第5話

直也は一人で今田家を訪れる決意を固めた。母の手帳に記された1994年の事件の真相を明らかにするため、そして母の名誉を回復するために、彼はすべてをかけていた。夕暮れ時、彼は静かに今田家の前に立ち、深呼吸をしてからドアをノックした。


「田中直也です。お話があります」

と直也はドア越しに声をかけた。


しばらくして、京子がドアを開けた。彼女の表情は微笑んでいたが、その背後には緊張と冷たさが感じられた。

「どうぞ、お入りください」

と京子は静かに言った。


直也は慎重に家の中に入った。リビングルームの照明は薄暗く、重苦しい雰囲気が漂っていた。京子は直也をソファに案内し、自らも対面に座った。


「直也さん、何かお話があるんですか?」

京子が尋ねた。


「はい。母の手帳に記されていた1994年の事件についてです。母が告発しようとしていた不正行為、そしてあなたたちが関与していたことを知っています」と直也は真剣な表情で答えた。


京子の表情が一瞬硬くなったが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。

「それについてはもう話すことはありません。ですが…」と彼女は言葉を続け、

「どうぞ、地下室にいらしてください。そこで話しましょう」と静かに提案した。


直也は疑念を抱きつつも、京子の後を追った。京子は地下室への階段を降り、暗い廊下を進んでいった。地下室に入ると、そこは古い家具や書類が雑然と積み上げられている場所だった。照明は薄暗く、部屋全体に不気味な雰囲気が漂っていた。


「ここで話しましょう」と京子が言った瞬間、直也は背後から冷たい金属の感触を感じた。彼が振り返る間もなく、京子は一気にナイフを突き立てた。


「ごめんなさい、直也さん。でも、これ以上真実を暴かせるわけにはいかないのです」

と京子は冷たい声で呟いた。


直也は苦痛に顔を歪めながら、床に崩れ落ちた。「なぜ…なぜこんなことを…」と彼は弱々しい声で問いかけた。


「家族を守るためです。あなたの母が告発しようとしたことがすべてを壊す。だから、私はこうするしかなかったのです」

と京子は涙を流しながら答えた。


直也の視界が次第に暗くなる中、彼は母の顔を思い浮かべた。

「母さん…ごめん…」

と最後の言葉を絞り出し、彼の意識は途絶えた。


京子はその場に立ち尽くし、直也の冷たくなった身体を見つめた。

「すべては終わった…」

と彼女は呟いたが、その声には深い絶望と後悔が混じっていた。

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