第15話「痕跡調査・前編」
心臓を貫かれたキングトロールが大きな鉄塊を落として倒れていく。
ピクリとも動かないし、魔力探知にも反応しないので、完全に絶命したのだろう。
「あれ一つで死んでしまうとは、強化されてても上級は上級か……」
アリスもいるから手短に済ませたとは言え、もう少し持ち堪えてくれなければ面白くない。
仕方ないか、と肩を落として2人に近付くと、フェンリルはいつも通りだが、アリスはポカンとした表情をしていた。
「……どうした、アリス?」
「……いえ、災害級のキングトロールをあっさり倒されていたので……。」
「キングトロールは上級魔族でも大した強さではないんだが……」
今回のキングトロールは明らかにおかしな事になっていたが、こいつ程度で災害級の魔族扱いされてるとなると、もしかして魔法技術も衰退しているのだろうか?
「それに、空間魔法と魔眼まで……」
「魔眼は自前だが、空間魔法は別だよ。俺が固有で使えるのは、魔眼くらいな物だ。」
そう言って、俺は右手で黄色に光る右目を軽く指差す。
基本魔法は勿論使えるが、俺が使える大きな魔法はこの5属性を自在に操る事が出来る魔眼とあと一つだけ。
そのもう一つとはあまり役に立たないから無いに等しい。
いや、役に立っても困る物だ。
「そうなのですか?では、先程の空間魔法は……」
「アレは俺ではなく、同化してしまったアダムの書に記録されている物だ。」
同化しても体外に出せるものか?と思いながら念じると、存外アッサリと掌に具現化する。
すると、アリスは不思議そうに首を傾げる。
「………アダムの書?」
「アーティファクトの一つだ。分類としては、神器側だ。」
「アーティファクトって……、実在するんですか!?」
「ああ。ついでに言うと、バフォロスとこの鎖もそうだ。もっとも、これが何なのかは、俺も知らないんだがな。」
アリスにアダムの書を手渡しながら、右腕に巻き付けた鎖をジャラリ、と鳴らしながら持ち上げる。
実害もリスクらしいリスクも無いし、便利だから良いのだが、正体が分からないのはやはり、もどかしさの様な物を感じる。
フェンリルはこの鎖の正体に心当たりがあるか、もしくは知ってる様な雰囲気なのだが、聞いた時には教えてくれなかったので、今のところ気にしても仕方ないだろう。
「アルシアよ。アーティファクトの説明もいいが、先にやらねばならぬ事があろう?」
「……たしかに、そうだな。」
俺はアリスからアダムの書を受け取り、身体に戻してから収納魔法から眠っているバフォロスを取り出して、地面に突き立てる。
このキング・トロールの亡き骸と、アリスを襲った魔族を調べる為だ。
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