第14話
ぞろぞろと列をなし、連れてこられたのはギラギラと輝く緑色の扉。扉全体に艶やかな紋章が書き込まれ、ドアノッカーにはエメラルドが輝いている。
「ここだ。皆、入るぞ」
グディに続き、扉の中に入っていく。
中の光景は……何もかも初めて見るものだった。色々な魔道具が規則正しく、または乱雑に並べられ、妙な触感の紐で繋げられている。天井を見ればやはり天井を覆うように時計があり、カチ、カチと音を立てて時を紡いでいる。
しかし何よりも気になるのは、目の前にずらっと並べられているポンプが繋がった人一人大のカプセルのようなものだ。それの内側の上からは妙な器具のついたパイプが垂れ下がっており、まさしく『異常』という言葉が似合いそうな場所だった。
「お前たちにはあのカプセルに入ってもらう。そしてあの器具を顔の下半分に付けろ。
バラバラの状態で入れ、と言っても混乱するだけだろう。俺が順番を決める。
……一番目、アンスラード!」
「は、はい!」
一番右のカプセルに入れ!次の者は……」
そうやって次々と指示が舞い、ある者は正直に、ある者は納得がいかないようにカプセルへと入る。カプセルに入って器具をつけた途端、ゴプゴプ音を立ててと薄紫色の液体がカプセルを満たすように注がれていく。中にいる者は慌ててガラス張りの出入り口を叩くが、割れそうにもない。そのうちカプセルが薄紫色の液体が満たされると、糸が切れたように身体から力が抜け、静かな眠りについた……ように見えた。
「ねぇ貴方」
「ん?」
横から震えた声に呼びかけられたのでそちらを見ると、自分より二、三歳は年下のような少女が少し腰が引けた状態で上目遣いに此方を見ていた。フードを深く被り、何やら怯えたように縮こまっている。
「さっきから堂々としてるけど、何も思わないの?こんな怪しい所に連れてこられて、更に不老不死になれだなんて……」
今にも逃げ出しそうな声でそう呟く。成程他の人はそう思う事もあるのか、と意外に思う。問われたからには答えねばならない。ジコウは口を開いた。
「そういわれてもな。俺の願いを叶えるためには管理者になるしか無かった。それに、最初の案内係の女の子にも優しくしてもらえたし、スカウトマンも嘘を言っているようには見えなかったしな」
そう告げると、少女の身体はぶるぶると震え出した。
「違うわよ。みんなそうなの……最初は優しい顔して最後には裏切って捨てていくの……私には選択肢なんかなかった。こうしなければ私は死んでいた。磔になって、火を焚かれて。お父さんもお母さんも弟も殺されたわ。魔女だなんて……私は、魔法で害を為すなんて考えもしなかった。たまに楽するためにちょっぴり使っただけよ。家族みんなで暮らしていければそれでよかったのに……どうせ貴方も裏切るんでしょ……」
怨念が入り混じった呟き声に、思わず憐憫の感情が浮かぶ。しかしただ慰めた所でこの少女の気持ちを軽くすることなど出来るはずがない。
どう言葉をかけようか悩み始める。
と、その時。
「二十七番目!ジコウ!」
とうとう自分が呼び出された。何も言わずに立ち去るのは酷だろうと思い、まだまとまり切っていない言葉を発した。
「……俺は裏切らないよ。全ての生きるものに幸せになってほしいから。これまで悪い事ばっかりだったんだ、きっとこれからいいことが沢山起こるよ」
「……」
上目遣いのままじっと見られ、ぷいとそっぽを向かれた。
「……そう」
その言葉に半笑いで返し、ふと思い浮かんだ疑問を投げかけた。
「そういえば、君の名は?俺はジコウだ」
「ネール・ビガンテよ。覚えなくてもいいわ」
「そうか。覚えておくよ」
じっとりした目線が更に強くなったのを感じながら、グディが立つカプセルに向かった。
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