第10話:調査団

 SCP-X1751-JP-C個体名"クラウス"との対話調査から一週間後、ついに財団が正式に調査団を異世界へ派遣することを決定し、SCP-X1751-JP研究チーム及びその関係者によるミーティングが開催された。

 ミーティングには桐生博士、原田研究員、比良山研究員、如月のいつものメンバーと、機動部隊い-2の谷口隊長、そして式神使いの矢部研究員、フィールドエージェント楠が出席した。

 楠に関しては、以前、桐生博士が呼びつけた矢部研究員を如月が引き留めたように、如月が楠に意見を求めた際に桐生博士に目を付けられてしまったようだ。


 早速、異世界調査自体に否定的だった如月が、桐生博士を問いただし始めた。

「財団による異世界調査団の派遣、これは既定路線ですので反対しません、ですが桐生博士が調査団に含まれてるのが疑問です、桐生博士は基底世界の作戦本部で指揮を執るべきではないでしょうか?」

 桐生博士はBクラス職員である、Bクラス職員は通常危険を伴うような調査には赴かない、というのが財団の規定である為、如月が噛みつくには十分な理由ではあったが、桐生は予め如月が噛みついてくることを予見していたようで、逆に如月を問いただし始めた。

「作戦指揮は田所管理官が行う、当然、俺が出向くことも了承済みだ。今回の異世界調査の主目的は二つある、一つは何だ? 如月、答えてみろ」

「異世界住民による基底世界への干渉可能性の調査です」

 つまるところ、異世界に存在すると推測される国などの大規模組織がSCP-X1751-JPを通って侵略を仕掛けてくる可能性を財団は危険視しているのだ。

「そうだ、それが財団が当初想定した調査目的だ、もちろんそれは今でも変わらない重要な調査事項だが、二つ目、SCP-X1751-JP-Aの研究が進むにつれて分かった事実があるな、それは何だ」

 如月は苦虫を嚙み締めたような表情でしぶしぶこう証言する。

「SCP-X1751-JP-Aの生体サンプル及び魔石から魔素の発見、並びに仮称魔力因子の存在が確定的だと判明したことです」

 SCP-X1751-JP-Aの証言から得られた情報はSCP-X1751-JP-Aの能力は自称魔法であり、魔法発動に必要な条件にどうやら魔力というものが関係しているらしい、という曖昧な情報だったのだが、生体サンプルやSCP-X1751-JP-Bが変化した魔石から、魔力の存在を裏付けると期待される物質、魔素が発見されてしまったことで、現実改変能力に依らない異常現象にそれらの物質が関係しているという仮説が立ってしまったのだ、そしてその仮説を提唱したのが、今このミーティングに出席している桐生博士、比良山研究員なのである。

 そして桐生はこう畳みかける。

「魔法の発動原理の解明、そしてその制御が出来たらSCP-X1751-JP-Aを完全に無力化することが出来る。これらの研究にもっとリソースを割けと意見書を提出してきたのは誰だ?」


 如月である。

 これを言われてしまうと、さすがに如月もこれ以上噛みつくことが出来ない。


 そもそも如月が何故、異世界の調査に否定的なのか、それはSCP-X1751-JP-Aが財団職員を異世界に行かせるように誘導していると確信しているからだ、SCP-X1751-JP-AはSCP-X1751-JPを潜り抜けた先のダンジョンが危険だと証言している、それなのにわざとそこへ行かせるように仕向けている、それが癪に障るのだ。ついでに桐生博士の高圧的な態度も気に食わない。

 確かに現実改変能力に依らない異常現象である魔法の原理が解明出来れば、財団への貢献度は計り知れないし名誉なことだが、如月には桐生がどちらかというと名誉の方に重きを置いてる気がして、それが余計に気に食わないのだ。


 如月が黙ると、原田が何か言いたそうに挙手をしている、それを見た桐生が発言を促す。


「まあ、如月さんの気持ちはわかります、我々よりもずっとSCP-X1751-JP-Aに関わってますからね、現地へ赴くのは危険だと仰りたいんだと思います。綾戸村でSCP-X1751-JP-Aを発見した時は相当危険なアノマリーだと感じました、如月さんには感謝しかありません」

 思いもよらない援軍に、いいぞ、原田! もっと言ってやれ! と如月は口には出さないが原田を応援した。

 原田は一応の気遣いを如月に示した後、矢部と楠に対してこう問いかけた。

「ところで、矢部研究員と楠さん、この度は我々の招聘に応じていただきありがとうございました、お二人は現実改変に依らない異常現象……魔法に似た能力を行使することが可能ですので、現地での魔法原理の研究に協力していただく予定ですが……その、不安などはありませんか?」


 矢部と楠はお互いに顔を見合わせどちらが発言するか決めかねているような仕草を見せたが、楠が譲る形で矢部が返答した。


「確かに不安はありますが、オカルト部門でも実際のところ呪術や式神の原理解明には至ってません、桐生博士と比良山研究員の仮説には大いに関心があります。SCP-X1751-JP-Aの証言内容、魔力に満ちている満ちていないのところですね、実際、魔力の源であると推測される魔素は、こちらの世界ではほとんど検出できない、検出できても極めて微量ですから……やはり現地での研究は必要なんじゃないかなと、僕は理解しています」


 楠は「私も同意見です」と矢部の発言に追従し、”先輩、すみません”的な”てへぺろ”顔をして如月に頭を下げた。


「了解しました、感謝します」

 原田はそう言いながら、出席者全員に配られている資料に目を通すように促しながら話を続けた。

「調査団は我々研究班五名と機動部隊い-2隊員十名で構成されます、あ、如月研究員はSCP-X1751-JP-Aの管理業務がありますので現地には同行しません」


 いちいち確認しなくても良いんじゃないか? と如月は思ったが口には出さなかった。


「ご存じかとは思いますが機動部隊い-2は綾戸村での事件で複数体のSCP-X1751-JP-Bとの戦闘経験があります、それと資料にあるように万が一に備えて有用だと思われるSCPオブジェクト3つの持ち出しと使用の許可が下りています、機動部隊い-2と合わせて現状サイト-8107が保有する最大戦力を持って調査に臨みます」


 如月は現地には同行しないが楠が危険に晒されるのは勘弁してほしいと感じているので、自分には直接関係ない原田が言及している資料に一応目を通してみた。

 持っていくと言っているSCPオブジェクトのリストがこれか……

 ・ SCP-X0196-JP

 ・ SCP-X1090-JP

 ・ SCP-X1429-JP

 如月は仰天した、一つだけ格別にヤバイものが混じっている。

 他の二つは……まあ非常事態であれば有用だし使用すればそれなりに役に立つアイテムだ、だがSCP-X0196-JPこれはダメだ、確かに使用すればSCP-X1751-JP-Bクラスのアノマリー数十体に包囲されたとしても切り抜けられる程度の力を発揮すると思われる。

 ざっくり説明すると、SCP-X0196-JPは刀の呪物だ、殺意を持った対峙者がいる条件で抜刀すると使用者は超人的身体能力を獲得し対峙したモノ敵味方関係なく斬り殺すだけの殺戮マシーンとなる、だが対峙者を全て殲滅した後も自我が戻らず臨戦態勢を解かない、つまり討ち死にするか餓死するかの二択、いずれにしても使用者は必ず死ぬのだ。これを戦力に数えるのはさすがに許容しかねる。

 如月は立ち上がり原田を糾弾する言葉を投げようとした瞬間、機動部隊い-2隊長谷口がそれを制してこう言い放った。


「SCP-X0196-JPは俺が無理を言って上に掛け合ってもらった、積極的に使うつもりはねぇ、いざって時の保険だ、もちろん使うのは俺だ、さすがに他の隊員には持たせられねぇよ」


 如月は唖然としながら谷口を見やりこう思った。


 機動部隊の隊長ともなると覚悟がキまり過ぎてて、桐生とはまた違った意味で苦手だな……。

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