第2話

「最近雨多いよな」


「ああ。本当に困るな。避難勧告もそうやすやすと出せるものではないのだがな」


何やら大きな装置の前で話す二人組の男。


片方は目にVRゴーグルのようなものをつけて窓から空を眺めている。


その隣で眼鏡に白衣姿の男が、モニターに映し出された衛星画像を、手元にあるパソコンと見比べ、さらにその隣のパソコンに書き込む。


白衣の男がEnterを弾くと、部屋の奥にひっそりと置かれた四角い機材からメモリスティックが吐き出される。


窓を見ていた男がゴーグルを外し、メモリスティックを手に取る。


「いつものところに頼む」そう言いながら、白衣の男はポケットから携帯を取り出し、耳に当てる。


ゴーグルを着けていた男は部屋の壁に取り付けられた、電子パネルに手のひらをかざす。


数秒の間の後、壁の一部がプシュウという音と共に開帳する。


「おーだー、メモリの読み取り、りりーす、えんど」


そう言った後、男は壁にメモリスティックを挿入する。


ギィインゴォオンガァアンゴォオン


錆びきった鉄を擦り合わせたようなチャイムが町中に広がった。


いや、正確には日本中に響き渡った。


日本中が静まり返ったような雰囲気が伝播する。


鐘の余韻を無視して、機械質な声が淡々と発せられる。


『こちらは、無色雨むしょくう対策研究室です。本日の予報の時間です。北海道北部、東北南部、関東北部、九州南部、沖縄県全土、に、該当する地域の人は無色雨にご注意ください。外出は控え、急用の際は、30分以上雨に当たらないよう心掛けてください。』


ギィインゴォオンガァアンゴォオン


再び響いた鐘を合図に、日本中が数刻前の騒がしさに戻る。


「大丈夫そうだな」


そういうと、男は壁からメモリスティックを引き抜き、そのままごみ箱に投げ入れる。


「お願いだから、外出しないでくれよ」


そういって空を見上げる男の右目は、まるで虹色のビー玉に光を当てたようにキラキラと虹色にゆらめいていた。


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