第40話 変化

 この日から、レオナルドの生活スケジュールに夜の特訓が加わった。昨日は成り行きで夜中に行うことになったが、落ち着いてできる時間が夜にしか取れないためだ。

 最終目標は精霊術ができるようになること。レオナルドの部屋で行うこれは、一応レオナルドとステラだけの秘密だ。

 以降、睡眠時間は明らかに減っているのに、翌日に疲れが残らないレオナルドは、その理由を当初若さに加え、毎日が充実しているからだろうと特に気にしなかった。

 しかし、夜の特訓は毎日のことだ。一か月もしないうちに、さすがに変じゃないかと思い始めたレオナルドは、ある日ステラに訊いてみた。

(なあ、ステラ。俺の体ちょっと変じゃないか?毎日夜遅くまで特訓してるのに、朝起きると睡眠不足も感じないし、全然疲れが残ってないんだ)

『……寝ている間に自然と霊力を使って肉体を回復しているのでしょう』

(マジか!?霊力ってそんなこともできるんだ!?)

『……ええ、そうですね』

(すごいな!霊力って!)

 ステラからの返事には若干の間があったのだが、レオナルドは気づくことなく、霊力の新たな効果を知れて、嬉しそうに笑うのだった。


 また、アレンと行ってきた鍛錬にも変化が起きた。

 鍛錬を始める前、なんとステラが、助言というか今後の鍛錬について指示を出してきたのだ。ちなみにレオナルドが毎日どんな鍛錬をしているかは、すでに話してあるためステラもわかっている。

 きっかけはレオナルドの何気ない言葉だった。

(なあ、ステラ。もしかしてこんな木剣でも霊力を流したらすごい武器になったりするんじゃないか?)

 昨夜ステラの指示のもと、初めて行った特訓を思い出しながらレオナルドが期待に満ちた様子でステラに訊いたのだ。黒刀を主武器とするにしても予備武器のことは考えておかなければならない。ただでさえ刀なんて使っている者を見たことがなく、レオナルドのゲーム知識でも少なくともムージェスト王国にはない武器だ。その上、全体が漆黒とくれば、非常に目立つ。殺されることを警戒するレオナルドは誰にどんな理由で目をつけられるかわからないと考えているため、あまり悪目立ちしたくないのだ。だから、普段装備するのは普通の剣にしておきたくて、それでも黒刀と同じことができれば十分戦えるのではないかと思っての質問だった。

『それは無理ですね。そんな木剣、霊力に耐えられず木端微塵こっぱみじんになりますよ』

 だが、それはステラによってばっさりと否定された。

(そっかぁ……。じゃあ俺が普段使ってる鋼鉄製の剣なら?)

『無理です。木剣と大差ありません。そもそもあの刀以外で霊力に耐えられる武器なんて、この世界にはないと思いますが』

(そうなの!?)

『ええ。だからあの刀を持ち帰るように言ったんですよ』

(そうだったんだ……。じゃあ普通の武器はもう使えない?)

 確かに霊力と相性がいいとは言っていたが、それは普通の武器と比較して、という意味だとレオナルドは思っていた。だが、どうやらそうではなく、黒刀だけが特別だった、ということだ。

『霊力を流すのは無理です。まああなた自身が身体強化して振り回す分には普通の武器でもある程度はできると思いますが』

(なるほど……)

『私からもいいですか?』

 レオナルドが武器について考えていると、今度はステラから訊きたいことがあるようだった。

(うん。何?)

『あなたは最初から刀というものを知っていましたよね?でしたら刀が剣とは違う点も知っていますか?』

 ステラの問いで、前世の記憶を持つレオナルドの頭に真っ先に思い浮かんだのは居合、抜刀術だった。

「……正しいかはわからないけど……、厚みがあって両刃の剣とは違って、刀は片刃で剣よりも薄い。だから強度は剣の方が上?それと、剣は突くか叩き斬るって感じだけど、刀は斬ることに特化している、かな?」

『強度について気にする必要はありませんが、概ねその考えで大丈夫です。では今後の鍛錬は刀を使うことを想定して行ってください。あなたの主武器は刀なのですから』

 ステラの言うことはもっともだった。霊力による強化前提の話だが、強度に問題がないのなら一番の違いは片刃ということだろうか。確かに動きは少し変わってくる。

(そうだな。わかった)

 だからレオナルドは素直に了承した。それにステラが何だか積極的なように感じてレオナルドは嬉しかった。

『それと、魔物との実戦というのもしばらく控えた方がいいいでしょう』

(どうして?)

『アレンという人間の前で、霊力を使った戦闘を行えるのなら問題ありませんが、そうではないのでしょう?使える力をあえて使わず、命のかかった戦いをするのも鍛錬にはなるでしょうが、今のあなたの実力では変な癖がついてしまう可能性の方が高いです』

 ステラの歯に衣着せぬ言い方にレオナルドはぐうの音も出なかった。

 レオナルドは魔物と戦闘する際、かなり慎重になっている自覚はある。加えて、武器が刀だという想定で戦った場合を考えると、まだ動きに慣れていないため、より慎重になってしまうだろう。それが自分でもわかったのだ。

(……わかった。アレンに、実戦訓練はしばらく中止するって伝えるよ)


 こうして、今後レオナルドは、森での実戦訓練をやめ、黒刀を握っていることを想定したアレンとの鍛錬のみを行うことになった。



 ―――――あとがき――――――

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