瀬はゆっくりと、手を持ち上げ、親指を立てて人差し指をまっすぐ前に向ける。

 指を銃の形にし、俺に狙いを合わせる。


 一体何をするつもりだ?


 やがて、倉瀬は口を開いてこう言った。


「バーン」

「——!?」


 その言葉とともに、俺の心臓あたりで大爆発が起こった。

 だが、倉瀬は攻撃の手をやめない。


 さらに、撃ち込んでくる。

 その数およそ十発。


 どうにか防ぎきれたが、危なかった。


「っぶねぇ…危うく死にかけた」

「君がそんなので死ぬわけがないだろ?」

「いやいや、流石の俺でも心臓が吹き飛んだら死ぬぞ???」


 もしかして、俺は不死身だと思われてる?

 失敬な。

 バリバリ現役の人間やで!!

 いや、神だった…


「でも、これじゃあ安易に近づけねぇな〜」


 俺は超近距離タイプなんで、遠距離技なんか持ってない。


「こないの?だったら、俺が行くね」


 倉瀬の一歩ごとに地面がわずかに揺れ、音波の振動が周囲に広がる。

 だが、それだけではない。


 ただの振動ではなく、俺の身体にまとわりつくような妙な感覚がする。

 まるで、全身を音の鎖で縛られているみたいだ。


「なるほど。思ったより自由自在だな」


 音の異能がこんなふうになるのか。

 面白いな。


「やっぱ戦いはこうでなくちゃな…?」


 俺は口元に笑みを浮かべる。


「そんな楽しいものじゃないよ…俺にとったらね」


 倉瀬はそんなことなかったようだ。

 残念。


「それよりもさ、僕に攻撃してきなよ」


 挑発か?

 しゃ〜ない。

 乗ってやるよ!


 俺は身体に力を込め、鎖のような音波を無理やり振り払った。


「……ッ!?」


 倉瀬が一瞬目を見開く。


「……そんな簡単に破られるとは思わなかったな〜」


 甘い。

 あまあまだよ。


 こんな程度で俺を縛りつけようなんざ、10年早い!!!


「さぁ、次は俺の番だ」


 俺はそう言うのと同時に、今出せる限界の身体強化をかけた。

 その圧に倉瀬は警戒を強めながら、深い呼吸を繰り返す。


「来いよ……全力でな」


 俺は倉瀬に微笑んで、動く。


「速い……!」


 倉瀬はすぐに音波を纏い、自分の周囲を防御する。

 だが――


「隙が多いぞ?」


 俺は倉瀬の右腹をめがけて猛烈な蹴りを入れる。

 防御は一瞬で砕かれ、倉瀬は吹き飛ばされた。


「ぐッッッ……!」


 地面に叩きつけられた倉瀬は、痛みに耐えながら立ち上がる。


 身体は限界だろう。

 だが、それでも立ち上がる。


「さっきまでとは大違いだね……」


 そう言い再び音波を纏いながら、倉瀬は力を込める。

 音の振動がさらに強まり、周囲の空気が震える。


「これは俺なりの敬意だ」

「はは…つまり、俺を強者だと認めてくれたってことでいいんだね…?」


 俺はあえて答えず、笑みを浮かべる。


「そっか…もう俺には心残りはない…ね」


 そう言うと、倉瀬はさらに力を強めた。


「ここからは俺のわがままタイムだ。倉瀬碧音と言う名を君に、ここにいる人全員に刻みつける…!!!」


 おお…そりゃまたたいそうなわがままだこと。

 まぁ、でも十分だと思うけどね〜…


 すると、なんの合図もなく倉瀬は地面を蹴り、一気に間合いを詰めてきた。

 その瞬間、空気が弾けるような轟音が響き渡る。


「動く前はなんか言うのがセオリーだろ???」


 俺は反射的に身をかわすが、音波の衝撃が身体をかすめた。


 ちゃんと避けたつもりだったんだけどな〜


「気抜いてたんじゃない?そんなんじゃ、負けるよ?」

「おうおう、ちょっとかすっただけでイキリだす。雑魚の典型例だな」


 こんなことを言いながら、倉瀬は次々と攻撃を繰り出してくる。

 拳、蹴り、音波を伴う爆撃すべてが俺を狙い撃つ。


 俺はそのすべてを捌き、攻撃の隙を窺う。


 だが――


「……!?」


 一瞬、倉瀬の動きが途切れたかと思うと、音が消えた。


「あれ……?」


 次の瞬間、俺の背後から鋭い衝撃が襲いかかる。


「まじ…か…!!!」


 間一髪でかわしたが、完全には防ぎきれなかった。

 肩口から血が滴る。


「……どうやった?」


 俺が驚いて振り返ると、そこには誰もいない。


 おかしい。

 倉瀬は目の前にいるはずだぞ?


「君が気づいてないだけだよ。俺の音は、どこにでも届くんだ」


 その言葉に、背筋がゾクリとする。


「なるほど、音を反射させて……背後から攻撃か」

「正解。よく分かったね」


 まさか、血を出すなんてな…

 何年振りだろうか。


「ふふ…あははは!!」


 ほんとに…本当に…!!


「これだよ。俺が求めてたものは!!」


 俺は再び笑みを浮かべ、で倉瀬に向き合う覚悟を決めた。


「さぁ、続きを始めようじゃないか!」


 もう出し惜しみなんてしない。

 決着をつけようか。

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