第18話 打算

 ──校長室。


 入学して間もないころ、校内見学の一環として入った記憶はあるけれど、それ以降は一度も入ったことない……と、記憶してる。

 ふかふかの厚い絨毯、高価な木材で造られた、ニスでてかてかの重厚な机。

 その向こうに座る、額が脂ぎっててかてかの、すっかり髪が薄くなった肥満体の校長先生。

 入学したころは、もっとフサフサだったはずだけれど……。

 冬季の樹木が葉を散らすように、その頭は寂しげ。

 樹木と違うのは、来春になってもフサフサに戻らないところ。

 その点エクイテスさんは、この先何十万年……いえ、何百万年もフサフサでいそうだけれど……。

 平凡な一市民のわたしには、寿命的にそれは確認できない……。


「さ、リーデルくん。に座って座って」


 校長先生の机の手前には、来客用の細長いテーブルと、それを挟む二人掛けのソファー一対。

 それぞれに、クラッラお姉様と、ユンユが先んじて着席中。

 これはいったい、どういう状況なのだろう……。

 とりあえず、座るならばユンユの隣……。

 クラッラお姉様からは、幼少のころから頭を叩かれてきたから、いまでも隣に座るのを本能的に避けてしまう……。


「いやいや、豪族スティングレー家の艶やかなご息女揃い踏みとは、校長のわたしも緊張しますな。そうそう、卒業生のローンくんも、わが校屈指の淑女でありましたな」


 校長先生、突然のわが姉妹招集、からの謎のおべんちゃら。

 けれどローンお姉様が、わが校創立以来の屈指の淑女というのは事実。

 いまは亡きお母様からふんだんに授かった美貌、洗練された立ち居振る舞い、分け隔てなく与えられる柔和な言葉と笑顔。

 その艶姿に惹かれる男性は生徒のみならず、教師からの求婚も後を絶たず──。


「さて、きみたちに列席いただいたのはほかでもない。あの世界樹のことだ」


 ……ですよね。

 校長先生は計算高く、こすっからい人物と、常々聞いています。

 一刻も早くエクイテスさんにご退場いただくよう、当家の在校生へ釘を刺すためのこの招集……ですよね。


「さて、校庭に突如生えたあの世界樹だが……」

「は……はいっ! すぐにお帰りいただくよう、わたしから世界樹様へ平身低頭、お願いしておきますっ!」

「ああいや……そうではない。あの世界樹様に、末永くわが校の校庭に居ていただくよう、とりなしてほしいのだ」

「……はい?」

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