校内に世界樹!?

第17話 授業風景

 ──キーンコーン……カーンコーン♪


 中央棟の屋上にある釣鐘から、始業開始の音色。

 校庭の世界樹はそのままに、学校側は普段通りの授業を開始。

 そう、普段通り……。

 わたしがいる高等部1年生の教室には、開けられた窓から世界樹の枝葉が伸びてきて入り込み……。

 50人強の生徒がいる教室の後ろには、エクイテスさんが立つ。

 それ以外が、いたって普通どおり……。

 ただ──。

 視線を正面の黒板から背け、ちらちらと背後のエクイテスさんを見る女子多数。

 中には机の下に手鏡を忍ばせて、エクイテスさんを凝視している子も。

 ──無理もない。

 わたしだって当事者でなければ、エクイテスさんの美貌に興味を持って、同じ挙動を繰り返していたと思う。

 けれど……けれどね、女子のみんな──。

 こういう非常事態の当事者になってしまうと、そうはならないのよーっ!

 校庭の世界樹が巨大化して、校舎を壊さないかとか──。

 世界樹お仕えのわたしに、陰険な意地悪が多発しないかとか──。

 そういう心配やストレスで胃が痛いっ!

 どうか先生、わたしに……わたしに板書の出題を、答えさせないでくださいっ!

 いまはただただ、目立ちたくないんですっ!


「そ……それでは、ザッカ・キサイトくん。前に出て、この数式を解いてください」

「あ……はい」


 ほっ、よかったぁ……。

 クラスの秀才男子、キサイトくんへの指名。

 そう……そうよね。

 都市立校の教師は、税金で給与が支払われる公職。

 ここで下手にわたしを指名して、わたしが問題を解けず、世界樹たるエクイテスさんの機嫌を損ねる……なんて愚行、避けるわよね。

 そう考えれば、わたしはきょうは安全圏……。

 むしろ普段より、楽な授業かも──。


「あー……それでは、次の問題。す……スティングレー・リーデルくん。前に出て、答えなさい」


 …………は?

 先生、どうしてわたしの名前を?

 わたしが不得手な数学の授業で、どうしてわたしをご指名?

 ある意味最強のわたしの保護者、エクイテスさんが腕組みで立つこの教室で──。

 ……あっ!

 まさか先生、エクイテスさんに忖度して、わたしの見せ場を作ろうという魂胆?

 確かにいま、板書されてる数式、さっきのよりも簡単そうではあるけれど……。

 わたし!

 数学!

 苦手!

 それは先生も、採点や成績表で重々承知ですよねっ!?

 どうせ忖度するなら、中等部……いえ、小等部レベルの出題にしてくださいっ!

 エクイテスさんに、人間の数学なんてわかりっこないんですからーっ!


「……どうした、リーデル。名を呼ばれているぞ?」

「あっ……エクイテスさん。は……はい、存じています」


 うううぅ……なにやらエクイテスさんも、わたしの活躍をご所望の様子。

 けれどすみません、数学は……数学はぁ……。

 でも、ここで「わかりません」は、聖女としてあまりに不格好──。


 ──ガタッ!


「は、はいっ! スティングレー・リーデル、ただいま!」


 席を立ち、教壇のその先……黒板へと向かう。

 板書されている数式は……暗号、古代文字、意味不明。

 先生まさか、わたしにいいところ見せようと、高難度の問題出してますっ!?

 それ、ありがた迷惑ですからっ!

 黒板までウシの歩み……いえ、カタツムリの歩み……。

 それまでに、授業終わりの鐘が鳴ってくれれば。

 でも、無理だろうなぁ。

 授業始まってまだ、4分の1も時間消費してない──。


 ──カランカランカランッ♪


 ……あっ、用務員さんのハンドベル!

 いま、教室のドアの向こうで鳴った!

 個別の教室への、緊急連絡の合図!

 授業……中断するかも?


 ──ガラッ!


「授業中に大変申し訳ありません。スティングレー・リーデルさん、校長が会議室からお呼びです。いますぐ向かってください」

「あっ……はい! わかりましたっ!」


 た……助かったぁ……。

 校長先生が、どういう用件かはわからないけれど……。

 とりあえずは、目の前の窮地から離脱できるっ!

 これって、ユンユが言った……。

 わたしが「天」の女ゆえの、危機回避──!?

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