第6話

香織と涼介は、直也の行方が分からなくなったことで、今田家に危険が潜んでいることを直感的に感じ取った。直也の決意の固さから、彼が一人で今田家に向かったのではないかと予感した二人は、すぐに今田家へと向かった。


今田家の玄関に到着した二人は、深呼吸をして心を落ち着けた。香織がドアをノックすると、しばらくして京子がドアを開けた。彼女の表情には微かな不安が垣間見えたが、すぐに冷静さを取り戻した。


「こんにちは、何かご用でしょうか?」

京子は穏やかに尋ねた。


「こんにちは、私たちは三田村・藤田探偵事務所の者です。田中直也さんがここに来ているはずなんですが、お見かけしましたか?」

香織が丁寧に尋ねた。


京子は一瞬戸惑ったようだったが、すぐに微笑みを浮かべた。

「いいえ、直也さんはここには来ていません。何かお探しですか?」


涼介は京子の目をじっと見つめ、

「直也さんはここに来ているはずです。彼の母親の手帳に関する調査をしています。その手帳には1994年の事件に関する重要な情報が含まれているんです」と強い声で答えた。


京子の表情が硬直したが、すぐに平静を装った。「そんなことは知りません。でも、何かお手伝いできることがあれば…」


「では、家の中を見せていただけますか?」

香織が毅然とした態度で言った。


京子は一瞬の躊躇の後、「どうぞ」と言って彼らを家の中に案内した。リビングルームに入ると、香織と涼介は部屋の隅々を注意深く観察した。


「直也さんが本当にここに来ていないとしたら、彼はどこにいるのでしょうか?」

香織が探るように尋ねた。


京子は冷静さを保ちながら、

「それは私には分かりません。ですが、何か手がかりがあるかもしれませんね」

と言いながら、視線を逸らした。


涼介は京子の不自然な動きを見逃さなかった。「京子さん、直也さんは私たちにとっても大切な友人です。もし何か知っているなら、正直に話してください」


京子は一瞬の沈黙の後、

「実は…地下室に何かがあるかもしれません」

と言った。


「地下室ですか?」香織が驚きながら問い返した。


京子は頷き、

「はい、少し荒れているかもしれませんが、どうぞご覧ください」

と言って、地下室への扉を開けた。


香織と涼介は階段を降りて地下室に向かった。暗い廊下を進む中で、涼介が香織にささやいた。「気をつけて、何かがおかしい」


地下室に到着すると、薄暗い照明の中に古い家具や箱が雑然と置かれていた。香織が周囲を見渡していると、涼介が何かを見つけた。


「ここに誰かがいた痕跡があります」

と涼介が低い声で言った。


その瞬間、京子が階段の上から鋭い声で叫んだ。「もう遅いわ、あなたたちはここで何も見つけられない!」


香織と涼介は驚きの中で、京子が扉を閉める音を聞いた。二人はすぐに反応し、ドアに駆け寄ったが、すでに遅かった。


「どうする?」香織が緊張した声で尋ねた。


「まずは冷静に対策を考えよう」

と涼介が答えた。彼は地下室を見渡し、何か手がかりがないかを探し始めた。


その時、涼介は地下室の隅に血痕を見つけた。「香織、こっちに来て」

と彼は緊張した声で呼んだ。


香織が駆け寄ると、そこには直也の血まみれの遺体が横たわっていた。香織は悲しみに打ちひしがれながらも、冷静を保とうとした。

「直也さん…ごめんね…」


その瞬間、地下室の上から京子の声が響いた。「もう手遅れよ、あなたたちはここで終わりにするの」


涼介は怒りを抑えながら、

「京子さん、あなたがこれをしたのですか?」

と問い詰めた。


京子は冷静な声で答えた。

「彼が真実に近づきすぎたのです。私は家族を守るために、彼を止めなければならなかった」


「私たちもここから出るつもりです。そして真実を明らかにする」と香織が毅然と宣言した。


「そんなことはさせません」

と京子は冷たく言い放った。


その時、突然、美里が地下室の入口に現れた。彼女の目には強い決意が宿っていた。

「母さん、もうやめて。これ以上、罪を重ねる必要はないの」


京子は驚きと混乱の表情を浮かべた。

「美里…どうしてここに?」


「私が真実を知るべきだと感じたからです。そして、直也さんが私たちのために命をかけて真実を追求していたことを知りました」

と美里は毅然と答えた。


「でも、美里、家族を守るためには…」

京子は言葉を詰まらせた。


「もういいんです、母さん。家族を守るために、真実を隠すことはもうやめましょう。私たちは正しいことをしなければなりません」

と美里は強い声で言った。


京子はしばらく沈黙した後、涙を浮かべながら頷いた。

「分かったわ、美里。もうこれ以上は隠し続けられない」


美里は香織と涼介に向き直り、

「私たちはすべての真実を明らかにします。母が犯した罪も含めて」と言った。


香織は美里に感謝の意を込めて頷き、

「ありがとうございます、美里さん。これで直也さんの意思を継ぐことができます」と言った。


涼介も同意し、「これからは真実を公にし、すべての関係者が法の裁きを受けるようにします」

と力強く宣言した。


こうして、香織、涼介、美里は京子の協力を得て、1994年の事件の真相を公にするための準備を始めた。すべての真実が明らかになり、直也と美代子の名誉が回復される日が近づいていた。

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