世界樹VSクラッラお姉様

第21話 世界樹へ挑む女

 ──中央棟2階、食堂の上階。


 そこは武道場。

 普通科の生徒は武術の基礎を学び。

 警察官や軍隊を志す生徒は、その技を磨き上げ。

 そして武術家を志す者は、朝な夕なに鍛錬に打ち込む。

 いまその学びの場で、とんでもないことが始まろうとしている……。

 クラッラお姉様と、エクイテスさん……世界樹による一戦。

 姉さんは足を肩幅に広げた姿勢で、指の骨を鳴らしながら闘志満々──。


「ふふっ……ありがと。手合わせ受けてくれて」


 一方のエクイテスさんは、落ち着いた表情。

 窓から招き入れた枝葉の大きな塊を背に、落ち着いた佇まい。


「構わんさ。おまえもスティングレー家の血筋とあらば、これくらいの座興にはつきあおう。ただし、いまは人間の姿をしているとは言え、俺の存在は世界樹そのもの。刃物や釘はともかく、人間の拳は通用せんぞ」

「それって、世界樹の太い幹を殴るようなもの……ってこと?」

「ようなもの……ではなく、そのもの。まともな手合わせになるはずもない。よって勝負の内容は、俺に決めさせてもらおう」


 クラッラお姉様がニヤリと笑んで、左右の手を顎と脇腹へ同時に添える。

 その流麗な所作を受けて、観客のあちこちから「キャッ!」という黄色い歓声。

 お姉様には女子の……それも、下級生のファンが多い。

 女性の端正な顔立ちと、細い体つき。

 それに男性の強さと野性味を兼ね備えている。

 加えて格闘術の使い手。

 屈強な男子を相手に五分……あるいはそれ以上に立ち回る姿へは、女子の応援団による人垣ができるほど。

 一方のエクイテスさん。

 一見紳士然とした細身ながらも、骨格たくましい男性の体つき。

 世界樹という神秘性に、整ったお顔立ちと、繊細で柔らかそうな碧色の頭髪。

 それでいて自称が「俺」な、ちょっと粗暴な言葉遣いというギャップ。

 きょうだけで、多くの女子の心を掴んだに違いない。

 いま駆けつけている観客の女子、お姉様とエクイテスさんのファンが半々……かしら?

 わたしはどちらを応援すべきか、ちょっと……苦しい立場。

 けれど相手が霊木である以上、できればクラッラお姉様に手を引いてほしい。

 性格上それは絶対にないって、妹のわたしが一番知っているんだけれど……。


「……へえ。世界樹様からのありがたいご提案、聞こうじゃないの?」

「もし俺に、痛みを覚えさせたなら……。痛みに応じて、背後の葉を散らそう。一枚でも落葉らくようさせたら、おまえの勝ち。これだ」

「それ以外の条件じゃ、勝負受けない……って顔ね」

「無論。校庭を見てのとおり、俺がその気になれば、この建物を崩すのも造作ない。とはいえ、伐採用の道具や炎を持ち出されると、俺も弱い。互いに納得のいく勝負としては、妥当な提案だが?」

「……了解。暴風雨にも豪雪にも永く耐えてきた巨樹を、人間の打撃で揺らすことができるか否か……。面白いじゃない!」


 ──ビュッ! バッ! シャッ!


 ウォーミングアップの拳の突き出し、体の捻り、鋭い蹴り……。

 武術の成績悪いわたしでもわかる。

 幼少時に無理やり稽古につきあわされたわたしだからわかる。

 あれは……当たると絶対に痛いっ!

 ああっ……お姉様の強さを的確に語る語彙力がないっ!


「さーて、世界樹さん。そろそろ、いいかしら?」

「いつでも」

「では遠慮なく……いざっ!」


 お姉様が、エクイテスさんへと正面からにじりよって……。

 大またぎの歩幅一歩分の距離へと、間合いを詰めて……。

 右足をすばやく伸ばし、一気に間合いを詰めての……拳の連打っ!


正中線落打せいちゅうせんらくだ・四連撃っ! はあーっ!」


 ──ドッ、ドッ、ドッ、ドッ!

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