第30話 楽しいコトにも終わりがあるコト


 大きな照明に、ほんのり香る本のにおい。

 たくさんの手書きのポップと、色とりどりの本の冊子がガラス越しに並んでる。


 僕と灘さんは、池袋の大きな本屋さんの前に立っていた。

 

 目の前には、”九階もある夢のような大きさの本屋”さんがドーンと立ち構えていて、思わず見上げてしまう。


「ふぅ、今度は迷わず辿り着けてよかったね! でもこんなに大きい本屋さん初めて見た!」


「そうだね、近くで良かった……。確かに、僕も初めてみたけど本当に大きいね……」


 灘さんが買い物をした化粧品売り場の3階から、ビルを出て向かい側の道路にあって、二人とも迷わずに来れたけど、こんなに目立つ本屋さんだとは思ってなかった。


「じゃあ入ろ! 時間ないし!」


「う、うん」


 灘さんの一言を合図に、僕たちは中に入った。


 ーーーーーー


 中に入ると、フワッと冷たい空気に包まれて、心地よかった。


 そして、店内はとても静かで落ち着いた雰囲気だった。


 僕たちはそのまま奥に進んで、フロアガイドの付いてる看板の前に立った。


「すごい! 全部の階に違うジャンルの本が置いてあるって! へ〜〜。それでマコトくんはなんの本が目当てなの??」


「今日は漫画、かな。その、新しく出た漫画があるんだけど、それが欲しくて……。それでそれを買うと、限定の冊子が付くらしくて……」


「じゃあ漫画コーナーに行こう! えっと、うわ! 地下一階だってマコトくん!! すごいよ!!」


「え、ホントだ! じゃあ全部で十階なんだ……すごい」


 なるべく声を小さくしながらはしゃいで、僕たちはエスカレーターで下に行く。


 そして地下一階に着くと、ズラリと並んだ漫画や雑誌が視界のすみずみにまで置かれていた。


「うわぁ、本当に何でもあるねここ……! それでマコトくんが欲しいのどれ??」


「えっと、新刊の方にあると思う……」


 そう言いながら、最近出た漫画のコーナーに目を通してみる。


 すると、そこには大きな黄色いポップに赤い文字で『購入者限定特典付き!!』と書いてあるのが見え、その下に欲しい漫画が置いてある。


「あ、あった! 灘さんこれ!」


「おおっなんか凄そうだねこれ。えーっと、『暗殺一家パニクルパラライズ』?? とある暗殺一家が突如として崩壊した。それは家族内での鉄の掟である、血縁者の殺人未遂が起こったことがきっかけであった。そこから始まる家族間抗争。再び家族に戻ろうとするもの、家族を殺そうとするもの、それぞれの思惑が交差する。雇い主は誰なのか、何が目的なのか、何故真っ先に妹が狙われたのか。母や父、兄に追われながらも妹を守り、家族の寄りを戻そうとする主人公の物語。へー、なんか面白そう!!」


「でしょ! これが一巻なんだけど、話題になってたから欲しくて……。それで今買うと、この漫画のエピソードゼロとステッカーが付いてくるらしいんだ! ステッカーはランダム5種類のうちのどれか一つが入ってるらしいんだけど……」


「あ、この主人公と妹とかがステッカーになってるんだ! うわぁ、これは確かに可愛いかも! あ、このメイド姿のおじいさんもカッコいいかも。ええ、どうしよう、私も読みたいし買おうかな」


「あと、このキャラもカッコいいんだよ! 確か主人公の兄だったかな」


「うわ、悪そうな顔だけど超イケメンだ……。よし、決めた、私も買う!!」


 そうして僕達は漫画をレジに持って行って買った。

 レジ袋と一緒に、限定特典の冊子と、銀色で中身の分からない小袋をもらって、外に出た。


ーー


 外に出た僕達は、歩道の脇の広いスペースでステッカーの袋を開けた。


「じゃあ、いっせーので中身見よ!」


「う、うん。」


「いっせーっの! あ! 私のやつは妹だ! マコトくんは??」


「やった! 僕も主人公当たった!」


「おお〜! おめでとう! ふふっ、こうやって並べてみるとホントに可愛いね! せっかくだし写真撮ろ!」


 そう言って灘さんがスマホをかざして僕達の手元を映す。


「見て! 可愛く撮れた! なんか、こういうの楽しいね!」


「そうだね、大人みたい」


「だね! ダメなコトではないけど楽しい、って、あ! ヤバいよマコトくん!」


「うん?」


「帰る時間に間に合う電車もうすぐで出ちゃう!!」


「え!!」


 灘さんが焦った様子でそう言い放つと、あっけに取られた僕の手を握って走り出す。

 僕も慌てて走り出すと、そこから二人で息を切らしながら駅まで向かった。


 ーーーー


 コインロッカーからランドセルを出して、すぐに買った本もその中に詰め込んで、それからなんとか17時半過ぎには家に着ける電車に乗れた僕らは、ドアの入り口付近で二人で立って揺られていた。


「間に合って良かったねマコトくん。なんかドキドキしちゃった」


「そ、そうだね……」


「この漫画もリップも早く開けたいな〜〜」


「う、うん。僕も」


 満員電車の中でも普通に話しかけてくる灘さん。

 それに対して、僕は会話が聞かれるのが恥ずかしくて、どこかそっけなく返事を返してしまう。


 こういう時どうすればいいのかな、なんて思って全然話せないまま、30分経ち、駅に着いた。


 ーーーーーー


 駅に着いて外に出ると、夕日はあるものの、すっかり外が暗くなっていて、街灯の明かりもついていた。


 早く帰らなきゃ不味いなぁ。


「ふう〜到着!! 疲れたぁ。3時間ぐらいしか経ってないのに、なんか旅行に行ったみたいだったね」


「うん、でもなんか、すごく楽しかった」


「そうだね! 今度はもっと色んなところに行きたいかも」


 そう言いながら灘さんが、急に立ち止まる。


「あ、あのさマコトくん! 今から神社に行かない??」


 冷たい風がどこからか吹いてきた気がした。

 

 

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