第5話

俺は、混乱した頭を落ち着けるため、瞼をおろす。


すぅぅぅ、はぁぁぁぁぁ。


落ち着け、どうってことない。幸四郎の銃が分解され、アカリを名乗る女性が突然背後に現れた。それから投げ飛ばしたと思ったら、天井に張り付いた。そういうものだ。。世界の見え方が変わっただけ。いつものことだ・・・


「シャッッッ!!」


俺は自分の両頬を思いっきりひっぱたく。


歪んで、曲がった心の芯のようなものがピンと伸びる。


「アカリさん、いきなり攻撃したことは申し訳なかったです。でも、最近こっちもピリピリしてて……怪しい動きされると、正直困るっていうか。」


「あら、そうだったのね。私もついつい楽しくなっちゃって。ごめんなさいね」


さも分かっていたかのように、そういいながら、ひらりと天井から飛び降りるアカリさん。


「私も、そのについて、用があったの。忘れてたわ」


俺と幸四郎は顔を見合わせる。


「その、用とは?」


アカリさんは細くきれいな人差し指を上にたてる。


「ふふっ、わかってるはずでしょう」


その時、幸四郎が俺とアカリさんの間に割って入る。


「あんたが非科学的な力を有していることは、理解した」


おぉ、幸四郎がこんなにもすんなりと非化学を認めるなんて・・・・成長したわッ


「納得はしてないがな」


幸四郎が、見透かしたような目で俺を一瞥する。


「で、あんたは何ができるんだ」


「私は何もしないし、できないわ。ただ、ヒントをあげるわ」


上にあげていた人差し指を唇に当てるアカリさん


「幸四郎くん、君は白衣を脱ぎなさい。いづもくん、君は外に出なさい」


「俺、そんなに引きこもってたかな?」


「ふふっ、そういうわけだから、よろしくね。──おふたりとも。」


パンッ、と手を鳴らし静かにほほ笑むアカリさん。


真意の見えない笑顔のままアカリさんは俺を捉え、手を招く。


俺?


俺はほんの5歩の距離を、ためらいがちに1歩、詰める。


音もなく影が揺れるようにアカリさんが4歩分、距離を詰める。


アカリさんの唇が耳元をくすぐる。


「上を向いて歩くことも大切だけど、上ばかり向いてたら、本質を見失うわ。見える本質はきっと君の魂を変えるようなものかもしれない。でも、惑わされないで。きちんとのよ。」


じゃあね、と一歩離れて手を振るアカリさん。


その瞬間、跡形もなく、闇に呑まれて消えた。




数分の静寂。



「気に食わない」


ぽつりと幸四郎がこぼす。


「・・・なにが?」


「そんなの決まってるだろ、今起きた全てだ」


「人が突然現れたり、天井に着地したり、影にのまれて消えたりすること?」


幸四郎が苦虫をつぶしたような顔でため息をつく。


「逆にお前は、なぜそんなに冷静になれるんだ」


「いや、だって、実際目の前ですごいことが起きてて、それが、現実だったんだから、しょうがないじゃん」


「……“しょうがない”で片付けるなよ」


いや、そもそも無色雨だって、科学的じゃない。って言ったら幸四郎が不貞腐れそうだからやめておこう。




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