第21話 日常の中で
研究室でいつものように暇をしているとドアを開けて1人の院生が入って来て唐突に一言。
「まっつん、パソコン作るから一緒に買いに行こう」
そういわれて車に乗り込むとそのまま秋葉原に連れていかれた。連れて行ってくれた院生の人は研究室のパソコンの管理とかそういうのをやっている人。話を聞くとどうやら研究室に置かれている共有のパソコンを新しくするとかそんな感じだった。
共有のパソコンというのはみんなで使うという意味も込められているのだけれど、共有サーバーでもある。サーバーを簡単に言えば私が作ったデータをそこに入れておけば研究室の人たち全員がそこから見ることが出来る場所の事である。
よくわからんパーツショップの中を院生についていく。お目当てのものが見つかったらしくそれを購入すると秋葉原を後にして研究室へ。
買ってきたパーツを組み付けるところを眺めていると今度はまた別の院生の人がやって来て
「まっつん、イガさんからの課題終わった?」と聞かれた。
「これでいいんですかね」
私は一応作った課題であるプレゼン資料を院生に見せたのだけれど「うーん」と言われてしまった。
どうやら何か納得はしてないらしい。
この時の私の悩みはずっと同じ。課題を出され、その課題をやって提出するのだけれど中々納得してもらえない事だった。何か提出しても「センスがない」と言われてそのまま。結局自分で考えるしかない。
当然、答えは教えて貰えるわけでもないため結局試行錯誤。
いやーこれは困ったぞと。自分が今まで持ってきた事があんまりというか全然通用しない。だから「やーめた」って言って全部投げ出して遊んでもいい。ってことをしても別に何も言われないだろうという雰囲気もそこに有るわけで。
この時感じていたのは同期と私で院生やイガさんの捉え方に違いがあったことである。
院生やイガさんはどっちかと言うと面白い部類に属しているとは思う。だからその面白い部分だけで付き合えば別に何ともない。一緒にご飯に行ったりとか、時には麻雀をしたりとか。
だからそういう部分だけくみ取って上手く付き合っている同期もいたのだけれど、どうも私はそうではなかった。何というかこの時点では全然院生やイガさんと心から楽しんで遊べなかったというのがある。
「出された課題。どんな回答を持って行っても納得してくれない人たち」
そんな人と楽しく遊べるか?と言われたら答えは否になるだろう。
今となってはこの時の私の考えは相当浅はかなものなのだけれど、当時の私はかなり真剣に「何とかして課題に納得してもらいたい」というのがあったわけで。だからこそ何とかしなければいけないと考えたりするのだけれど、中々上手く行かない日々が続いていく。
上手く行かない理由。これを書いている今の私ならわかるのだけれど当時の私は分からなかった。とりあえず上手く行かないのがいつまで続くのかということを先に言っておくと9月の頭までこれが続くことになる。
で、別に私だけがそういう感じになっていたわけではなく、同じ部屋に居た同期もまた同じような悩みを抱えていた。彼は森田研究室の「農」の部分をやっていて、それこそ先にやった味噌作りの段取りとか小規模な野菜作りの予定調整とかそういうことをやっていた。
塾の活動として「農」もやっている。とはいうもののここまで全く話が出てこないのはなぜかと言うと、私がほぼ関わっていなかったからである。
先にも言った通り、農は野菜作りと米作りを行うのであるがそもそもそれには場所が必要。それをどこでやっていたのかという話。
私の代になってからの野菜作りは研究室の外に花壇のようなものを作りその中で行う形になった。それの段取りは院生がメインになって行い、ブロックを並べることだけは手伝った。ホームセンターで土を買ってきて入れて、そこに野菜の種を植えることに。
その生長の様子を写真で撮ってまとめ、プレゼン資料でまとめて発表というのがあったのだけれど、私はそれをやった記憶が全くなく、他の人がやっていたのを見ていた。
野菜作りは手元に近い部分で出来るのに反して、米作りはやることがやることになるので別の場所になる。
そもそも森田研で農という要素をやることを決めたのはイガさんである。イガさんはこの時点で色んな農家さんと繋がりを持っていて、その繋がりで様々な場所で米作りに関わっていくことになるのだけれど、ここら辺をきちんと説明しようとすると色々面倒なのでざっくりと言えば
「学生が米作りに参加できるような場所をイガさんが既に用意していて、そこに行って何かしらの作業などが出来るようにしていた」という感じ。
そのため当然のことながら農を担当していた人たちはそういった地域の人たちと関わることが増えていくことに。
どちらかと言うと私の代は野菜よりも米。米というよりも稲についてやることが多くなったのである。そのために予備知識としてまた同じように「稲」に書かれた本についてまとめるというのもやった。
そこら辺の事を語るためには、どうしてもイガさんと森田研の歴史を見なければならなかった。
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