第15話 元13課職員 重田優士
準備されていた制服は、警察官の制服に似た、軍服に近い意匠だった。
「13課って、普段はコレ着て活動すんの?」
堅苦しいし、動きづらい。
護や清人が着ている姿も見たことがない。
直桜の言葉に、清人が首を振った。
「便宜上というか名目上というか。一応、警察の内部組織だからってだけ。俺も着るの久々よ」
「私なんて、十年以上振りだよ」
紗月が居心地の悪い顔で呟く。
「バディの正式契約は祭りのようなものだ。気楽に着ておけばいい」
「そういう忍は、しっくりきてるね。班長は着る機会多いの?」
「いいや。存在を忘れる程度には久しぶりだ」
あってないようなものだということが、よくわかった。
ついでに、バディの正式契約も、滅多にないのだろう。
「護、似合ってるね」
隣を歩く護を振り返る。
普段、スーツ姿のせいか、制服も違和感がない。
「直桜も良く似合っていますよ。いつもの私服はオーバーサイズのモノが多いから、新鮮ですね」
照れた顔ではにかむ護は、心なしか緊張しているように見える。
話しているうちに副長官室に着いていた。
「班長、須能忍、以下四名、入ります」
扉をノックし、忍が声を掛ける。
重い扉は、内側から開いた。
「待ってたよ、忍さん。準備できているから、どうぞ」
にこやかに迎え入れてくれたのは、初めて見る顔だった。
促されて中に入る。全員の入室を確認して、男が扉を閉めた。
「いつ戻ったんだ、重田」
奥に構える陽人への挨拶もそこそこに、忍が男に声を掛ける。
忍に重田と呼ばれた男が困った顔ではにかんだ。
「二週間くらい前かな。桜谷副長官の御命令でね」
重田が陽人を振り向く。陽人がにんまりと笑んだ。
「久しぶりだね、さっちゃん。まさか、さっちゃんが後見人で来るなんて思わなかったよ」
紗月の姿を重田が驚いた顔で眺めている。
「久しぶりだね、重ちゃん。私もまさか、久々の再会がこんな形だとは思わなかったよ」
「そっか、さっちゃんも桜ちゃんの悪戯に巻き込まれた側か。それで俺を、呼び戻したんだな」
紗月と重田が同時に陽人を振り返る。
陽人が、満足そうな笑みを浮かべていた。
「折角、再会できる機会があるんだ。使わない手はないだろう。僕の従兄弟と優秀な相棒に感謝してくれよ」
「お前が会いたかっただけだろ。相変わらず、素直じゃないな」
重田が楽しそうに笑う。紗月も小さく噴き出した。
「
護がこっそりと教えてくれる。
反対側から、清人が顔を寄せた。
「ついでに陽人さんと紗月と重田さんは、13課の最強トリオとか呼ばれてた仲良し三人組だ。正直、重田さんがいてくれて良かった」
「なんで?」
「重田さんが間に入ってくれると、陽人さんと紗月のギスギスが若干、和らぐ」
なるほどな、と思った。
今日ここに紗月が来てもいいように、あらかじめ重田を呼び戻しておいたのだろう。
直桜たちに対する気遣いもあったろうが、何より紗月への気遣いなのだろうと思った。
(紗月がまだ陽人を許す気がないって、陽人自身も気が付いているんだろうな)
紗月の態度を見る限り、重田に対しては陽人に対するような敵意はなさそうだ。
三人をぼんやり眺めていた直桜に重田が視線を向けた。
「初めまして、瀬田直桜君。俺は重田優士、今は君の従兄弟の使い走りだ。君が噂に名高い最強の惟神だね」
重田が手を差し出す。
とんでもない肩書を付けられて、色々な意味で手を出しずらくなった。
「どうも、初めまして。陽人が色々、すみません」
直桜の挨拶に、重田が吹き出した。
「君も桜ちゃんには、苦労していそうだね。けど、化野をこれだけ強くしたのは、君だろう? とんでもない逸材だね。桜ちゃんが集落から引っ張り出すワケだ」
護がピクリと肩を震わす。
「引っ張り出したのは僕じゃないし、13課への所属を決めたのも直桜自身だ。バディの正式契約も、直桜と化野が考えて決めた結果だよ」
清人と護が背筋を伸ばしたような気がした。
握った手を引いて、重田が耳を寄せた。
「嫌なことは嫌って言っていいんだよ。遠慮すると、食われちゃうからね」
絶妙に色香を感じる声で囁かれて、ドキリとする。
「重田、あまり直桜に近寄り過ぎると、化野に嫌われるよ」
遠くから陽人が澄まし顔で声を掛けた。
直桜から手を離し、重田が化野を見上げる。
フルフルと両手と顔を振って、護が必死に意思表示している。
「瀬田君を取られたくないのは、お前だろ。全く、本当に素直じゃないんだから」
言いながら、重田が陽人の前の机に移動した。
「副長官殿のお怒りに触れる前に、調印式を始めようか」
重田が直桜を呼び寄せる。
前に出ると、陽人が立ち上がった。
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