第30話 環境論文へ
2回目の塾が終わると本の引継ぎを行うことになった。3年生と予定を合わせて10期生が私に教えてくれたようにプレゼン資料の作り方を教えていく。
これをやったのは時間的にいえば1年前。しかしつい最近やったかのように感じてしまった。
この本の引継ぎに関して今回は新しい事を始めることになった。1冊目は今やっている従来通りの本引継ぎ、2冊目は絵本をまとめたのを引継ぐということ。そして2冊目に関して私がまず同期の誰かに引継ぎ、それを引き継いだ人が3年生に引き継ぐ。つまり流れは私→同期→3年生という形になる。
そのくらいのタイミングで先生のゼミから帰ってくるとあることがホワイトボードに書かれていた。
環境論文の章分けである。
誰がどの章を担当するのか。「歴史」については誰々とか「リーダー」については誰々とかそういう感じで分けられている。名前を見ていくと11期生全員に割り当てられていた。
章立てされている内容のほとんどは研究室にいれば聞くことも見ることもあるものだったのだけれど、私の名前があるところに見たことがない文字があった。
「色彩」
である。
それ以外にも「共育」と「森田研究室とは」という章に私の名前が付けられてはいたがこれには複数名割り当てられていた。つまりこの「色彩」というのに関しては私だけが担当ということになる。
環境論文について改めて説明をすると「11期生が森田塾で取り組んできたこと」をまとめた本である。そしてその集大成を卒業までに書き終え、森田先生や地域の方、お世話になった方に提出するというのが8期生から続く伝統のような、習わしのような。
もちろん今までやってきた「農」の部分もまとめるし、今まで私があまり関わってこなかった部分も当然存在する。例えばひまわりとか、クローバーを畑に蒔くこととか、稚苗と成苗とか。もっと理論的な話になるとレバレッジとか、投資学・経営学とか。
今まで全く触れてこなかったこのレバレッジ・投資学・経営学という部分は何なのかというと、これは例えばOB会で集めたお金はどんな感じで使ったのか。とかそういうのをまとめたものになる。難しく言えば会計報告書みたいな。
これは会計が担当していたので私はほとんど触っていない。
話を戻して私の担当「色彩」
「色彩ってなんだ?」
そう思っているとまたいつものようにイガさんから本を手渡されることに。
それは「シュタイナーの色彩論」だった。
「これ、まずはまとめてみて。それで僕に見せて」
とのこと。
早速私は本を開いて読み始めたが
「なんだこれ」
読めない。正確に言えば書いてある言葉はわかる。けれど何が言いたいのかっていうのと、なんというかとにかく全く理解不能だった。
色彩というのは文字通り色である。赤とか青とか。この本はそういう色についてシュタイナーが論じているものがまとめられている。凄く簡単に言えば色を見る視点1つの視点を説明しているということ。
色、という単語を聞いた時に何となくニュートンを思い浮かべる人がいるかもしれない。これは小学校の理科の時間とか日常の疑問とかそういう中に「空はどうして青いのか?」ということに対しての説明に登場するからである。
これは小学校の理科の話。光には波長があって波長が長い側が赤色、短い側が青色を帯びている。空が青く見えるのは光が空気中にある窒素とか酸素とかの分子にぶつかると波長の短い青色が散らばるから。というのが一般的な説明である。
これとは違った説明をしているのがシュタイナーの色彩になる。
ニュートンが説明する色の見え方も1つの視点だし、シュタイナーが説明する色も1つの視点である。
つまりニュートンとシュタイナーには違いがあると言えるのだけれど・・・。
そもそもまず、シュタイナーの視点を知ることも理解できないのにこれを森田塾にそして環境論文にどう繋げるのかが全く分からない。でもやるしかない。だってそうでしょう?やらないという選択肢はもう無いのだから。
とりあえず私は本の気になった部分を抜き出してプレゼン資料を作った後、院生の一人に見せに行った。
そしたら感想は
「まっつん、変な物でも食べた?」
だった。
そう言われてしまうのも仕方がない。だってそんな内容になっているんだから。
そしてそれと同時進行で卒業論文や実験もどんどんやることが増えていくことになる。院生が言うには本格的に忙しくなるのは年始くらいからとのことだった。
カレンダーを見ると気が付けばもう11月も後半に差し掛かっていて「ああ、そろそろなんか終わりなのかな」という風にかんじていたら急に後ろから声がかかった。
「まっつん、暇?」
イガさんである。
声がかかると大抵やることが増える。だからといって「暇じゃないです」と言えば「うそつけ」とイガチョップを食らう羽目になるので私が導き出した答えは「なんすか?」と適当に挨拶をすることだった。
でも今日は珍しく違うことをした。それがイガさんと本を買いに行くという事。
研究室に入ってここまで実はイガさんと飲食店以外に外出したことが無かった。他の同期は地域の人のとこに農をやりにいったり、院生は院生でイガさんとどこかに出かけていたのを見ていただけだった。
早速イガさんの車に乗り込むと少し遠目の大きな本屋に行くことになった。
本屋に行って何を買うのかということは聞かなかった。ただ付いて行くだけ。実は結構気になっていたことではあった。イガさんがどんな風に本を選ぶのかとか。それは私を含めた同期に渡している本が「いったいどういう理由でこれなんだ?」というような本ばかりだったからである。
するとイガさんは私に1つだけ聞いてきた
「まっつんはさ、本の選び方って知ってる?」
とのこと。
私は本を読むタイプかと言われればどうなのだろう。読書家というわけではないけれど気になった本が有れば読むタイプではある。
「知らないです」
と正直に言うとイガさんは本の選び方を教えてくれた。
意外だった。「自分で考えて」と言われるのはいつものことだから明確に選び方を教えて貰えるとは思っていなかったのである。
お目当ての本を購入した後、確かラーメンか何かを食べに行った記憶がある。
そうしてまた研究室に戻ると私は色彩の本に向き合うことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます