第12話 同盟

「そうだ、アンタの負けだよ。マルガレーテさん」

「なら、どうするんだ? ここであたしを殺すか?」

「この後に及んで援軍が来るとでも?」

「来るよ」


 マルガレーテは不遜な態度で答えた。なにか隠し玉があるかのような言い草だ。カルエとルキアは怪訝な表情を浮かべる。


「いや、正確に言えば、あたしの組織がオマエらを許さんって意味かな。情報の足は早いぞ? ブラッドハウンズのドンを弾いた情報なんて、すぐに広がる。一週間後には地獄で再開だ」


 ブラッドハウンズの結束は堅い。それは、原作でも嫌というほど書かれている。暴力主義を貫き通すためには、舐められたら終わりだ。ましてやボスがぽっと出にやられたとなれば、なおさらである。


「さあ、どうする? もう10分くらい経ったな。そろそろ、帰ってこないことに子分どもが気づくだろうさ。あたしの部下は強えぞ? それでもあたしを弾くか?」


 カルエは横目でルキアの手が震えているのを見る。これでは、まっすぐ弾丸を飛ばせるのかも怪しい。恐怖は判断力を鈍らせる。そんなこと、百も承知だ。

 なら、原作知識で勝ち抜くしかない。


「なあ、マルガレーテさん。アンタは本気であの男を愛してるんだろ?」

「あぁ?」

「アンタの言ってることはハッタリでもなんでもない。もしここでアンタを殺せば、あの少年がブラッドハウンズに通報するって魂胆なんだろうな」

「……、だったらなんだ?」

「部屋番号3005、にアンタの男は暮らしてる。髪色は赤色で、ビビリな性格だよな?」

「……てめえ、アイツも殺すつもりか!?」

「おれはチンピラだぞ? 未成年だからって容赦すると思うか?」


 マルガレーテの情婦、基情夫は、18歳の少年だ。原作では存在が明かされているだけだが、見た目と年齢はファンブックに書かれていたりする。また、部屋番号はマルガレーテの隠れ家なので、原作でも度々記されていた。


「ただまあ、アンタの言うことも一理ある。そりゃあ、ブラッドハウンズはおれらを消そうとするさ。だからここは、互いに利のある提案をしたい」


 すっかり炎が消え去った現場で、カルエは告げる。


「同盟を結ぼう」


 ほんのすこし、カルエの身体が本能的にびくりと震えた。しかし、それはマルガレーテには察知されなかった。

 しばし沈黙が続き、灰になったリムジンを掴み、無理やり立ち上がったマルガレーテは、やがてゲラゲラ笑い始めた。


「おもしれえなぁ、オマエ。このあたしとブラッドハウンズと同盟? こりゃあ、一本取られたぜ」


 途端にルキアが拳銃を向け直すが、まったく気にする様子もなく、マルガレーテは言う。


「上等じゃねえか。どこの誰を潰すのか知らねえけど、付き合ってやろうじゃねえかよ」

「潰す相手は決まってる」

「へえ、誰だ?」


 カルエ・キャベンディッシュが成り上がる方法を考えたとき、確実に邪魔になる者がいる。

 それは、


「ウィング・シティ第3警察署の署長、アラビカだ」


 本来ならば、敗北しているはずの相手。原作通りならば、主人公サイドに倒される悪徳警官。

 カルエに入り込んだ少年は、そんな署長アラビカに立ち向かうこととなる。

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