第29話「髑髏は仮面を被る」

「………納得出来ませんな。」

「………大臣?」


ある程度話し終えたところで、これまでどこかしらで話に入ってきた大臣がそんな事を言った。


「当時の記録を見た。人魔戦争の原因も分かる。しかし、たかだか我々が滅びた程度で世界が無くなるなど、些か荒唐無稽にも程があるのではないのでしょうか?」

「彼らは証拠を提示した。少なくとも、あの映像も、先程見せてくれた魔法にも偽装の痕跡は無い。あの魔法に関しては知識があったとしても、偽装なんて不可能だ。」


大臣の疑問にフリードが割って入った。

俺としてはいきなりこんな話をされてもそうなるよな、程度の認識はあったので気にならないが、彼はそうはいかなかった様だ。

まあ、


「分かりませんぞ。彼らは我らから見て古代人だ。我々では理解できない様な方法で偽装を行うことだって出来ても不思議ではない。」

「それは君の妄想だ。なら、僕や父が神の刻印で見た光景はどう説明を付ける?」

「ふっ。所詮あんな物……いきなり陛下達の身体に出てきた意味の分からない呪いの様な物に過ぎますまい。些か、早計に過ぎるのでは?」

「貴様………、」


それを言われては黙っていられないと、フリードの顔が怒りに歪む。彼は父親まで亡くしているのだ。それは軽はずみな発言でしかない。

その時だった。


「たしかにな。その男の言う通り、こんな話、いきなり話されても荒唐無稽過ぎて付いていけまいて?ましてや、我ら2人は伝承で語られるところの破壊神と魔狼なのじゃからのう。」


フェンリルがソファーで脚を組んで、どこか愉快そうにしながら言葉を紡いだ。


「フェンリル。すまないがこれは僕らにとって大事な――――」

「その相手が?」

「な――――!?」


驚いたのは俺を除いて、その場にいた全員だったが、一番驚いたのは他ならぬ大臣と呼ばれたモノであった。


「気付かぬとでも思ったか?これまで何も言わなかったのは、わざわざこんな場所に潜り込んでいたものだから何をするのか、と様子を見ていただけよ。」

「……やはり、犬の鼻は侮れんか。」

「人間のふりはまあまあじゃが、偽装魔法は三流以下よな。ほれ、そろそろそのつまらぬ真似は止めよ、アークリッチー。」


そう言うと、フェンリルは大臣のいる方に人差し指を突き出し、つーっと、引っ掻くように下ろすと大臣と名乗っていたモノの纏っていた魔力は霧散した。彼女の指摘通り、姿を現したのはリッチーの上位種、アークリッチーだ。

アークリッチーは偽装をあっさりと剥がされたのが屈辱だったらしく、わなわなと震えている。


「…………………っ。」

「あんなにアッサリ………」


近くにいたアリスが驚くのも無理はない。

相手の魔法に干渉するには自分で魔法を行使するより技術がいるし、その魔法に込められた魔力をしっかり計算しながら行わなければならない。

それをフェンリルはあっさりと人差し指だけで行ったのだ。


「そこの兵士達よ。此奴に言われて、任務でどこか危険な場所に行かされたりはしておらぬか?」


既にアークリッチーから距離を取って戦闘準備を整えている騎士にフェンリルは問うと、騎士は思い出すように考え始めた。


「あ、えっと……ありました。大臣から頼まれた任務で、想定以上の被害が出る任務など……では、こいつが!?」

「じわじわと痛ぶって、お主らが苦しむのを見て愉しんでいたのじゃろう。悪趣味じゃな。」


そう言ってフェンリルは玉座に座る女帝の様に、冷たい笑みを浮かべた。

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