第43話 秘密のコト


 灘さんと岩の後ろに身を隠しながら、僕は震えていた。


「怒らないから出てきなさい!!」


 男の人の野太い声が夜の森に響き渡る。


 ドキドキしながら灘さんの方を見ると、灘さんも目を見開きながら僕の方を見てる。

 だけど、その表情はどこか楽しそうでもある。

 すると、灘さんが囁くような声で、耳元に話しかけてくる。


「マコトくん、ヤバいね! 超ドキドキする!」


 僕は返事をせずに、うんうんと頷く。


「たぶんこの声は教頭先生だと思う。姿は見てないから分かんないけど……」


 そんな会話をしていると、ザッザッと歩いている音がだんだんと近づいてくる。


 思わず二人とも目を見合わせて、口に手を当てて固まる。


 すると、その足音が止まる。


「あれ、湯川くん?? どうしてここにいるんですか?」


 うわぁ、湯川くんがバレちゃった……! しかも、さっきまで怒ったような声だったのに、静かな感じで話してて余計に怖い……!!


「え、えっと飲み物が欲しくて」


「そもそもお小遣い禁止ですよ」


「あ」


「とりあえず今から先生達のところに来るように」


 教頭先生の言葉を最後に、聞こえてくる会話が終わり、湯川くんと教頭先生がどこかに歩いて行く音が聞こえる。


 そして、しばらくすると辺りがシーンと静まり返る。


 思わず肩を下ろしてため息を吐くと、灘さんと目が合う。

 

「ふぅ、危なかったねマコトくん。ドキドキが止まらなかったよ」


「う、うん。僕も。でも湯川くんが心配だ……」


「林間学校終わったらお詫びしなくちゃだね……」


「うん……。とりあえず今からはどうする??」


「うーん、こうなると先生の見回り多くなるかもだし、部屋に戻ろっか」


 そうして、僕と灘さんは急いで来た道を辿って、部屋に戻った。


 部屋の目の前ぐらいで、ちょうど相田さんとも合流した。


 ーーーーーー


 三人で物音を立てないように慎重に部屋に戻ると、一旦全員布団の中に入った。


 部屋には僕と湯川くんのしかなかったので、僕は一人で包まって、灘さんと相田さんは二人で一つのやつを使っていた。


「とりあえず、みんなお疲れ様! そして状況確認をしよ!」


 灘さんのその一言をきっかけに、僕たちはさっきまでにあったことを話し合った。


「ーーそれで私より先に走りながら雄太が向かったら、ちょうど教頭先生が居たみたいで、一人で捕まっちゃったの。私はまだ物陰に隠れてたからバレなかったけど、危なかった」


「それで湯川くん一人だったんだ。るみちゃんも大変だったね」


「うん、でも私からすると雄太が捕まったからには同じ部屋のマコトくんも怪しまれるんじゃないかなと思って……」


「ええ……。じゃあ二人が今ここにいるのも不味いんじゃ……?」


「そうなんだよね……。とりあえずるみちゃんと朝方に早く起きて部屋にこっそり戻る予定なんだけど、巡回が怖いよね」


「うん、だから私となこちゃんはこの部屋の押し入れで寝るのがいいと思う」


 そうして、僕たちは今からの夜のことを話し合うと、早速寝ることにした。


「あ、あとみんな明日は雄太に優しくしてあげようね。私たちのことも先生に話してたら容赦しないけど」


「「う、うん」」


 相田さんのその一言を最後に、僕たちは眠った。


 ーーーーー


 そうしてしばらくすると、さっきまでの走り回っていた記憶が蘇って、思わず僕は目を開けてしまった。

 さっきよりも強い月の光が、部屋に差し込んでる。


 眠れないなぁ。なんか、楽しさが残ってて、上手く寝れる気がしない。


 そんなことを思いながら起き上がると、灘さんが起きて窓の外を見ていた。

 そして僕が起きたことに気づくと、ふふっと笑う。


「あれ? マコトくんも起きちゃったんだ」


「う、うん。なんか眠れなくて」


「こんな夜中に起きるなんてイケナイコだね!」


「灘さんも起きてるじゃん……」


「ふふっそうだね。あたしも悪い子だ」


 静かな部屋で、小声でそう話し合う。

 よく見ると、押し入れの方に相田さんが寝ていて、隣の布団には湯川くんが寝ている。

 いつの間にか帰ってきてたんだ。


 そう思うと、灘さんが僕の近くに座る。


「なんか今日は楽しかったね。昼間もさっきも」


「うん……楽しかった」


「こんなに夜までドキドキしながら遊んだの初めてだったから、なんかワクワクしたなぁ」


「灘さんずっと楽しそうだったもんね。僕は怖くて少し不安が勝ってたけど……」


「マコトくんずっと緊張気味だったもんね。でもやっぱり、ダメなコトって楽しいなぁ〜〜って思った。もちろん見つかっちゃったらダメだけどさ」


「う、うん」


 そうして僕が頷くと、灘さんが肩を叩いてくる。

 振り向くと、灘さんが少しうつむきながら、僕の方を見ている。


「あのさマコトくん」


「な、なに??」


「今頃なんだけど、その、呼び方をなこにしてくれない??」


「え?」


 予想外の言葉に、思わず聞き返してしまう。


「その、いつも灘さんって呼んでくれるけど、少し他人行儀というか、なんか距離を感じるから……。呼び方はなこさんでもなこちゃんでもいいんだけど……」


 月明かりに照らされた灘さんの顔が少し赤く見える。

 僕も戸惑いながら、聞かれたことに答える。


「う、うん、そうだね。えっと、確かに灘さんだと友達っぽくないもんね……」


「うん」


「じゃあえっと、なこさん……ってこれからは呼ぶ、よ」


 僕がそういうと、満足げに灘さんが大きく頷く。


「分かった、じゃあ、とりあえずマコトくんあたしのこと呼んでみて」


「えーー。えっと、なこさん……」


「ふふっ、マコトくん顔真っ赤だよ」


「灘さんだって少し赤いよ!!」


「私は良いの!! ってもう灘さんに戻ってるじゃん!」


「うっ……なこさん……」


 そんな会話を20分ほどしてから、僕たちは再び寝た。


 僕が寝落ちる寸前、奥から「マコトくんおやすみ」って声がかすかに聞こえた気がした。


 

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