第44話 三日目が終わるコト

 

 林間学校三日目の朝。

 

 目が覚めると、灘さんと相田さんの姿はなかった。

 無事に部屋に戻れたのかなと心配していると、湯川くんが起きてきた。


「マコくんおはよう! いやぁ、昨日は楽しかったけど俺だけ散々だった……ははは」


 朝から落ち込む湯川くんの姿がそこにはあった。


 でもなんだかテンションだけは高い気がする。


「でも良いんだ!! だってあの灘さんと夜の林間学校で一緒にイケナイコトしたから!! もうそれだけで嬉しい!! それにマコくんともなんか仲良くなれた気がするし、最高の思い出が出来た気がする!!」


 ニコニコしながら、そう話す湯川くんを見ていると、昨日の夜の申し訳なさが少し薄れる。


 でも確かに、最近は湯川くんに対してあんまり苦手とかって感じないかも。


 なんて思っていると、時刻が6時半を過ぎていることに気付く。


「ってもう7時前じゃん! 早く支度しないと!!」


「うわっ、ホントだ! 急げマコくん!!」


 そうして僕と湯川くんは急いで支度をして、朝食のあるホールに向かった。


 ーーーーーー

 

 ホールに向かうと、灘さんと相田さんが既に居た。

 灘さんだけなんか眠そうに目をパシパシさせながら、パンを食べてる。


「あ、おはようマコトくん。あたしはもう眠くて限界です」


「あはは、なんかなこちゃん夜全然眠れなかったみたいなんだよね」


「そ、そうなんだ」


 確かに、昨日僕が起きる前も起きてたみたいだし、眠れてなさそう……。


 そう思いながら、僕と湯川くんもテーブル席に着く。

 班でまとめて置いてあるお弁当箱の一つを手に取る。

 たまごサンドとジャムパンとサラダが入ってる。


「二人はよく寝れた??」


「僕はよく寝れたよ」


「俺も! ちょっとだけ寝足りないかもだけど」


 既に食べ終わってる相田さんが、僕達に話を聞いてくる。


「寝れたなら良かった。それで、雄太はあの後どんな感じだったの??」


 急に小声になりつつ、ニヤニヤした相田さんが湯川くんに話を振る。


「あの後は先生に少し怒られたあと、なんだかんだジュース買って貰えて、ついでにここ数年こういうことしてる生徒居ないからって先生達の前に呼ばれて、よく分からないけどお菓子とか貰えた」


「えぇ、なんかめっちゃ良いじゃん。怒られてるけど」


「だろ! 俺もビクビクしてたんだけど、先生達も酔ってるからか優しくて、教頭先生とか『最近はこういう子供少なくなったから嬉しい!! 僕嬉しい!!』とかって言ってたよ」


「じゃあお咎めなし??」


「そうなんじゃない?? それでその後しばらくしたら帰っていいよって言われて、部屋に帰ったし。今思うとこれも良い思い出だったかもしれない」


「だから湯川くん朝から元気だったんだ……」


「そう! マコくんなんか心配そうにしてたけど、俺超元気!」


 サムズアップをして笑顔でそう伝えてくる湯川くん。

 僕も安心しながら、手元のジャムパンを食べる。んまっ。


「じゃあ相田さんと灘さんはいつ部屋に戻ったの??」


「私達は朝の4時ごろにササッと部屋に戻ったよ! もちろんバレずにね!」


「そうだったんだ。じゃあ結果的にみんな楽しい思い出になって良かったね」


「うんうん。マコトくんの言う通り! これでなこちゃんだけ戻れば三日目も楽しくやれそうだね!」


 こうして四人で朝食を食べ終えると、あっという間に今日の野外授業の時間になった。


 ーーーーーー


 林間学校最後の野外授業は、渓流でのアユ釣りだった。

 

 僕達が釣る用のアユを川に放流して、それを釣るという内容。

 そして、自分で釣ったそのアユをそのままお昼に焼いて食べて終わるまでが今日の授業らしかった。


 今はみんなで釣りをしている。


「あ、なこちゃん竿の先引っ張られてるよ!!」


「え、あ! ホントだ!! んんーー中々釣れない!」


 灘さんはあれからすぐに元気になって、今は普段の灘さんになっている。

 なんかご飯を食べたら眠気がなくなったらしい……。


「マコくん釣れた?? 俺まだ全然釣れてなくてさ」


「僕もまだ釣れてないよ。あ、でも相田さんはもう二匹ぐらい釣れてたよ!」


「え!? マジ!?」


「マジだよ雄太、見てこれ!!」


「デカ!!」


 なんだかんだ仲の良い相田さんと湯川くんの会話を聞いていると、奥にいる灘さんが声を上げる。


「うわ! やっと釣れた!! みんな見てみて! 結構大きい!」


 そこには相田さんよりもひと回り大きい鮎が糸の先に付いている。


「うわ! なこちゃんの方が大きい!! 私ももう少し釣る!」


「え、じゃあ俺も早く釣る!!」


 そうして、相田さんと湯川くんがもっと奥の釣り場に行ってしまう。

 僕は灘さんの横で、さっきまでと同様に竿を振る。


「マコトくん見てみて! なんかもう一匹釣れた!」


「え、なこさんもう二匹目つれたの!?」


「うん、なんか一回釣れると釣りやすくなるね!」


「僕も早く釣らなくちゃ」


「焦らない方がいいよ! なんか焦るとそれが竿先の糸に伝わるんだって」


「そ、そうなんだ」


 なんて会話をしていると、僕の竿先もグンッと下がって、引っ張られる。

 振動が凄くて、思わず足が前に行ってしまう。


「お! マコトくんヒットだよ! って、マコトくん足踏ん張らないとダメだよ!」


「ええ、でももう力入らないよ……」


「あたしも一緒に引っ張る!」


 そう言って、灘さんが僕の手の上から一緒に竿を握る。


「じゃあせーのでひっぱり上げるよ? せーの!」


 一瞬アユの引っ張る力が弱まったタイミングで、一気に引き上げる。

 すると、一匹の魚が姿を表す。

 そこにはアユじゃない魚が付いてる。


「なにこれ」


「なんだろうね」


 そう思っていると、奥からガイドさんが走ってくる。

 一日目のガイドもしてくれた人だ。


「すごいね君たち!! それはイワナだよ!! 滅多に釣れないやつだよ!!」


「そ、そうなんだ」


「それで美味しいんですか!?」


「え、えっとだね、アユと比べちゃうと少し劣っちゃうかもしれない……。でもおじさんは大好きだよ!!」


「「そ、そうなんですか……」」」


 灘さんと僕が肩を落とすと、ガイドさんがまたこの魚の美味しさを語り出す。

 それを聞いていると、奥から相田さんと湯川くんが戻ってくる。


「マコくん見て! 俺も釣れたって、うわ! なにこの魚!」


「なになに?? うわ、すごい! マコトくんが釣ったの!? って、なんで二人はショック受けてるの??」


「いや、凄く嬉しかったんだけど、アユよりは美味しくないって聞いてね」


「そう、だから嬉しい気持ちと嬉しくない気持ち半々なんだ……」


「なんかマコトくんらしいね。それでなこちゃんも食べ物のことになると気分が激しいね……」


「でも君たち!! これはすごいことだしもっと元気になっていいんだよ! 煮付けも美味しいし、焼いて塩でも淡白な感じが絶品!!」


「てことはやっぱりこれレアな魚ってこと!?」


「そうだよキミ! しかもスーパーにも滅多に出回らないんだぞ! すごいだろ!?」


「ええマジ!?」


 そうして、湯川くんとガイドのおじさんが話で盛り上がってるうちに、野外授業が終わってしまった。


 アユとイワナは美味しかった。


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