「意外とこの世の中はファンタジーで溢れてる」
「うわぁん……」
(そろそろ、話に参加してもよいだろうか……)
気まずそうにケルベロスが鳴く。
あ、静かすぎでケルベロスの存在、忘れてた。
手首にしっかりリード巻いといて良かった。ケルベロスはまおに忠誠を誓っているから逃げることはないだろうけど、山で迷子になったら大変だし。
「なんだこれ、なんとなくこの犬のいってることがわかる」
なんだ、この新体験……と随分と余裕があるようだ。
「でも、この犬……「けるべろすだ」
「ああ、すまん。ケルベロスな。……うーん、あいつらの被害に遭ってこういうことになったわけではなそうだ」
……あいつらって誰のこと? 自分でもしかめっ面していたと自覚してる。
「……いうと先輩があいつらに見つかるのが早くなるから、今は教えられない。なんか不思議な現象が起きたら、すぐに俺を頼ってほしい。
事実は小説よりも奇なりというだろう。案外、この世界も不思議なものに溢れている。困っていることや手助けしてほしいことがあるなら、なんでもいってくれ」
自分は話せないのに、こちらの事情を話してくれだなんて、不公平だ。
しかめっ面を続けるが、「すまない、今は話せない」としかいわなかった。いえないなら、気になる発言をしないでほしい。
「うわぁん!」
(受け入れてくれるなら話が早い。この山に小屋があるだろうか。そこに案内してほしい。保護団体に捕まる前はそこを住処にしていた。見つかったのは小屋の近くではないため、ネコマタはそこにいる可能性が高い)
「裏で建物になりうるものは、掃除置き場しかないな。案内しよう」
今は駄々をこねている場合ではない、まおのためにネコマタを保護するのが最優先事項だ。しかめっ面はしたが、かわいい後輩を困らせたいわけじゃない。
拗ねるのはここまでにしよう。
意外にも、目指していた場所は5分歩いたところにあった。
「この掃除置き場を建てたのも、十うん年前と聞いていたが……。野ざらしだったからか、劣化が激しいな。建て直さないといけないか」
一人、冷静に独り言を呟く優斗。
一方、ケルベロスとまおは忙しなく、辺りをキョロキョロと見渡していた。
「うわぁん! うわぁん!」
(ネコマタ! ネコマタ! われだ、ケルベロスだ! いるなら返事をしてくれ!)
「にゃーん!」
(騙されないぞ! ケルベロスの声を使って、私を騙そうとしているのだな!)
あの保護団体、こんなにも疑わせるなんて、どんなことをしたんだ……? と考えつつ、信じてもらうためにはまおが声かけるしかないかと、そわそわしているまおに視線を向ける。
許可を求めて僕の方を見ていたのか、視線がばっちり合った。
いいたいことはひとつだろうから、僕はまおに向けて、力強く頷く。
「ネコマタ! われだ、まおだ。けるべろすは、われがほごした。
おまえも、いっしょにほごしたいとかんがえている。
どうかすがたを見せてはくれないだろうか?」
その声に反応するかのように、目の前の草むらが大きく揺れて、勢いよく何かが飛び出してきた。
あ、まずい! どうしてまおの家族たちは、毎回のごとくタックルしてくるのだろうか。火事場の底力で、ネコマタらしきもののを、子猫を運ぶ母猫のように掴む。
「全く、もう! どうして、君たちは考えなしに飛び込もうとするかな。
こんなに小さいまおに飛び込んだら、怪我するのわかるでしょ?」
そう叱れば、鳴かずとも反省しているようで。
僕に抱っこされていても、ネコマタは大人しくしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます