第15話

────暖かい────ぷかぷかと浮かんでいる────心地が良い────まるで胎児にもどったかのようだ────酷く幸せだ────このままずっと、という願望が浮かぶ────ゴプゴプという音が聞こえる────

頭が、寒い────






「おい。起きろ」


 遠くから聞こえる声にみじろぎをする。まだ、眠っていたい。あの暖かさに溺れていたい。


「起きろこの寝坊助!」


 頬を手で全力で叩かれた感覚に一気に意識が浮上した。

 目を見開き、慌ててカプセルから出ようとして……斜めに開かれていたガラス板に足が引っかかり盛大にずっこけた。


「い、っつう……」

「俺は謝らんぞ。いつまでも寝てるお前が悪いんだからな。お前が寝たままだと次の授業がはじまらんだろう」


 その言葉には頷くしかなかった。ゆっくり立ち上がり、入り口で集まっている新入り達に混ざった。


「よし。これで全員不老不死になったな。では次の……」

「おい!」


 グディの言葉を遮るように半ぱ怒声のような声が上がる。


「不老不死になったって言ったけど全然実感湧かねーぞ!これ本当なんだろうな!?」

「……ふん」


 グディはその言葉を鼻で笑い、手招きをした。


「ならその実感を持たせてやろう。ロクサード、こっちに来い」


 言われた通りに人混みを掻き分けるようにグディの前へ進み出るロクサードと呼ばれた、男……という言葉よりは悪ガキという言葉が合うような少年をグディは見下ろした。


「なんだよ。もしかして俺が怖いとか?元の世界の連中もそうだったぜ、俺がちょっと力持ちで魔法が使えるからって人類の敵って言いながら襲ってきて」

「喧しい。言葉で言って分からないなら、こうだ」


 グディは右手を顔の脇に置き、パチンと鳴らした。

 その瞬間。

 ロクサードのコートの袖口から左腕がポロリと落っこちた。


「……え?」


 今までの威勢はどこへやら、間の抜けた声。しん、と静まり返った周囲。その空気を金切り声が引き裂いた。


「ぎ、ぎゃあああああ!!!俺の、俺の腕があああああ!!!!」


 パニックになって忙しなく辺りを見回したり腕を拾ってくっつけようと袖に突っ込んだり肩があった辺りを掻きむしったりした。


「な、何するんだよぉ、俺、俺はこんな目に遭うなんて最初に会ったあいつからは聞いて」

「落ち着け。すぐに再生すると言っただろう。その腕はもう必要ない、寄越せ」


 そう言ってグディはロクサードから腕をひったくり、腕を上げた。

 それを取り戻そうとぴょんぴょんと飛び跳ねていたロクサード。しかしそこから異変が生じた。


「え、え?」


 ジャンプするのをやめ、左肩をさすり始める。


「え、俺の身体、生えて、え?」


 肩の部分が膨れ上がる。だらんと垂れ下がっていた袖口が持ち上がる。

 最後に袖口から、何の異常もない手が飛び出した。

 それと同時に、切られた方の腕は塵となって床に散らばった。


「今ので分かったな?お前達は他に類を見ない力をえた。不老不死になり、驚異的な再生能力を得て、魔力も前と比較にならないほど強化された。

さて、この一連の流れを見てまだ理解できない、納得できないと言う者はいるか?」


 頷いたり答えたりする者は誰もいなかった。周囲に沈黙が満ちる。


「沈黙は肯定と見做すぞ。皆が不老不死になった所で、次の授業に行くぞ。」


 そこで腕を組み、宣言するように言った。


「次は実際の現場の見学だ!皆、気を引き締めろ!」

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