第4話

ピンポーン


ピンポーン


雨が降り続くある日の暮れ、突然、研究室の呼び鈴が鳴った。


幸四郎が腕時計に目を落す


「いずも、誰か呼んだのか?」


俺は、一瞬ためらい、静かに首を横に振った。


「・・・また気象庁の人?」


俺はインターホンの応答ボタンを押す。


しかし、画面にはしとしとと降る雨粒だけが映る。


「誰もいないんだけど」


俺は、なんとなく背筋が寒くなったような気がしつつ、研究室の扉に目を向ける。


そこには、いつも通りの変哲のないドアが佇んでいる。


「気のせいか・・・」


幸四郎も不審に思ったのか、パソコンの画面を防犯カメラ映像に切り替えている。


だだっ広い研究室の各所に付けられた防犯カメラの映像を流れるように確認していく。


カチッカチッカチッカチッ


「・・・誰も来てないな、どうせ何処かのガキのいたずらだろ」


幸四郎はパソコンを元の研究資料に戻す。


「そうか・・・・」


俺はなぜか震える指先を意識しないようにポケットの中に突っ込んだ。


トントントントン


突然音を挙げた扉に、俺も幸四郎も肩を跳ねる。


トントントントン


俺は幸四郎と目線を交わすと、幸四郎は浅く頷き、引き出しからテーザー銃を取り出し、扉に向ける。


「あらあら。せっかくの訪問者に、テーザー銃を向けるなんて――なんて無粋なこと」


扉の向こうで体の芯に響くような凛とした声が、まるで部屋の中を見ているかのように語りかける。


俺は驚いて幸四郎の方を向く、幸四郎は物凄い見幕でトリガーに指をかける。


「はぁ、困ったわ。しょうがないわね」


突然、幸四郎のもつテーザー銃がバラバラと分解されていく。


十秒もしないうちに、幸四郎の手にはグリップだけが残された。


俺たちは何もできないまま、扉が開かれるのを待つ。


「あらあら、もう終わり?稀代の科学者の名はこの程度と・・・ふふっ」


まるで誰かがその場にいるかのように、幸四郎の着ていた白衣の襟が正される。


「チッ、なめんなよ」


幸四郎がパソコンに向かってコードを打ち込む。


その瞬間、部屋に待機していた大量のドローンが音を立て浮かび上がり、扉の前に整列する。


「どこの誰だか知らないが、ここまでカメラに映らず入ってこれたことは褒めてやらんでもない。それとテーザー銃の件は詳しく話を聞かせてもらうぞ。目を覚ました後になッ」


Enterを弾くのと同時に、扉に向かってドローンが何かを放射する。


しかし、扉の向こうでは何の反応もない。


「『私マリーさん、今あなたの後ろにいるの』なんちゃって。ふふっ」


俺の首筋に氷のように冷たい指がまるで銃のように突きつけられる。


「なッ!」


幸四郎がUFOを見たような顔でこちらを見る。


俺は、とっさに体をひねり突きつけられていた指を腕ごと抱え、背負い投げの要領で宙に放り投げる。


視界の端をかすめたのは、漆黒の着物をひるがえし、困り顔の“お姉さん”が宙を舞う姿だった。


「あら、乱暴なお人」


そういうとお姉さんは着地する。


「お初目にかかります。わたくし、阿部家当主補佐、阿部明あべあかりと申します。よろしく」


ふふっ、と笑いながら天井で丁寧にお辞儀をするアカリさん。


きっと彼女の目には、俺たちの顔が、豆鉄砲でも食らった鳩のように映っていたに違いない。

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