#21.百合ゆり前線異常ナシ
お日様が、さんさんと照る。
眩しい光に、私はばっと体を起こす。
「よし!! 今日も頑張るぞ、私!」
さえずる小鳥たちをみながら、私ーリンネは一人で叫ぶ。
建国式典から一週間がたちました。
あんな騒ぎがあったにも関わらず、式典は「怪我人ゼロ」という大団円で幕を閉じた。
とはいえ、起こったことは包み隠さず報告しなければならない。
ユサさんの一件は、四天王が事細かに説明してくれた。
やれムカつく、やれ意味がわからないだの、報告というよりは愚痴だったけど……
「同族として、非礼は我が詫びる。式典の最中、怪我人一つ出さず、無事に終えれたのは皆のおかげだ。よく無事でいてくれたな」
それなのに魔王は流すことも、無碍に扱うこともなく、同族だからという理由で何度も頭を下げてくれた。
しかも私に、怖くなかったか? なんて優しく聞いてきてくれて。
中身が本当の娘じゃないってわかってるのに、ちゃんと母として接してくれるんだもんなぁ。
さらに極め付けは、あのユウナギにフラグがたつという大収穫までできちゃったし!
この調子で、今日も今日とて、百合を探しに……
「おはようございます、お嬢様。今日もお可愛らしい顔ですね、アサカは嬉しくございます」
……あへ??
ドアを開けるが否や、待っていた人に口が開く。
朝一番、私に声をかけてくれるのはユウナギだった。
だがなぜか目に飛び込んできたのはアサカで、しかも爽やかな表情を浮かべている。
うん、それはもうとてつもなく爽やかぁぁぁな笑顔で……漫画とかアニメでいう、キラァンって効果音がついてそうな……
「えーっと、アサカ、だよね??」
「はい、アサカです。ご支度、お手伝いいたしますね」
「え? だってアサカ、いつもは自分でできるようにって……」
「まあ、誰ですかそんなことをいった人は。お嬢様に、そのようなことはさせられません。メイドとしてお世話をするのは、当然のこと。さあ、お嬢様。まずは髪型のセットから参りましょう」
そういうとアサカは、私の後ろに回る。
えーーっと? これはいったい、どこの誰ですか??
アサカといえば何をする時も、話す時もThe無表情。
一番忠実そうにみえて、マヒルとサヨに匹敵するほど口が悪い。
まあ? 前回のことにより、四天王全員だったってことがわかったんだけど……
しかし妙だな……こんなに優しくされるなんて、初めてなような……
「いだだだだだ!! あ、アサカ!! 髪の毛絡まっちゃってるよ!?」
「次はお召し物ですね」
「え、ちょっ、うぎゃっ!? こ、腰がきつ……」
「朝食、すぐに用意してきますね」
おぉ………なんて見事な空回り……
見たいと思っていた笑顔なのに、今は怖く見えて仕方ない。
どんなに私が叫んでも、もはや聞こえていないとばかりに台所へ向かってしまう。
髪の毛は絡まりまくり、さらにベルトはこれでもかというほどきつくしめられてる始末……
うう、なんの拷問なのこれ……
「お嬢、大丈夫か?」
急に、体が楽になった気がする。
気がつくとそこには、ユウナギがいた。
その後ろにはマヒルやサヨもいて、みんながアサカを見守るように陰に隠れている。
ようやく見れた三人の姿に、私は思わず思いの丈をぶつけた。
「み、みぃんなぁ! きいてよぉ、アサカがねぇ〜」
「声が大きい! あいつに聞こえるでしょ!」
ふんだ、耳が割れそうなほど大きな声のマヒルにだけは言われたくないもんだ。
「どうも最近、様子が変なんだよ。この前なんて、家事まで変わってくれてさ」
「ほんっと気持ち悪いったらないわ。あいつ、マヒル様の太刀筋は魔王様に匹敵しますぅ、とか言ってきたのよ! 顔合わせの時は、これでもかってほど襲いかかってきたくせに!!」
「それはあなたが魔王さんに喧嘩売ったからでしょ? でも、本当に変よね。まるで別人みたい……」
「皆様、お待たせしました。アサカ特製スペシャル料理です」
同時に、アサカが四つの皿を両手に抱えてやってくる。
机の上に並べられていたのは、焦げたパンに乱雑にジャムが塗られたもの。
もうこれだけで変なの確実じゃん……
いつもならデータ通りに、かつ正確に作ろうとするのに……
「ああもう、我慢ならないわ!!! あんた誰よ!!」
「はい、アサカでございます」
「んなことはわかってんのよ!! 一体何がどうしたっていうのよ!!? 最近のあんた、変よ!?」
「変、なんでしょうか? 建国式典でスキバユサの術を受けてから、すこぶる調子が良いのです」
そういえば、ユサさんが術をかけた時、アサカの様子が少しおかしかったような……?
『ほらみろ、やはり大変なことになっているではないか』
『あらあらぁ、本当だわぁ。みんなぁ、大丈夫?』
どこかで、聞いたことのある声がする。
パッと振り返ると、サヨの持つ貝殻から急に声が聞こえてきて……
「ちょっ、通信機!? 誰よ、こんな時に!!」
『驚かせてごめんなさいねぇ、お母さんとぉ、ディアちゃんでぇす』
「あんたかいっ!! 急にこないでよ! びっくりするじゃない!!」
『だってぇ、ディアちゃんがかけろってうるさくて〜占いで出たのよぉ、アサカちゃんがたいへーんって』
ああ、この言い方、めちゃくちゃ巳胡さんだ。
どうやらこの貝は、通信機になっているらしい。前はアサカが通信してたあたり、やり方も色々あるんだなぁ。
そんなことを思っている中、巳胡さんが実はねぇと話を切り出した。
『この前、ユサちゃんが術をかけたって話してたでしょ? どうやらその時、アサカちゃんにかかってた術や魔法が変に反応して、おかしくなってるみたい』
「ええっ、それってなんとかならないの??」
『そうねぇ……かけた本人なら、どうにかできるかも……?』
ん? かけた本人、だとう???
「ちょっと待って、アサカが人間になったのって、ディアボロスの魔法じゃないの!? こんな複雑な魔法、あんたしか使えないんじゃ……!」
『我は彼女を任されだけにすぎない。アサカの命は、錬金術により吹き込まれている』
でた!! 錬金術師!
ファンタジーといえばの定番職業!
『国の外れに、煙が立ってる家がある。奴なら、アサカを直せるかもしれん。アサカは、嫌がるかもしれんが』
「国の、外れ……? もしかして、アミに会えるのですか?」
その声がアサカだと気づくのに、時間はいらなかった。
どこか空な目で、声がする貝殻に向かってくる。
何を思ったのか、彼女はがっしりとその貝を握って……
「嬉しいです! ようやく、ようやく会えるのですね! この数年間……どれだけ待ち侘びたことか!」
「アサカ、知ってる人なの?」
「当然です! だってアミは、私の……!」
その時、ふらっとアサカの体がふらつく。
彼女が倒れる寸前、マヒル達が支えてくれる。
限界がきたとばかりに、彼女は眠ったように目を瞑っていて……
おやおや。どうやら、また何か起きそうだねぇ……
どこか真剣な空気とは裏腹に、私は密かに、一人でにやりと笑っていたのだったー
(つづく!!)
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