18:アオイちゃんと樹里は入浴する
現在宿泊している宿は、高級宿ではあるがお風呂はない。
アーラは大きな川の河口に面しているので、水は豊富。しかしこの世界で、浴槽を設置して風呂に入ることは一般的ではなく、高級宿でも身体を拭くお湯が用意される程度なのだ。
一世一代の夜を前に、身体をきれいにしたいという樹里の欲求はよく分かる。俺も入れるなら入りたいし。
で。
樹里の証言でしか確認できないが、向こうの世界で昼寝中だった俺がこっちに戻った時、昼寝していたアパートの部屋もまるごと消えてしまったらしい。
つまり、アパートに備え付けの古びたユニットバスも消えた。
樹里は、それを俺が持っているか、あるいは俺自身の一部になっていると推測し、出せとほざいたわけだ。
アパートの中央がえぐれたように欠けた光景は、たちまちネットに拡散されたという。
ただし、いつ部屋が消えたのかは誰一人覚えていなかった…と、目の前の樹里は証言している。
もちろん俺自身も、アパートの行方なんて知らない。
「出せと言われても、俺はどこかに隠してるわけじゃない。お前が言いたいのは要するに、こういうことだろ?」
「おう!?」
高級宿なので、大きなベッドが部屋の半分を占めてはいるものの、まだ空きはある。
そっちに向けて適当に手をかざすと、古びたユニットバスが現れた。
「浮いてる?」
「仕方ないだろ」
俺の能力で、ある程度の物体は創造できる。消えた風呂は出せないが、代わりにアパートにあった風呂に近いものを造ってみたのだ。
そして、無駄に力を使って浮かせているのは、部屋の床が抜けそうだから。
いくら高級宿でも、いきなり部屋にこんなデカいものを置くとは想定していないだろうし。
「給湯器とかないの? どうせなら、もっと高級なのが良かったなあ」
「樹里が造れば良かっただろ。お前の豪邸のお高い風呂を出せよ」
「ボクには、そんなの造れる気がしないもん」
「なら我慢しろ。俺はこれで十分だったぞ」
資産家の御令嬢になっていた樹里に、こんなボロい風呂は申し訳ない…とは別に思わないな。
お湯に入れれば一緒だろ。
絶対に樹里は同意しないだろうが。
とりあえず部屋を結界で強化、浴槽は床というより俺の結界に置いた形にする。まぁ「女神」の攻撃を弾く結界だから、お湯を入れても床には影響はない。
で。
曇りガラス状の結界をもう一つ張り、樹里の裸が見えないようにする。
どうせこれから見るだろうって?
今そんなことを考えた奴は、きっと自慢の剣が錆び付くまで未使用のままだと思うぞ。
「シャンプーは?」
「自分で用意しろよ」
「はーい」
湯船にお湯を張って、石鹸などを用意するのは樹里本人に任せた。
向こうにいた頃の樹里に、物質生成の力はなかったが、今はあの「女神」の力を引き継いでいるからな。
ダンジョンの牢獄を造れるんだから、全部一人で造れるはず。
「覗いちゃダメだよ。今日は」
「ああ。明日からは覗く。というか、一緒に入るだろ?」
「入っちゃうだろうねー」
結界の向こうからは、身体を洗うお湯の音と、まさかの鼻歌まで聞こえてくる。この世界で、向こうの流行りの曲は違和感がすごいな。
まあ機嫌がいいなら構わないか。
その後。
部屋の中にもう一つ結界を張って、風呂上がりの樹里が休む。
で、今度は俺が風呂に入った。
「何これ…落ち着く」
さすが何年も使い慣れた風呂だけあって、入った瞬間にくつろいでしまう。
「長風呂しないでよ」
「お、おう」
すぐに釘を刺されてしまった。
これでも魔王なので、身体の汚れは魔法で取り除ける。
船の上では不自然なので我慢したが、部屋に入ってすぐに自分の身体はきれいにした。
もちろん、樹里も同じことができる。
風呂に入って身体を洗う必要はない…のだが、一度そういう生活に慣れると戻れないな。
「昔は一緒に滝行したよなぁ」
「ふんどし洗いながらやってたバカは誰だっけ」
「お前も下着洗ってただろ」
鈴木葵として生まれた時に、それまで四百年以上の修行の記憶はいったん封じていた。
しかし今はすべて思い出して、大学生と
そんな混乱も、シリ…樹里の思い出を辿れば一つにつながってしまう。
いろいろ思い出しながら念入りに身体を洗った。
さあ。
無駄話は終わりだ。
百人斬りどころか千人超えてるはずだし、船に乗る前も三人抱いた大ベテランが、ガチガチに緊張してベッドに向かう。
そして、誰もいないベッドに無地のTシャツ、パンツを履いて倒れ込む。
ちなみにパンツは、向こうの世界の鈴木葵が履いていた安物のブリーフ。Tシャツもそうだが、持参したわけじゃないのに着慣れた上下。
着慣れた…は、正直言えば違うけど。
男もののパンツを履く時に、股間に少しだけ違和感がある。
そしてTシャツはヤバい。身体は小さくなったのに、巨大山脈ではち切れそうだ。というか、摺れて困る…。
「もういいぞ」
「うん」
そうして、磨りガラス結界の向こうの人影が動く。
シルエットだけで聖剣がうずく。
「き……き……来たよー」
「照れるなよ」
「仕方ないじゃん」
まるで俺のバイトの邪魔をするように、ひょっこり現れた……。
「女神だ」
「な、何それ」
思わず宿敵の名をつぶやいてしまう。
だけどそれは、カギ括弧付きの偽物じゃない。
「アオイがそう言うから、いつものパジャマを着てみたけど、これで良かったの?」
「最高だ」
「ほ、本当に?」
「ああ!」
その瞬間、自分もちゃんとパジャマを着たら良かったと思ったが、やっぱりどうでもいいやと思い直しながら俺は立ち上がって樹里を抱きしめる。
「く…」
「アオイ、ちっちゃい」
自分では、向こうの世界の幼なじみだった樹里を抱いたはずなのに、実際には俺の頭が樹里のパジャマのふくらみに押し潰されてしまう。
10cm以上の身長差は予想以上。ブリーフから飛び出しそうな聖剣も、樹里のあそこのかなり下で、このままでは無理だ。
「……いろいろ勝手が違うけど、樹里」
「ふふっ、……なあに?」
「こっちの都合で五百年待たせた。俺のものになれ、樹里」
その瞬間、思いっきり抱きしめられる。
「いいよ。…アオイ、五百年分好きになって」
「あ……、ああ」
一瞬ためらったが、高い位置にある樹里の頭を引き寄せて口づけ。
樹里はすぐに舌を絡めてきて、しばらくそのままだ。
が。
離れた瞬間に修羅場が始まる。
「アオイ。今ためらったよね」
「え? いや…」
「ボクのこと嫌い?」
「違う違う、嫌いじゃない」
「嫌いじゃないだけ? ボクはアオイが大好きだよ?」
「お…」
もう一度無理矢理顔を引き寄せて唇をふさぐ。
そして。
「俺だって樹里のことはずっと好きだったんだ。最後に鈴木葵だった時は、自分にはまるで釣り合わない高嶺の花だと思ってたけど、ずっと好きだった。滅茶苦茶に抱いてやりたいって思ってたぞ!」
「本当に?」
「そうだよ」
体格差がありすぎて、まるで相撲の小兵力士が相手のバランスを崩すように、俺は樹里をベッドに押し倒す。
「五百年って言われて一瞬困っただけだ」
「ふーん」
「鈴木葵の本気を見せてやる」
「………」
鈴木葵と言っても、今は二人の四つのふくらみを押しつけ合って、そして女の声しか聞こえないベッドの上。
まあいい。五百年はともかく、二十歳で童貞彼女なしの底力、見せてやるぜ。
※19と20はほぼ全編18禁につき掲載できません。読みたい方はノクターンで。
なお23でいったん完結します。
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