リハーサル Bpart

 楽器屋銃砲店は港町から離れ、人気のない山のふもとに一軒あった。

 木造の建物で、森の中にひっそりとしている。


 ブリキは店の扉を開けた。

 店内に客の姿はない。


 店主らしき初老の男性が、椅子に座って本を読んでいた。

 男性は白い顎髭を蓄えており、太った体系をしている。


 店主がこちらを見ると、重い腰を上げて、


「いらっしゃい」


 と気さくに声をかけてくれた。


 ブリキが入店すると、アジサイも続いた。


 店内にはショーケースの中に様々な銃があった。

 実弾を使用しないレーザー銃から、ビームが出る剣まで取り扱っている。


 ブリキはカウンター前にいる店主の所に行く。

 カウンターはガラス張りのショーケースで、中には拳銃が展示されていた。

 店主が両手を叩いて訊いてきた。


「何をお探しで?」


「M十九式十一型は無いですか?」


「済まねえが、大陸の銃は取り扱って無いんだ」


「そうですか、では四十五口径の銃を探しています」


「四十五口径ですか、でしたら当店おススメ商品は・・・・・・」


 カウンターから一丁の拳銃を取り出した。


「連邦共和国製のHK四十五式自動拳銃。弾倉は十発で薬室込みで十一発。ご所望でしたM十九式十一型よりも、こちらの方が弾数が多いです。カスタム用の延長ロングバレルを最初から組み込んであるので、サプレッサーやコンペンセータなどオプションが装備可能です。聞き手を選ばないアンビなので、マガジン操作がどちらでも出来ます」


 店主の解説を訊きながら、ブリキは銃を手に取る。

 スライドを引いて、チャンバー内を確かめている。


「マガジンは無いのですか? 着脱の動作を確かめたいのですが」


「購入前のマガジンの装着は遠慮させてる。販売時には渡しますので」


 ブリキは不満そうに、鼻息を吹かす。


「軽いですね。まるで玩具みたいです」


 ブリキは銃をカウンターに置いた。


「お気に召しませんでしたか?」


「悪くはないですが・・・・・・」


「ならばこちらは如何でしょうか」


 今度は奇妙な形の銃を取り出した。

 拳銃よりも一回り大きく、マガジンの弾丸を薬室に送るスライドもない。

 その他にも、普通の拳銃には無いパーツが備わっていた。


「MP九式は如何でしょう。四十五口径ですと十五発の弾薬が装填可能です。その他にも標準装備でフォアグリップとピカティニーレイル、ホールドり畳みストックなど、状況に合わせた撃ち方が特徴です。そしてなにより、九ミリ弾薬を使用すれば、三十発も撃てますよ」


 ブリキは折り畳まれたストックを展開して、両手で構えた。


「どうでしょうか?」


「良い銃だと思います。でも私が欲しいのは拳銃なので」


 そう言うと、先ほどの銃と同じようにカウンターに置いた。


「御客さん。宜しければ四十五口径よりも、九ミリの拳銃に変えてみませんか?」


 そう言うと店主は嬉しそうに、二丁の銃を取り出した。

 両方とも外見は似ていた。違うとすれば、片方はトリガーガードの前に折りたたみ式のフォアグリップと、延長ロングバレルが備わっていた。


「こちら我が国の名銃であるM九式とM九式三型です。装弾数は十五発、ロングマガジンを使えば二十発装填可能。四十五口径と違って、九ミリ弾薬なので反動が少ないのと、弾数が多いが特徴です。それに九ミリ弾は、あらゆる土地で入手しやすく、何より価格が安い。そして、こちらのM九式三型は一度の引き金で、三発連射の三点バーストが可能です。このフォアグリップを握ることで、連射時の反動を抑える事も出来ます。この機にどうですか?」


「これカッコいいですね!」


 ここまで黙っていた見ていたアジサイが、M九式三型をゆびさして興味を示した。


「お嬢ちゃん、お目が高いね! 持ってみるかい?」


 店主は更に上機嫌になった。


「良いんですか? わたし銃なんて、一回しか持ったことないですし」


「まあ弾薬は入ってないし、引き金さえ指を掛けなかったら大丈夫だよ」


 そういうと店主はM九式三型の持ち手を、アジサイに向けた。


「では、ほほお――――とても軽いです」


 アジサイは拳銃をダンベルみたいに上下に振る。


「アジサイ。気に入ったなら、それにしましょう」


「えっ、今日はブリキさんの拳銃を買いに来たんじゃあ?」


「今日は私だけじゃなく、貴方のモノも選びに来ました」


「本当に良いんですか? でも、わたし、お金持ってないですし・・・・・・」


「えっ、御客さん。お金持ってないの⁉」


 店主が怪訝そうな顔をする。


「いいえ、その点につきましては、大丈夫なので安心してください」


 ブリキは間髪入れず、訂正した。

 だが、店主は疑いの眼差しを向けている。


「すまないが店主、私は高威力の弾丸を好むのだ。確かに九ミリは実用的だが、今回は遠慮しておくよ」


「ああ、そうかい」


 店主は機嫌悪そうな態度になっていく。


「だったら五十口径リボルバーはどうだ。あれなら――――」


「リボルバーは装填が面倒ですし、弾数も少ない。それに、その弾丸は非常に高価です」


「だったら何が欲しいんだよ! お前はッ‼」


 店主はついにキレた。

 その声にアジサイは後ろに下がった。


「さっきから違う違うだの、お前の欲しいのが分かんねえんだよ!」


「私は最初から言いましたよ。欲しいのはM十九式十一型、四十五口径の弾丸を使用して、弾数は七発。それ以上でも、それ以下でもない、七発だけです」


「だから無いって言ってるだろう! このタボがッ!!」


 店主の怒りは徐々にヒートアップするも、反対にブリキは冷静であった。


「わかりました。では、M十九式十一型のクローン銃はありませんか?」


「クローン銃だと?」


 店主はブリキを睨む。

 ブリキの後ろで縮こまっていたアジサイが小さな声で訊いてきた。


「クローン銃って何ですか?」


「コピー品の事です。本家より外見や内装が変わってたりとしてますが、大体は共通している事が多いです。例えるなら、版権の切れた商品を他企業が独自に作ったということです」


 とブリキは簡単に説明した。


「それなら置いてませんか?」


 ブリキは再度、店主に申し出た。

 店主は頭をかきながら、何かを思い出した。


「あったとしても、お勧めしないぞ。アレは実用向けではなく、観賞用だからな」


「それでも構いません」


 店主は、悪態をつきながらカウンターから離れた。

 ブリキたちを置いて、店の奥にある物置部屋へと入っていった。


 店主の姿が見えなくなると、ブリキはカウンターの上に置かれたままのHK四十五自動拳銃を、もう一度手に取っていた。


「怒らせちゃったようですね」


 アジサイが小さな声で訊いてきた。


「良くあることです。それよりも、その銃が気に入ったんですね」


「ええ、デザインが他の銃と違って、オシャレで良いなと」


「なら、その銃は大切に使いなさいね」


 ブリキは手に取ったHK四十五のスライドを奥まで引ききった。

 スライドストップのピンを外し、スライドを前に戻すと、本体から分離した。

 更にスライドからバレルを取り出す。


ちなみに先程、お金の事は大丈夫と言いましたが、アレは嘘です」


「やっぱり、持ち合わせが無かったんですね。どうするのですか?」


 ブリキは腰ベルトのマグポーチから、四十五口径の弾薬が装填されたマガジンを取り出した。

 親指で弾薬を一発だけ取り出し、マガジンを元のマグポーチにしまった。

 取り出した弾薬をバレルに直接装填。


「金がない時、どうやって手に入れるか分かりますか?」


「なんですか、なぞなぞですか? えっと、クーポンとか無料券で手に入れるですかね……」


「商品が手に入るまで、考えておきなさい」


 そう言うと、分解した逆の手順でHK四十五を組み立て直した。

 それを腰の後ろに、ズボンの内側に挟んで隠した。


「もしかして、そうやって盗む気ですか?」


「さあね」


 ブリキは不気味な笑みで返した。


 程なくして奥から戻ってきた店主が木箱を両手に抱えていた。


 アジサイはカウンターに置かれた拳銃を手に持って、スペースを空けた。

 店主はそこに木箱を置く。

 木箱には双頭のドラゴンが描かれていた。


 店主は木箱を開けると、中から銀色のフレームをしたM十九式十一型があった。

 ブリキはその銃を手に取ると、すぐに違和感があった。


「これは……」


 ブリキが手にしたのは、M十九式十一型の外見に酷似はしているが、全くの別物であった。


 その拳銃は、M十九式十一型を二丁、横に連結した形状をしていた。


 無論、二丁が合体しているので、銃口は二つあり、マガジンの挿入口も二つある。

 それ以外は、ただ幅がデカくなったM十九式十一型である。


 このような銃があったのか、というぐらいにブリキは驚きのあまり、疑問の言葉に出てしまった。


だ」


 店主がそう言うと、解説を続けた。


「見ての通り、M十九式十一型を二つ張合わせた構造をしている。一度の引き金で二発同時に発射可能。名前の由来は銃口が二つだから、双頭のドラゴンであるから来ている。製造は我が国だが、ほぼ記念モデルだ。さっきも言った通り、実用的では無い」


 ブリキはこれまでに無いぐらい操作性を確認した。


「マガジンは既存のモノでも使えますか?」


「専用のマガジンもあるが、M十九式十一型のマガジンでも可能だ。だから、弾数もご所望通り七発だが、二発同時発射なので合計で十四発の弾丸を発射可能だ」


「気に入った。これにしましょう」


 ブリキは腰ベルトのマガジンポーチから、持っていたM十九式十一型のマガジンを一本取り出した。


 マガジンには四十五口径の弾薬が装填されている。

 マガジンを左手で装填した。


 店主が慌てて、


「ちょっと! 勝手に何をやってんだ!」


 と制止しようと、カウンターから身を乗り出してスライドを掴んだ。


 スライドを引かせないようにすれば、空の薬室に弾薬を込めることは出来ない。

 つまりは発射できない状態なのだ。


 だが、その判断は間違っていたと、気付くのに遅すぎたのだ。

 むしろ、判断を鈍らせて、ブリキに近づき過ぎてしまった。


 静寂だった森に一発の銃声が響いた。

 その音に驚いた鳥たちが、一斉に飛び出す。


 密室に硝煙の匂いが充満する。


 無論、手で掴んでいるアンフィスバエナからではない。


 ブリキの左手には、隠していたHK四十五を腰の位置で構えていた。


 その銃口から硝煙が立ち込めていた。

 マガジンは入ってないはずだが、現に発砲したのは間違いない。


 ショウケースの上にボタボタと滴る音がした。

 突如、店主は自分の喉元が熱く、息苦しさを感じ始めた。

 喉元を手で確認すると、生暖かい感触に悪寒が走る。

 手を見ると、真っ赤に染まっていた。


 どうやら弾丸は店主の喉に命中していたのだ。

 店主は力が抜けるように、カウンターに倒れ込む。


 ショーケースのガラスに血が広がって行く。

 店主は口から血を吹き出しながら、


「薬室に直接、弾を……込めたのか……」


 最後の力を振り絞って、ブリキの服を掴んだ。


 ブリキはアンフィスバエナのスライドを引いた。

 店主の顔に銃口を向け、トリガーを引いた。


 弾丸の威力で、目と鼻周りを吹き飛ばし、顔面が崩壊する。

 頭部を貫通した弾丸と共に、脳みその肉片が飛び散った。

 店主の身体は、一定間隔の痙攣を起こし、そしてピクリとも動かなくなった


 振り返ったブリキは、アジサイに訊いた。


「先程のなぞなぞは解けましたか? 持ち合わせが無くても手に入る方法とは何なのか」


「えっと、、ですか?」


「正解です。支払うよりも、奪う方が気持ちいですからね」




 作者からの解説。

 本作品に登場する銃のモデル

【M十九式十一型自動拳銃】米国のM1911 

 御爺ちゃんが撃ってた


【ブリキのカスタム自動小銃:M十四式自動小銃】M14ウッドストックVer ベトナム留学生が撃ってた。


【HK四十五自動拳銃】ドイツのHK45 ジョン・ウィックの影響


【MP九短機関銃】スイスのMP9 バイオで撃ちますね!


【M九式自動拳銃】イタリアのM9A1 バイオで撃ち以下略


【M九式三型自動拳銃】イタリアのM93R バイオ以下略


【アンフィスバエナ:水平二連拳銃】イタリアのAF2011 この作品を書く上で、一番出したかった銃

 マカロニウエスタンにはイタリア銃


 続報、Cpartでは更に沢山の銃が登場します。

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