23:アオイちゃんと樹里は会談に臨む

 「女神」が作ったというダンジョン。

 ただし、今は探索者が出入りして、採集されたものが売却され経済をまわしている。

 俺たちは一応は商人を名乗っているし、その辺の情報を集めることにした。


 聞いたこともない自称商人に、まともな商人を紹介してもらえるとは思わなかったが、そこは樹里の能力が存分に発揮された。

 能力と言っても、魔法や超能力を使ったわけではなく、交渉術である。

 俺一人なら偽商人だとすぐにバレてしまうだろうが、樹里の話を聞いていると本当に商売の種を探している気になってしまう。

 まぁ、全く嘘ってわけでもないんだ。ただ、自分に商人が務まる気がしないだけで。


「はじめまして、私はエーコー商会の代表シキと申す。いやいや、それにしてもすばらしいお召し物でございますな」

「ははは。宣伝のつもりで羽織ってるんですよ」


 管理組合の隣の食堂で対面したのは、ダンジョン産の素材を扱う商会の代表だった。

 別に、そこまでのお偉いさんを希望したわけじゃなかったのだが、たまたま用があって来ていたらしい。


「ダンジョン産の素材は、管理組合経由で我々商会が買い取っている。貴殿らも参加したい…ということかな?」

「いえ…」

「ボクたちはザワート国内のタイゾウダンジョンの産品を扱おうかと考えています。あちらは魔物が強く、まだ奥に入れる者も限られているのですが、余所のダンジョンの話は参考になるだろうと思いまして」

「なるほど、タイゾウダンジョンですか」


 シキ氏はタイゾウダンジョンの存在も知っていた。

 というか、タイゾウタイゾウって、誰かの名前を連呼してるみたいで違和感半端ないんだが、樹里はよく笑わずに話せるもんだ。


「我々はここのダンジョン産の素材を、五つのランクに分けているのだ。入手しやすい素材はランク1から3までで、これはまぁ、誰でも採れる」

「誰でも…とは、たとえばボクたちや貴殿でも…ですか?」

「ああ。ランク1は鉱物を掘り出すだけだからね」

「なるほど…、では貴殿が高く買い取るものというのは?」


 そこでシキ氏は、こちらを覗きこむような目に。


「ふむ。……ランク6以上だな。というか、君たちはそんなことも知らずにタイゾウダンジョン産を扱おうというのか?」

「ええ。採集してくれる人たちにはアテがあるものですから」

「ほほう、それは興味深いな」


 樹里は案外あっさり手の内を明かすんだな。

 いや、そもそも架空の商会だってのを忘れてないだろうな。


「一度だけ、タチマ王国の勇者様といわれる方が討伐したという魔物を見たことがある。二本脚で歩くという大きな豚だ」

「ああ、確かオークとかいう」

「ご存じか。あれはランク10と認定された。君たちに望むのも無茶な話だが、タイゾウダンジョンは数年に一度ランク7の素材が採れる貴重な場だ。君たちが本格的に動くというなら、援助は惜しまないぞ」

「はははっ。ボクたちが期待に沿えるかは分からないけど、連絡先は交換しようか」


 俺たちが素人なのはバレているにも関わらず、シキ氏はちゃんと配下を呼んで、書面で契約を交わす。

 契約といっても、ただ友誼を結ぶというだけだ。

 たったそれだけのことに書面なんて使うか?




「もしかして、ボクたちの素性、バレてる?」


 シキ氏と別れ、組合から離れた街外れに近い食堂に入ると、樹里が楽しそうに話し始める。

 いわく、最初から俺たちをただの商人だとは思っていなかった、と。


「俺たちが商人じゃないのは、本業ならすぐ気づくだろ」

「あれは分かってるよ。……少なくとも、ボクたちが追放されたことを」

「…………」


 格好良く謎めいた台詞を吐きながら、樹里はさっきから麺料理を食べまくっている。

 ソデラ周辺は稲作が盛ん。ただし炊飯して食べることはあまりなく、もっぱら粉にするのでこの店の名物も米粉麺だった。


 まぁ、どうでもいいことだ。


 俺たちが追放されたことは、特に宣伝してはいないだろうが隠してもいない。

 「女神」の消失はまだ機密事項だが、魔王の復活は普通に知られているし、その魔王がザワート大公国から旅に出たことも秘密ではない。

 そして、商会を名乗る怪しい二人組が、アーラの高級宿に泊まったことだって、商人のネットワークを通じて広まっているのだろう。


「これ以上目立たないよう、少しは自重するか」

「アオイがそんなこと思うわけないよ」


 口先だけは無難な選択肢を示してみたが、樹里には軽く笑い飛ばされた。

 まぁそうだな。


 樹里と追放ぶらり旅を楽しんでいるんだ。

 自重なんてしない、勝手にやるだけさ。





※第1章完結という形になります。ご愛読ありがとうございました。

 漫遊記を続けることも考えたのですが、あまり気分が乗らなかったので別方向で続編を準備中です。

 ノクターンでは別作品「彼女ダンジョンは長身巨乳になりたい」掲載中です。こちらもいったん完結しましたが、2024年7月のうちに連載再開予定ですので、18禁に抵抗がなければ御覧ください。

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帰ってきた魔王と異世界押し掛け女房、追放ぶらり旅 udg @udg1944

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