第23話「人魔戦争の真実・1」

「アルシア、今の言葉に嘘偽りは無いかい?」

「当たり前だ。コイツらの濡れ衣が晴らすのが第一だ。それに、俺が破壊神と言われるのは、ある意味間違ってないからな……。」


フリードの問いに苦い顔をしてそう返すと、全員不思議そうにこちらを見た。

フェンリルだけはジト目で俺を見ていたが……


「大丈夫。その想いは間違いなく伝わるさ。さっそく始めるけど、僕から聞きたい事はあるかい?」


フリードが何故か意味ありげに笑うと、目の前の魔道具を起動した。

これで、ここからの会話は全てファルゼア王国にいる者達に伝わる事になる。


「ああ。まず、フリードが何処までを知ってるか……、それを聞かせてくれ。それで俺達もどこから話せばいいか分かるからな。」


「そうだね。まずはそこからか……。2000年前の人魔戦争、当時で言うところの大規模侵攻……、その時のファルゼア国王ヴォルフラムが勇者マグジールに魔王討伐を命じ、マグジールは見事魔王を倒した。そして、魔族は仇討ちの為に総力を挙げて人類に戦いを挑んだ……。」


フリードはまず、この場にいる者、そして魔道具を通じてこのやり取りを観ている者達が知っている伝承を語り始める。


「戦いが激化していく中、魔界の奥底から破壊神、アルシア・ラグドが覚醒。斬翼のフレスベルグ、邪悪竜ニーズヘッグ、そして、ここにいる魔狼フェンリルを引き連れてマグジールに挑み、激闘の末マグジールが勝利。人類の7割という大き過ぎる犠牲を払って、人魔戦争は終結した。」


フリードが語り終えると、その伝承を知る全ての人間が頷く。

その様子を見て、フリードは再び口を開いた。


「ここまでが、皆が知る人魔戦争の伝承だ。そしてここからは、僕と父、先代国王が神の刻印で見ることが出来た一部の話だ。端的に言えば、それは全くの嘘だった。勇者は魔王を倒したものの、その後の大規模侵攻では何もしていない。溢れ出した様子のおかしい魔族を倒し、それを食い止めたのは当時の王国宰相ニコライ・レーヴィット、騎士団長アルバート・ミュラー。最前線で戦い抜いた王国軍と義勇軍、そして………」


フリードは緩く微笑みながら、コチラを見る。


「ここにいる災い起こしのアルシア・ラグド。そして、魔王軍幹部…「賢将・フェンリル」、「斬将フレスベルグ」、「妖姫ニーズヘッグ」だ。彼らが居たからこそ、今の世界がある。」


それを聞いた大臣、騎士達は一斉に動揺した。

驚いた理由は別だが、それは俺とフェンリルも同じだ。

驚いていないのはそれを言ったフリード本人と、彼の横にいたディートリヒの2人だけだった。


「……その二つ名、知ってるのか。俺だけじゃなく、フェンリル達も。」


驚いたまま言うと、フリードは悪戯が見つかった子どものように笑った。


「……実はね。君が言った2人。宰相フリードと騎士団長アルバートは伝承に残っているんだ。ただ、それだけじゃない。彼らは個人のメモや日記という形で、見つかりにくい様に当時の資料をいくつか残してくれていたんだ。詳細に纏わる部分は見つからないか、処分されてしまっていたけど、それくらいは僕らこの時代の人間にも伝わっているんだよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る