第9話
オーアグリフォンとの激戦から次の日征司は言った通り学校に連絡を入れ休むことにした
そんなことなど露知らず絵梨は今日も征司に会うことを楽しみに貞逆に向かうが教室に入っても征司の姿がない、いつもは自分より早く登校しているはずなのだが今日はまだ来ていない
「(寝坊しているのかな?)」
珍しく寝坊でもしたのだろうかと思いながら来るのを待っていた、が待っていても来ずついに朝の鐘の音が響いた。
「(遅刻かな?ほんと珍しいな・・・)」
そう思っていると教室の扉が開く、やっと来たと思い扉のほうを見るが来たのは先生がため息をしながら現れた、絵梨は思わずため息をつくが周りのクラスメイトも一斉にため息をつく
「・・・あなた達、先生に向かってため息をつくなんて失礼ですよ?まあ、理由はなんとなくわかっていますが・・・」
先生は苦笑いをしながら生徒に注意する。そのあと生徒たちは口をそろえて「先生だってため息をついたじゃない」と言ったが先生は聞こえないふりをした
「ええー皆さんが見た通り今日は佐伯君はお休みです。」
先生の言葉に全員が安堵しているが絵梨は同時に疑問も出てくる。すると先生は答えが書かれている紙を取り出し読み上げる
「詳しくはわかりませんが昨日はかなり疲れることをしたみたいでどうやら風邪を引いたようです」
そんな先生の説明に絵梨は不安になる、実のところクライマーが風邪になることは珍しい、それは日頃から体を鍛えているため免疫力が高いというのが主な理由だ。
だがもちろん例外もある、例えば疲労困憊だったり病気になってしまったりなど・・・そう、昨日の征司が当てはまるのだ
「(大丈夫かな?)」
絵梨は授業中も征司のことが気になり集中できなかった。放課後ギルドに向かうと天音はおらず別の受付に聞くと今日は休みと言われてしまいそのまま帰宅する。
「やっぱり何かあったに違いない・・・こういう時は」
そう言うと絵梨は自室のPCで黒狐について調べ始めた。はじめは花蓮に連絡しよう思ったが黒狐が
「ええっと・・・『大型新人黒狐60階層クラスのモンスターを単独撃破!!』・・・確実にこれだ」
その記事を開くと昨日の黒狐についてことが書かれていた。どうやらオーアグリフォンという60階層クラスであろうモンスターを単独撃破したらしい
さらに文章を読み続けていると黒狐は外傷は見られなかったが疲労困憊のためかそのまま帰宅。
その記事を見て絵梨は安堵する。どうやら大きな怪我はなかったらしい、征司が無事だということもわかり安心した。しかし同時にある疑問が生まれた それはなぜ60階層クラスのモンスターと戦っているのかということだ。確かに征司は強い、だが今まで55階層でくすぶっていたという征司が60階層クラスのモンスターと戦っているのに
「やっぱり知らないことが多すぎるな・・・」
絵梨はその後も黒狐について記事を見ていく。どうやら
「(そういえばなんでバベルに行ったんだろう・・・)」
バベルに行くのであればパーティーメンバーの自分にも声をかければいいのに、と思う絵梨
「・・・やっぱり私が足を引っ張ているから・・・」
上位クライマーである征司が実力が違いすぎる自分なんかの為に時間を割いて育成してくれる。それは同時に征司の成長を止めているのではないかと絵梨は思ってしまっている
真実はただのストレスや欲求の発散なのだがそれは本人のみ知ること。絵梨は征司の迷惑になっているのではないか、と不安になる
「(もっと強くならなきゃ・・・)」
そう思い絵梨はある人物に連絡をとる
「あ、・・・・実はお願いが・・・」
翌日、今日も征司は休みと言われクラスメイトはテンションを低くする
そんな時間が過ぎ絵梨は学校を後にギルドへ向かった
「あ、絵梨さん、こちらですわ」
ギルドに着くと先にいた花蓮がこちらに手招きしている。
「すみません急に変なお願いをして」
「いいえ、大丈夫ですいつかくるとは思ってましたもの」
花蓮は笑顔で返す。昨日絵梨が連絡を入れたのは花蓮だったその理由は
『あ、花蓮さんすみません実はお願いがあるんですが・・・・特訓してほしいんです』
連絡を受けた花蓮は快く絵梨の願いを受け今ギルドにいる
絵梨は征司の足を引っ張らないように特訓をしたいだがいつものようにソロでバベルを探索すると前のように動けるかがわからない
故に基礎トレーニングを行いまずは体を鍛えることにした。故に花蓮に教えを乞うことにしたのだ、事前に花蓮が使用申請をしていたようなので2人は訓練場に向かう
「それでトレーニングとのことですが、具体的にはどのような?」
花蓮の問いかけに絵梨は考えこむ
「えっと・・・筋トレ・・・?」
「・・・まあそれでもいいですがバベルを探索していくと自ずと筋肉はつきますから、いっそ模擬戦をしてみましょうか」
花蓮に言われ模擬戦用のバトルフィールドに移動し2人は向かい合い模擬戦用の剣を構え絵梨に挑発する
「武器は貴女に合わせますからどこからでもいらっしゃい?」
花蓮の挑発を合図に絵梨は駆け出す、まずは小手調べと言わんばかりに剣を振り下ろす。しかし
「遅い」
花蓮はそれを難なく躱し横腹に向かって剣を振る
「がっ!」
腹部に強烈な一撃を食らい軽く飛ぶ
「絵梨さん?私は小手調べできるような相手ではございませんよ?全力で来なさい」
その言葉に絵梨は当たった横腹を抑えながら立ち上がり構える。花蓮が自分より強いのはわかっている今までの雰囲気と違う。しかしそれでも征司の足手纏いにはなりたくない、その一心で絵梨は再び駆け出す
「はぁぁ!」
花蓮に剣を振り下ろす今度は鍔迫り合いになり絵梨は力いっぱい押すが
「その程度ですか?」
花蓮は軽く押し返されバランスを崩しそうになるが、後ろに飛び体制を整えようとする、しかし
「っ!!」
後ろに飛び距離を取ったつもりなのに目の前には花蓮がいた
「だめですわよ?敵はちゃんと見ないと」
花蓮はそう言うと絵梨の肩を掴み床に叩きつける
「カハッ!」
絵梨は背中からの衝撃に思わず肺の中の酸素を吐き出すし声を漏らす。
「・・・まだまだですわよ」
花蓮はそう言うと絵梨から離れ剣を構え直し絵梨の復帰を待つ絵梨は咳き込むがどうにか立ち上がり剣を再び構える。
「(つ、強い・・・)」
今目の前にいるのは征司と肩を並べているであろう人間、強いのは当たり前だ
「・・・念のため言っておきますが黒狐様は私より強いですわよ?貴女も見たのでしょうあの記事、私にはまだできませんわ」
花蓮の言葉に絵梨は驚くと共にどこか納得していた。花蓮は黒狐のことを憧れていると言っていた、暗に自分より強いことを刺していた。
「まず言い方は悪いですが頭を使いましょうか。私のいつもの武器は戦斧、当然剣より重いですので私と力比べなど愚の骨頂」
絵梨は花蓮のアドバイス通りに剣速を上げる。しかし花蓮はそれを見切っているのか剣で受け流していく。
「そうです、まずは剣速を上げ相手を翻弄、隙ができれば叩き込む!」
「(もっと速く!)」
絵梨はさらに速度を上げていく、すると徐々に花蓮の剣が絵梨の剣を受け流すことができなくなり始める
「っ、たぁぁぁあ!!」
絵梨の渾身の一撃が花蓮の剣を弾き飛ばした。その隙を見逃さず剣を振り下ろすが花蓮は笑みを浮かべていた
「(え?)」
その姿を見た絵梨は時が止まったように目の前の花蓮が止まって見えたが
「がっ!」
突如横腹に伝わる痛みと共にまた絵梨は飛ばされる
「ちょっと意地悪ですが視野を広げないと今のように意識外からの攻撃が来ますわよ?」
絵梨は速度を出すことに躍起になり絵梨の蹴りに気付かず飛ばされた。
「まあ、こんなところでしょうか?少しは理解できました?」
「はい・・・げほ・・・ありがとうございます」
絵梨は咳き込みながら立ち上がると花蓮に礼を言う。その後は通常のトレーニングを行い夜が近づいてきたので終ろうとしていた
「・・・今日はありがとうございました。あとお願いがあるのですが・・・」
「わかってますわ、黒狐様に内緒にしてほしいとでしょう?」
絵梨の言葉に先読みしたかのように答えると花蓮は絵梨の頭を撫でながら言う。
「大丈夫ですよ、私も黒狐様を助けたいですもの」
また誘ってくださいねと言うと花蓮は去っていたその姿を絵梨は見続けていた
「本気じゃないんだろう・・・花蓮さん」
絵梨は花蓮の背中を見送りながら呟いた。事実花蓮は片手でしか剣を振ってない。それと同時に悔しさが込み上げてきた、征司と花蓮に助けられてばかりで自分は何もできていない。
「(絶対に強くなる)」
絵梨は自分の弱さを改めて実感し再び目標に向かって進みだす
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます