第8話

「デートって何をするの?」


誰もいない道を2人で歩いていると、アメが不思議そうに尋ねる。


俺はビシッと答えてあげたかったが、かく言う俺も恋人という存在を作ったことがないので、必然的にデートの経験がさっぱり無い。


強いて言うなら、好きな人同士が一緒に出かける位の認識しかない。


幸四郎なら……いや、あいつもきっとデートはしたことがないだろう。


そもそも、幸四郎が人間に優しく接しているところを見たことがない。


それどころか、ここ最近は幸四郎が出かけているのを見たことがない。


「もしかして、いづもも知らない?」


「悪い。そういう経験がなくてな。」


「ん〜、じゃあどうしよっか。」


数秒間、2人の間に沈黙が流れる。


俺は、何か策がないか思案するが、大した案が出るような経験豊富な脳みそを持ち合わせていなかった。


「取り敢えず歩くか?」


俺はアメの顔を伺いながら苦笑する。


「そうだね。」


彼女も困った顔で頷いた。


まるで廃墟のような街を2人の足音が響き、反響する。


「いづもは、雨が降るとどう思う?」


アメが前を向いたまま俺に聞く。


「嫌いじゃないけど、好きにもなれないな。」


「そう。ありがと」


そういう彼女の横顔は少し満足そうだった。


「なんで、そんなこと聞くんだ?」


「なんでだと思う?」


アメが質問に質問で返す。


「……アメが、無色雨と関係があるからか?」


「ん〜、まぁ遠からずってところかな。正解は、私の本質にかかわるから、かな」


いまいち彼女の言っていることが、理解できないがデートだから気分を害すのもいかがなものかと思い、鵜呑みにした。


会話が途切れかけたところで、今度は俺が尋ねる。


「アメは何処から来たんだ?」


「さぁ。覚えてない。気づいたら彷徨ってた。」


「それって海辺だったか?」


「えぇっと……そうだったかも。でもなんで?」


「いや、なんとなくそう思っただけだ。」


嘘だ。


以前幸四郎から講義のように聞かされた無色雨の研究内容の中に、初めての観測と思われる場所が、旧静岡県の伊豆半島だったことを思い出したからだ。


アメが無色雨とイコールの関係ならアメが生まれた場所もそこということになる。


とはいえ、それを知ったところで何が出来るわけでもないのは変わらない。


俺の頭脳じゃ足りない。


とりあえず今はもっとアメについて知らなければ。


俺にできるのは観察だけだ。


そう思い、俺は隣を歩くアメの横顔を目の端でじっと見つめた。


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