第24話 机と椅子

「……リーデル、机と椅子が欲しいだろう?」

「はい?」


 ──ボコッ……ボコボコッ!


 ……わっ!?

 世界樹そばの地面から、たくさんの幹が生えてきて……。

 それがテーブルや椅子の脚になって、枝が広がって繋がって、平面や背もたれを作って……。

 数人掛けのテーブルと椅子が、あっという間に完成っ!

 あ……テーブルの中央や、椅子の背もたれの端から、葉っぱが繁ってきた──。


「不格好ですまんが。幹や枝だけを伸ばすというのは無理でな。必ず葉を添えねばならんが、我慢してくれ」

「い……いえいえっ! こんな立派なテーブルと椅子、ありがとうございますっ! 葉っぱもインテリアとしておしゃれですよっ! 即興で、工具も使わず家具を作れるなんて……器用なんですね、エクイテスさんって!」

「そう言ってもらえると、俺も


 ……美味しい?

 あっ、エクイテスさんのいまの語彙力だと、「うれしい」って気持ちは「美味しい」って言葉になるんだわ、きっと。

 勉強机と椅子もできたことだし、わたしが人間の言葉を教えてあげようかしら。

 けれどそれって、でしゃばりな気も……。


「学校というものを覗いて、人間の生活には机と椅子が不可欠だと知った。さあ、座ってみてくれ、リーデル」

「はい。それでは……失礼します」


 椅子は地面から生えているから、後ろへは引けない。

 テーブルと椅子の隙間へ横から入り、着席。

 椅子が引けないとなると、背もたれはないほうが席に着きやすくなるけれど……。

 それって背もたれを、ノコギリかなにかで切り落とすことになるわけで。

 エクイテスさんの体へ刃物を入れるわけにもいかないから、口には出さず。

 椅子を引けないから太っている人は座れないけれど、この聖なる丘、世界樹の根元へ立ち入れるのは、細身のわたしだけだから問題なし。

 ……うん、細身。

 でもあとちょっとだけ、体重絞ろうかしら──。


「……どうだ?」

「あ……はい。快適です」

「そうか。作った甲斐があった」


 実を言うと、お尻が少々……ううん、けっこう痛い。

 木の枝が寄り集まって平面になっているとは言え、工具で均しているわけではないから、枝の凹凸がゴツゴツ。

 その昔、こんな感じの拷問用の椅子があったと、歴史の授業で習ったような……。

 ……………………。

 ……あれっ、ちょっと待って。

 世界樹の枝葉って、すべて本体の世界樹と根っこで繋がっていて……。

 その感覚はエクイテスさんに伝わっている……のよね。

 クラッラお姉様の一撃で、エクイテスさんは葉を散らせたわけだし。

 ということは、ということは、ひょっとして────。


「あ、あの……。エクイテス……さん? もしかしていま、わたしのお尻の感触……伝わっていますか?」

「ああ。柔らかく、なかなかにぞ。おまえの姉の拳とは雲泥の差だ」

「ひええっ!?」


 いっ……いまのわたしって……。

 エクイテスさんの太腿の上に、腰を下ろしている格好なんだわっ!

 それはさすがに恥ずかしいっ!

 ダメダメっ、人間の姿のエクイテスさんへ座っているところ……想像しちゃうっ!


「あ、あの……エクイテスさん? 今度来るときは、クッションを持参してもよろしいでしょうか? わたしの背丈ですと、テーブルがちょっと高いかな……と」

「別に構わんぞ」

「ありがとうございます……ほっ」


 ──すっ……。


「……えっ?」


 エクイテスさんが背後から、わたしの右頬を、軽く撫でてきてる──。

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