第10話 デート?
「え~、九月下旬から十月頭にかけて、ガンバれ・スポーツ!イベントを催し会場で行います。今回はテナントのスポーツショップマリノさん主催なので、会場貸し出しのみです。事務所としては十月入ってハロウィンのディスプレイの方を皆さんよろしくお願いします」
月例会議で楢崎主任がスケジュールを確認した。夏休みが終わるともう秋の予定がびっしりだ。アルバイトの碧は九月の大学の夏休み半ばまでシフトに入っていた。
「ちょっと提案なんですが」
川島副主任が手を挙げた。
「十一月ってイベントがないので何か出来ればと思うんですけど、皆どう?」
会議にいた律と他の社員二人も、なるほどと頷く。
「川島さんは何か案でもあるの?」
楢崎主任は言い出しっぺだからどう?みたいな聞き方をする。川島はふふっと微笑んで「ありますよ」と言う顔をして発言をした。
「秋だから芸術の秋!てことで、中田君、陶芸展どう?」
「え?」
川島が律に視線を送ったので律は慌てて目をパチクリした。川島は律の陶芸教室の住民の作品展示をして地元との繋がり、そこから広がる地元の良さのアピール、活性化にこのモールが役立てればと考えていた。
「中田君が陶芸教室で地元の人とコミュニケーションをうまく取ってるみたいだがら、この企画任せてみたいんだけど、どう?」
律はいつもアルバイトの指導やテナントのクレーム伺いなど雑用専門、表に出る仕事は担ってこなかった。それが性に合ってると思っていたし、やりたいとも思わなかった。
「と言っても、陶芸教室・・・まだ通い始めて間がないので・・・」
遠慮がちに言う律に
「ま、取り合えず教室の先生に提案して見て感触教えてくれ。てことで、月例会議おしまいです。川島副主任と中田君、後よろしく」
楢崎は強引にまとめて席を立った。
いやぁ、マジか・・・そんな心の声が漏れそうになっている律の肩をポンと川島が微笑みながら叩いて続いて席を立った。
◇
律は仕事の帰りに陶芸教室に寄ってみた。
夜八時頃、教室の灯は珍しく明々と点いていた。
「こんばんは」
「はぁ~い」
奥から蛍が出てくる。
「あれ、りっちゃんこんな時間にどうしたの?」
律はにこやかな蛍の顔がちょっとまともに見れない。真司と薫に茶化されて変に意識してしまっているのは自分でも分かっていた。違う違う、そうじゃない、と自分に言い聞かせて普段通りに装って声を出す。
「井原先生いる?」
「おぉ、なんや」
律のすぐ近くから声がし、びっくりした。
「そんなとこに居たんですか?」
律の後方の棚の奥から出て来た井原を見て、また驚く。
「先生、髪そんな短くしたんですね」
「おぉ、タナカ君のお母さん腕良いな、さっぱりしたわ」
「あ、ありがとうございます」
「先生大学の頃はこんな感じで小奇麗だったのよ。ちょっと生徒にも人気でしたよね」
と蛍は井原を揶揄うように笑って言った。
「ちょっとどころか、たいそう人気やわ」
相変わらず二人は仲良く楽しそうに会話をする。
「で、どうした?こんな時間に」
律は井原にショッピングモールでの陶芸展示の話を説明した。
「ん~、陶芸展は生徒にとっても披露する目標があっていいと思うけど、爺さん婆さんの作品は小さいものが多いし、数がそれほどないぞ」
確かに自分たちで使える食器類、お皿や湯呑みを女性は作りがちで、男性は意味もない壺を作りがちだ。壺を作ると一つ作るのに時間がかかり数が無い。展示場の広さに釣り合うのかが問題だという。
「あのぉ、先生と香川さんも作品出すってのはどうですか?過去の作品とか込みで・・・」
恐る恐る律は聞いてみる。
「あぁ、私の作品は大学の頃の少ししかないわ、後はイギリスにあるから」
「そっか、香川さんイギリスにまだ帰るんやな」ポツリと律が言うと
「おお、お前寂しいって顔に書いてるぞ」と井原がハハハと茶化しながら笑った。
いやいや、そんな、と律が慌てて頬を消すように擦ると、「書いて無いって」と蛍が笑ってこっちを見ている。
「タナカ君、お前彼女いないんか?」
「は?今関係ないでしょ」
「いやぁ、アラサーにしては純粋そうやから、そんな反応見てるとそうなんかなて思ったからな、失礼失礼・・・で、居ないやろ?」
「もう~今は居ません」
「今は?」ニヤニヤしながら蛍が口を挟んだ。
「ほう、前は居たんか?高校の時とか?大昔の話ちゃうか?」井原は面白がって釉薬の入ったバケツを運びながら話を続ける。
「高校の時も、大学の時も、居ましたけど」
ちょっと面倒くさそうに言うと「やっぱりモテるんだ」と蛍が呟いた。
「タナカ君ビジュアルはカッコイイもんな。そうか、告白されるタイプやな」
「はい、そうですけど」律はちょっとドヤ顔になって言う。
何故か律は年上の女性に好かれた。高校の時も一つ年上の先輩に告白され、半ば強引に付き合わされた。会う約束もデートも彼女が次々決めていき、ファーストキスもほぼされたと言っていいくらいだった。先に彼女が卒業して、結局大学で新しい彼氏が出来たと言われ振られた。次に大学で一つ年上の先輩に告白され付き合った。律もそれなりにリードしなきゃと頑張ってはいたが、正直自分の気持ちが分からなかった。案の定なんか違うと半年で振られた。その次も二つ年上の先輩と付き合い、初めて女性と一夜を過ごした。が、結局彼女は卒業して社会人の新しい彼氏が出来別れた。人並みに一通り経験してきたけれど、社会人になってから彼女は居ない。って、かなり居ない・・・。
「りっちゃんは小学生の頃から優しくて、人の気持ち優先な子だったから、自分の気持ちぶつけなかったよね」
意識的にそうしていた訳ではなかったが、律は自分のせいで父を亡くしたからと自然に遠慮があったのかもしれない。幼い頃は皆を助ける戦隊モノのヒーローに憧れていたのに、自分はそんな大それた者に成れないと思っていた。心に蓋をしていたから、誰かを自分から好きになるなんて出来なかった。
「先生、話が反れてます!」
律はちょっと怒りも交えて珍しく大き目の声を出した。
「あぁそうだった、すまんすまん」
井原は釉薬を
「先生それ何色になるんですか?」
「これか、青っぽくなるかな。掛け方とか吹き付け方とかで変わるし、熱とか土の種類とか、これ!っていう色は表しにくいけどなぁ」
「へぇ」
「面白いやろ、陶芸。焼き上がるまで答えが分からんクイズを解くみたいなもんや」
「これが青になるんや・・・」
グレイの釉薬がたっぷり入ったバケツを撹拌機で混ぜる井原を見ながら律は興味津々だった。
「先生?陶芸展って作品並べるだけじゃなくて、土の違いや釉薬の色の出方なんかも展示出来たらどうです?作品展示ゾーンと陶芸の不思議みたいなゾーン。生徒増えるかもですよ」と蛍は目をキラキラさせて言った。
「おおお!それ面白いかも!」
律はワクワクしてまた珍しく大きな声を出した。
結局、楢崎主任も川島副主任も納得し、この案で十一月のイベントを進めることになり『芸術の秋、陶芸を楽しみ、学ぶ展』を催すことが決定した。その準備も含め、律は生徒として以外にも教室に足しげく通った。
◇
そんな九月の半ば、
「遅れました~乾到着で~す」
相変わらずのテンションで居酒屋の席に入ってきて、ちゃっかり主賓の碧の隣の席に腰を下ろした。
「碧ちゃん、お疲れさまでした!」
とビールが運ばれたら直ぐに乾杯と碧のグラスに合わせてグビグビと喉を鳴らした。
「はぁ~うまい!けど寂しいなぁ~滋賀に来たら碧ちゃんの顔が見れるのが楽しみやったわ~」
と調子のいい事をポンポン口から発し、ケラケラ笑っている。碧も乾を見てニコニコ楽しそうだ。
「本当に碧ちゃん助かったわぁ。ありがとうね」と向かいに座っていた川島が言うと「いえいえ」と碧は会釈する。
「中田さんのご指導のおかげです」
碧の教育係は律が担っていたので碧は礼を言った。
「いやぁ僕はなにも。稲本さんが出来る人で僕が助けられました。本当にお疲れ様でした」
そんな律を見ながら川島はふふふと笑いを堪えた。
「ん?なんですか?」
眉間にしわを寄せ律は川島の顔を見る。
「本当に碧ちゃんしっかりしてるし、ホラー映画も動じないし、ね~中田君」
「その話はいいじゃないですか」律はまたほじくり返すのかと言いたげに顔を曇らせた。
「りっちゃん、大丈夫や、ホラー映画俺得いやから。碧ちゃんと何回も一緒に見に行ったし」
「なぁ~」と二人声をそろえて微笑み合っている。
「・・・」一瞬律と川島が止まる。
「ちょっとちょっとどういうこと?」と川島が身を乗り出してきた。
「そやから、一緒にホラー映画見に行ったら気が合って」
乾は平然とそう言い
「今や俺の彼女、碧ちゃん」と自慢げそうに皆に紹介する。碧もふふふと微笑みながら「そうなんです」と言いながらネギまを口に入れた。乾と碧が顔を合わせながら「おいしい~」と和気あいあいに焼き鳥を頬張っていた。
「あ、そうや」と乾は思いついたかのように律に耳打ちをした。「碧ちゃんもうちょっと夏休みやから、ダブルデートせえへんか?」
「ダブルデート?誰と?」
驚いた律は乾と顔を見合わせる。
「そやから、俺と碧ちゃん、りっちゃんと香川さん、な」
「な、なんで?」
「ええやん、りっちゃん今彼女おらんやん。香川さんしか思いつかへんから、な、決まり!」
「は?」確かにその通りだけど、この急な強引な展開に律は戸惑ってはいたが、どこか心の隅っこで「やった!」という自分の声が聞こえた気がしていた。
◇
◇
晴れた日の午前十時半、乾、碧、蛍、そして律の四人は長浜港に居た。あと十五分で竹生島行きのフェリーが出港する。
「今日はいい天気やし、パワー充電出来そうやな」と乾はいつものテンションで上機嫌だった。急に誘われ戸惑ってはいた律も、蛍に声をかけたら二つ返事でオーケーを貰い、それなら「竹生島へ行ってみたい」とまでリクエストされたのだった。
「りっちゃん、竹生島って行ったことある?」
「いや、無いかも」
「知ってる?そこパワースポットなんだって。一回行ってみたかったんだぁ」
「へぇ、じゃぁ真司に行っておく」
そんな感じでポンポンと今日と言う日が決まった。幸い空一面青く雲一つない絶好のデート日和。秋晴れで空は高く、目の前には大きな琵琶湖が広がって、開放感でいっぱいだった。
チケット売り場から四人分の乗船券を乾と碧が買ってきて、二人が寄り添うように仲良く喋りながら、律と蛍の前に戻ってきた。
「おまたせ~」乾は二人に乗船券を渡す。
「そやけど、香川さん面影ないよなぁ~めっちゃ太ってたのに」
「おい!」
遠慮のない乾の言葉に律が慌てて口を押える。
「ふふふ、いいのよ、本当だもん」
蛍は笑いなが乗船券を眺めて言った。
「いや違うって、マジ、こんな奇麗になっててビックリして、モデルみたいやんか」
「あはは、急にほめ過ぎよ」蛍は乗船券を口元に当てながら照れ臭そうに笑った。
そうして四人はフェリーに乗り込み約三十分のクルージングで竹生島へ向かった。
最初デッキに出ていると風が心地良く顔に当たる。蛍の長い髪がなびき少し離れた所から律はちょっと見惚れた。その前方には乾と蛍がスマホのカメラで自撮りをしたり楽しんでいる。律は広がる琵琶湖の向こうを眺めながら、そのまま視線を空に向けた。(今日はいつもより青く見えるような気がする)そんな感覚が芽生える。「おかしいな」ポツリと声が漏れた。それに気付いた蛍が振り返って近づき「どうしたの?」と声をかけるが、咄嗟に「ううん」と首を振って律は空に燦燦と照らす太陽に手を伸ばした。
「眩しい!」
「当たり前よ」と蛍が笑って
「空って広いよね」と一緒に見上げ続けた
「皆、青空って好きでしょ。でも私はちょっと雲がある空の方が好き。白いふわふわってした雲が浮かんでる方が、空が立体に見えるでしょ」
「立体?」
「そう、雲の向こうとか、雲の動きとか、空が生きてるように感じるから、好き」
律は蛍が空の何が好きと言っているのだけど、その『好き』の語尾がちょっと胸にキュンと矢を放つようでいちいちドキッとした。
「曇ってても雲の向こうには太陽も青空も絶対あるし、雨が降っても上がったら虹がでたり。あ!知ってる?滋賀は虹が多いんだって」
「あぁ、それは何か聞いたことがある。山に囲まれてる地形とか、にわか雨が多いとか、だっけ」
「そうそう、イギリスも雨が多くて案外虹がよく見えるの」
そう言って蛍はこちらを見ながら話していた視線を少し遠くを見るように空に向けた。
律は彼女はイギリスに帰ってしまう人だったんだ、とふと我に返った。偶然の再会、思わぬ美しい女性に成長している姿にドキッとしたり、陶芸で作業をしながら何気ない会話を重ね、周りの地元の人達を交えて過ごす時間、井原と蛍のテンポよく仲のいい様子を目にし蛍に惹かれていたのは自分でも気が付いていた。小学生の頃から、心が重く青い空ですら曇って見えたこの空が、今日は眩しく青々と輝いて見える。なのに、いつか居なくなるんだ。
暫くすると目の前には竹生島が見えて来た。パワースポットと呼ばれるこの島で、自分にも神のご加護があるだろうか。横で「来た来た!もう着くぞ」とはしゃぐ乾を横目で見ながら律は神妙な顔をしていた。
港について、客は順に降りて行く。躓きそうになってふらついて碧が乾の手を掴み、二人はそのまま手を繋いで前を歩いて行く。律も気を付けて、と蛍に手を差し伸べ、ありがとうと蛍が手を握って少しゆらゆらする船から港の地に降りる。ふと自然に手が離れ、そのまま並んで乾達の後を歩く。律はちょっと眉を
「ねぇねぇ、弁天さんの幸せ願いダルマって知ってる?願い事を書いた紙をダルマの中に入れて奉納すると願いが叶うって」
「ほんま?それしよ!」
乾と碧が楽しそうに話している。
竹生島は日本三大弁天の一つ「弁才天」を安置する
四人は階段を上がり、順に参拝しながら琵琶湖を眺めたり写真を撮ったりした。そして宝厳寺に着いて「これこれ!」とダルマに願い事をそれぞれ書く。何書く?と乾と碧はイチャイチャ話しながら仲良く書いている。蛍は一人サラサラと書きダルマにその紙を納める。律は少し考え込んだ。「願いっか・・・」改めて願い事と言っても思いつかない。ペンを握ったまま暫し動きも止まっていた。
「りっちゃん、何書いた?」
乾が覗きに来るが白紙の紙を目の前にして律が「何書こう?」と乾に振り返る。
「お~い、自分の願い事他人に聞くか?」そう言って笑う。
「健康とか、お金とか、家族とか、まぁ恋?とか」とニヤニヤして乾は続けた。
「あ!」律は閃いたように紙に書き始めた。
『怜央姉ちゃんと航君が幸せになりますように』
「おい!お前どこまで優しい子やねん」
と乾は律をぎゅーっと抱きしめ、やめろ止めろと律が払いのける。
「二人本当に仲良しよね」
そう言って蛍は碧と笑って見ていた。
島の中をぐるりと参拝する道を順に進み、都久夫須麻神社から琵琶湖に向かって立つ鳥居を拝殿から少し下方に眺めた。その向こうには広く青緑の琵琶湖が広がり、それは空の青ともつながっている。
「ここの鳥居に向かってこのかわら投げやろう」と碧が鳥居を指さした。
鳥居の間を薄く焼いた焼き物(かわら)を投げ、通ると願いが叶うという。
「こんなにお願いばっかりしていいの?」
蛍が少し笑って言った。
「ほんま」律も思わずそう漏らす。
「ええねん!折角来たんやから、いっぱいお願いしとこ」
乾は何をお願いしようかとあれこれ迷っていたが、結果から言うとかわらは一つも鳥居を抜けなかった。フリスビーのように投げるのだが、うまく真っすぐ狙い通りには飛ばない。碧も惜しいところまで飛んだが落ちて岩にガシャンと当たって落ちてばかり。律も鳥居の柱に当たったもののそのまま割れて落ちた。
「最後に香川さんやで!頑張ってやぁ」
乾がはっぱをかける。
「いくで!」
珍しく関西弁で蛍が気合を入れて投げた。少しカーブを描いたように見えたが、それが蛍の立ち位置からだと丁度鳥居の真ん中に向かって飛んで行った。
すぅ~
吸い込まれるように鳥居の真ん中を通り抜け地面に落ちて割れた。
「やった!」
蛍も他の三人も大喜びでハイタッチし合う。
「凄い!香川さん願い叶うやん」
律が目を輝かせて蛍の顔を見る。蛍の顔は今までの中で一番嬉しそうに顔を真っ赤にして喜んでいた。
「ほんで、願い事は何?」
乾は早速聞き込みを始める。
「内緒」
蛍はそう言って微笑んでいた。しつこく、なんで~と乾は聞いていたが、蛍は笑って誤魔化すだけだった。
そうこうしていると、少し雲行きが怪しくなってくる。気付くと鼠色の雲が空一面を覆っていた。かと思えば、急にザーっと激しい雨が降り出した。バケツの水をひっくり返したようという表現通りに塊で雨が空から落ちてくる。四人は幸い屋内に居たので濡れずにすんだが、歩道を歩いていた観光客は慌てて屋内に逃げ込むが、すでにビショビショになっている者もいた。
「これゲリラ豪雨やな。長引かんと直ぐ止んだら大丈夫やろ」乾がそう言いながらスマホで雨雲の様子をチェックする。
しかし、なかなか止まず三十分ほど雨宿りするしかなかった。
「これって帰りの出港時間どうなりますか?」碧と蛍が船の時間を気にして案内の人に聞いている。どうやら雨がやんでからの出港になるらしい。
「マジか・・・」
四人は空を眺めて呟いた。あんなに青かった空がどんより重く琵琶湖に落ちそうだった。
結局午後一時に長浜港に到着して帰る予定だったのが、一時間ほど遅れて二時を回っていた。
「お腹ペコペコやで」と元気が取り柄の乾がすっかりエネルギー不足になっている。とは言えランチタイムが終わった時間で、思っていたお洒落なカフェなどは閉まっていた。
「ファミレスでもいいやん」と言う律の言葉を遮って「そうや!律のおか~んの卵焼きが食べたくなった!律、電話して!今から行くって」と無茶なことを乾は言い出す。
「おい、そんな急に・・・」
乾のおねだり顔が律を見つめる。こういう所があざといけど、乾の可愛らしい所でもある。
「りっちゃん♪」
「真司、お前僕の家に来過ぎ」
と律は冷ややかな目を細めて見返すが、渋々薫に電話をし、薫もどうぞどうぞと返事をした。
四人は真司の運転で律の家に向かう。
「お!見て!」
真司は前方に見える虹を指さした。助手席に乗った律は「わぁ!」と声を上げ、後部座席から蛍と碧が顔を寄せて覗き込む。
雨が上がって大きな虹がかかっていた。重く暗かった雲が少しずつ流れ、日差しが顔をのぞく。律の家に近づくころには雨もすっかり止んでいた。
「雨の後には虹が出るっか・・・香川さんの言う通りや」
ボソッと言った律の声が蛍には聞こえたのか「ん?」と首を傾げられた。
「ううん」微笑んで律は空をずっと眺めていた。
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