21:アオイちゃんと樹里は襲われて聖女になってみる
とんでもない乱交が終わった翌日。
昨夜のうちに三人を転移で帰したので、再びコンビニ商会の商人となった俺と樹里は、宿を引き払った。
どうやら宿には、樹里が相当な額を渡していたらしい。
ほとんど部屋から出て来なかった不審客なのに、番頭の愛想はとても良かった。
宿を出て、久しぶりに外の陽を浴びた二人。
とりあえず半日だけアーラの街を散策し、その後は内陸側にある双子のような立地の都市ソデラを訪問、そのままモガーミ川沿いの道を歩いて上流のモガーミ公国を目指すことにした。
あ、ちなみに現在地はソデラ連合国という。
アーラとソデラの両方に王がいて、共同統治みたいな形らしい。詳しいことはよく分からないけど。
「この街は治安がいい。異世界モノ定番の、犯罪現場に出くわして…というのがない」
「アオイって、そういう話は嫌いだったよね? ヒーローなんかいらないから、金が欲しいって言ってたよ」
「いいんだよ。もう俺は鈴木葵じゃないから。お前だってお嬢様じゃないだろ」
「新妻だもん」
乗っ取った相手が「女神」だから、お嬢様どころじゃないのはさておき。
宿の番頭にも、港に近い辺りは危ないと言われたが、少なくとも対岸のタチマ王国側より安全だと感じる。
タチマ王国など、例の五ヶ国連合に加わった国々は、「女神」が煽り立てたせいでひたすら軍事行動ばかりやっていたらしい。
有象無象の軍勢は蝗の大群に等しい。結果として国内は荒れに荒れ、世紀末覇者が生まれそうなハードモードだったわけだ。
終わってみれば、俺たちが世紀末覇者だったというのは今は考えたくないな。
そして。
「ハッハッハァ! ね、ね、ね、姉ちゃんたち、じょ…上玉だぜ!!」
「お………大人しく捕まりゃ、あの、だから……い、いいことしてやるぜ!!」
アーラの街を離れ、川沿いの街道を少しだけ外れて水田地帯を散策していると、期待通りの集団が現れた。
顔を出したのはひげ面の男三人。全員痩せていて、一人は片目が潰れ、一人は片腕の先がない。
他に、茂みの中に二人隠れている。片目が潰れた男は震えているが、ちゃんと役割分担はできているようだ。
うむ。水田地帯なので遠くからもよく見えていたし、隠れているつもりの二人もまるで隠されていない。
「良かったね、アオイ。夢にまで見たシチュエーションだ」
襲われて喜ぶなよと樹里に言いかけて、自分の顔もにやついていることに気づく。
だがしかし、俺は正さなければならないのだ。
「痛い目にあ…」
「おい、貴様ら」
一人が着物姿の俺に触れようとした時、低く声を出す。
自分のイメージより高いのは仕方ないが…と?
「……………」
「死んだと思うけど?」
「マジかよ」
俺はただ、自分は男だと訂正したかっただけなのだ。
しかし、脅しのつもりで放った魔王の気で、目の前の男たちは泡を吹いて倒れた。ついでに隠れていた二人も即死。
何だよ、五百年前はここまで人類は弱くなかったぞ。
「は、はい! 俺たちは港で働いていたでやす」
「ヘマして、それで…」
街道から見えない場所に移動して、五人の話を聞く。
あ、もちろん五人は生き返らせた。
まだ未遂だったので、こっちが殺人犯になってしまうからな。
五百年前なら、そんなこと気にしなかった。魔王に楯突いた時点で、殺される覚悟はできているだろう…と。
「多少は治してやるから、
「あ…あれ、目、目が!?」
「そうだよー。戻らないと次はないからねー」
「腕が使える!?」
結局、五人を生き返らせたついでに、再び働ける程度に身体を治してやった。
こいつらが大きな組織に属していたとか、地域住民を悩ませる犯罪組織だったら別の方法をとっただろうが、ほぼ初犯だった模様。
旅人が通らない脇道で隠れて、普段は漁師が運ぶ魚を盗んでいた。
「あ、ありがとうございます、聖女様!!」
「ああなんと神々しい!!」
「聖女様万歳!!」
……………。
何も言わずに樹里を置いて立ち去ろうとしたら、思いっきり髪の毛を引っ張られた。
いや、なあお前ら、それはないだろ?
「俺の性別も分からないなんて、素人にも程がある」
「アオイの性別を言い当てるなんて、ボクにもできないよ」
樹里が何か戯言をつぶやいたのは無視して、二人旅再開だ。
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