第13話

「魔法と言ってもさまざまに種類がある。火を出したり、氷を生み出したりな。だが我々が前提とする魔法はそんなものではない」


 カンカン、とチョークで黒板を叩く。


「時間の停止。攻撃の完全無効化。そして何よりも重要なのは、個人個人で違う効果が発揮される『概念魔法』だ。周囲一体……空気や敵の内部もも含めて炎で包んだり、世界の情報を認識したり……

ううむ、例が多すぎるな。とにかく、『自分の望んだ領域を思うままにする』のが概念魔法だ。研究ではさらにこの上位互換の『概念魔道』があるとされているが……机上の空論で、未だ発現に至ったものはいないがな」


 白のチョークに持ち替え、今度は隣に不老不死と書き出した。


「さてお前たちもスカウトマンから聞いているだろう。不老不死についてだ」


 カカカ、と少し乱雑に概要が書かれる。


「まず最初。命の魂への付着。本来命とは肉体に宿っているものだ。そこで命を魂に結びつける。そうする事でいくら肉体が傷つこうが……まぁないとは思うが、肉塊になろうが死ぬ事はない。死ぬほど痛いのは変わりないだろうがな。これが擬似的な『不死』だ」


 痛いのは変わりないのか……と思う。腕が折れようが走り続けて足が突っ張るような痛みを訴えようが諦めなかったジコウだが、肉塊になると言うのは流石に勘弁してもらいたい。とてつもなく痛いというのは想像がつくからだ。


「次、肉体の時間の停止。普通人というのは100年もしたら死ぬものだ。中にはエルフやドワーフも混ざっているが、それでもそのままでは死ぬだろう。

それを解決したのがこの技術だ。

身体から『老化する』という概念を取り出し、魔法の実験が終わったマウスに移す。そうする事で不老の存在となる。先程の説明と合わせて、これで擬似的な不老不死の完成だ」


 生徒の方に向き直って見渡し、また黒板に向かった。


「だがここで疑問に思った者も多いだろう。『じゃあ肉体が無くなったらどうなるの?』『肉体が損傷して身動き取れなくなったら?』『魂が食べられそうになったら?』だ。それについても説明する。

何らかの理由で何もできなくなった時。その時は一人前になった際に『アカシックレコード』という魔法を魂の底へと縫い付けられる。これはかけられたものの状態を判断し、危機的な状況だと判断した場合魂を即座に医療室にワープさせる力だ。他にも世界にアクセスして情報を除き見たりオブジェクトを消したりも出来るのだが……まぁこれは一人前になってアカシックレコードをかけられた際に詳しく聞くことになるだろう」


 アカシックレコード。その名前に酷く興味をそそられた。今自分がいない場所はどうなっているのか────逃走中何度も思い描いた事だ。その力があの時にあったらもっと他の選択肢があったのではないかと、今更ながらに思う。


「最後、再生力について。不老不死の力を得た者は驚異的なまでの再生力を持つ。たとえば骨が折れたとする。普通なら全治数ヶ月はかかるな?だがこの能力があれば肉塊からでも人の姿に戻る事ができる。先程言ったような肉体の消滅には対応できんがな」


 そう言いきりグディは黒板を背にしてジコウ含めた新入りを見回した。


「概要は説明したな?では次は……」


 グディはニヤリ、と笑う。


「お前たちには不老不死になってもらう」

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