0001・プロローグ




 「うひひひひ、ウヒッ! これでようやく……ようやく復讐が叶う。今までどれだけボ、ボクが我慢してきたと思ってるんだ……! ひひひひひ。こんな世界、滅んでしまえ」



 ここはとある建物の中。不気味に笑う男の前には透明な円筒形の容器があり、中は異様な粘液で満たされていた。


 その中には握り拳大の大きさで蠢く肉塊が浮いており、その気持ち悪さは醜悪と言っていい程であった。



 「ひひひひ……。これから多くの肉を喰わせれば、コイツは必ずこの星を滅ぼす怪物になる。ボクを軽んじて無視したゴミ共ごと、滅んでしま……えっ!?」



 突然、不気味な男の目の前が光輝くと、その光は建物を覆いつくし、そして建物ごと全てを消し去ってしまった。


 それは何処かの世界で起きた不可思議な現象。その目的は不明ながらも、未曾有の災害は防がれた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「………」


 「……うん? ………んーーーーー? 何だコレ。 唯の肉塊……じゃないな。そもそも私達が居る神界に、肉がある事もさる事ながら……コレ、肉の癖に思考してるじゃないか。こんな醜悪なも……まさか、コレが【世界】の”答え”なのか? 勘弁してくれよ」


 「………」


 「コレ絶対に何処かの世界で廃棄処分された物でしょうよ。これを下界の干渉用に使えって? いやいや、それは流石に……いや、待てよ? 時間なんて無限にあるんだし、コイツを教育した方が上手くいくって事かな? ……だとすると、皆に手伝ってもらうか」



 肉の塊を見ながらブツブツと喋る神々しいナニカが居る。そう、ここは神界と呼ばれる場所であり、ブツブツ呟いているのは知的生命体の居る惑星などでは神と呼ばれる存在である。


 この神の上には【世界】と呼ばれる遥か高次元の存在があり、それに対して神は、ある要求をしていた。それは知的生命体の居る星に対して干渉する為の権限、または間接的に干渉させる下位存在の創造である。


 ところが、この要求に対して【世界】が応えた結果こそ、とある世界の不気味な男が作り上げた肉塊であった。生まれた星を滅ぼす為に作り上げられた肉塊は、肉であるにも関わらず、思考し、消化し、吸収し、動き、人のように五感を持っていた。


 コレは無限に喰い荒らしながら増殖し続ける、思考する怪物である。そんな存在を何故【世界】が神に与えたのかは分からない。なぜなら【世界】という存在には、神も易々とは問う事が出来ないからだ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 「それで”あの子”への教育はどんな感じ? こっちとしては最低限の倫理感は与えたけど………」


 「こっちは捕食行動を抑えている最中だな。いきなり行動してくるので、力加減を間違えて少し消し飛ばしてしまった。今は<創造>のが魔物を生み出して食べさせてくれている」


 「やっぱり本能剥き出しだね~。コレを教育するのは時間が掛かるよ。面白いから良いんだけどさー。あと<空間>のに話を通しておいたから、コレの本体用の空間を確保出来ると思う」


 「なら次は知識かな? それと共に倫理感もバージョンアップしていくのが望ましいね。一足飛びにやろうとするのは、人間種と同じぐらい愚かな事だからね」


 「………」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 「うん。大分進んだと思うけど、どう? こっちのやるべき事は終わったんだけど………なんで<肉>は男性の姿なの? この前は女性だったよね?」


 「潜入とか色んな事があるかもしれないから、どっちもの姿になれた方が良いんじゃない? って<戦い>のが言ってやらせてる。普段は女性の姿なんじゃないの? <肉>もその方が馬鹿が引っ掛かるって覚えたし」


 「まあ、それなら良いんだけどさ。<肉>には下界の星々のゴミを処理してもらわなきゃ困るんだから、なるべくクズが引っ掛かる様にしてもらわないとね。ところで<肉>! 気分はどうだい?」


 「別に………」


 「まだ上手く言語を扱えないのかな? 質問の答えになってないけど……<肉>って何だかんだと言って、思考能力高かったよね?」


 「面倒だから話す気ないんじゃない? <死>のは<肉>で実験し過ぎなんだよ。痛覚も一応あるんだからさ、嫌われてるんじゃないの?」


 「<肉>ーーーーっ!! 神を嫌うなんて許されないぞーーっ!!」


 「<死>のはまず、そのノリをどうにかするべきじゃないかな? 神らしく無さ過ぎるんだよ」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 「さて。そろそろ<肉>を最初の星に下ろす時が来たんだけど、大丈夫?」


 「大丈夫、大丈夫。問題なんて無し。……っていうより、何回もチェックしたでしょうが。服とか武器とかも向こうに転送するし、全く問題無い。さっさと下ろして間引きを始めてもらわないと困るし」


 「そうだな。いい加減、あのクズどもも見飽きた。我が物顔をして星を汚しおって。あまつさえ、我等が別の星から介入させた者を奴隷にしおったからな。今までそんな事ばかりぞ。<肉>、我等の代わりに鉄槌を下してこい!」


 「ん」


 「相変わらず無口というか、最低限の言葉しか喋らないね。まあ、人間種というゴミどもを間引きしてくれれば、それで良いんだけどさ。じゃあ、そろそろ1つ目の星に送るから。あと、<肉>はこれからミクって呼ぶから覚えておくように」


 「ミク……?」


 「ミート・クリーチャー。略してミク。<肉>を表すにはシンプルなのが1番よ。それじゃあ、頑張って喰らってきなさい。間引きが終わったら一旦戻すから。それまでクズどもの攻撃で死なないようにね!」


 「ん……【スキル】には気を付ける」


 「それだけ分かってれば十分だ。後は実際にミクが経験する事だからな。お前の本体はあの空間にある。故に寿命も死も無い。頑張って喰らってこい」


 「……行ってくる」



 肉と呼ばれていた存在は<ミク>という名を与えられ、この世界に数多ある宇宙、その一つにある知的生命体が住む星へと送られた。彼女の存在理由は間引き。


 神々に仇なす愚か者の間引きこそが、彼女が一度滅び、そして創られた理由である。


 彼女の旅路がこれからどうなるのかは、神々も含め誰にも分からない。


 されど………怪物の歴史はここから始まる。

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