第11話 ランクBカルエVSランクAAAマルガレーテ②

「聴こえてるんだよ、馬鹿が」


 マルガレーテは即座にルキアへ炎を撃った。槍のように変化していくそれは、メラメラとルキアの骨をも焼き尽くそうと動き出す。

 だが、カルエの狙いとは、マルガレーテがルキアに攻撃、つまり視線を自身から別のほうへ傾けることであった。

 瞬間、カルエは脚についている小型ブースターで、マルガレーテの首元まで迫った。


「おい、死にたいのか!?」

「いやぁ……死ぬのはオマエだ!!」


 カルエは飛び立ったときに取り出したナイフで、彼女の胸元を刺した。血がじわじわ広がり、マルガレーテは途端に目を落としかける。


「オマエは胸あたりを改造してない。生のままだ。なら、そこをぶっ刺せば勝てると踏んでね」


 まさしく原作知識の面目躍如だ。これだけの改造を施されている存在の、唯一といって良いほどの弱点をついた。

 マルガレーテはその場にへたり込み、壁に寄かかり上半身だけを立ち上げる。


「てめえ……、どこで知りやがった?」

「どこだって良いだろ。さて、目撃者は全員消さないとならないよな?」

「やってみろよ、チンピラ」

「随分強気だな。これから射殺されるってのに──」


 ここで、カルエは思い出す。マルガレーテは原作通りならば、この場すらもひっくり返せるギアを所有していると。

 それに気づいた頃、カルエの右腕と両足は、ビビッ、という音とともにオーバーヒートを起こした。カルエは転げ落ちるように、地面に横たわる。


「誰が射殺されるって?」


 胸に刺されたナイフを抜き取り、マルガレーテは邪気に溢れた笑みを浮かべる。そのナイフをカルエのもとへ投げ捨てると、彼女による死刑宣告が始まる。


「惜しかったな。でも、良く頑張ったよ。来世じゃ、もう少し生き残れると良いな?」


 カルエは押し黙る。黙り込むが、彼女を睨むことは忘れない。その態度にマルガレーテは違和感を覚えたのか、すぐ殺してしまおうとハンドガンの照準をカルエの頭に合わせた。

 そのとき、


「銃を捨てて!!」


 マルガレーテはすべての電子機器をオーバーヒートさせるギアで、カルエを動けなくした。両足と腕がまったく動かない。電子機器が異常値を出していることだろう。

 では、カルエの相棒、ルキアは身体を改造していたか? 

 答えは、否だ。


(カルエ、シックス・センス使って脳内にアクセスしたわ。なにかすべきことは?)

(ああ、いまからおれは、『オーバーヒート』ってギアで改造してある足と腕が動かなくなる。そうなった場合、マルガレーテに銃を向けるのはルキアの役割だ)

(……いままで勘なのかなんなのか知らないけど、予感が的中してるものね。分かったわ)


 カルエは最悪の事態に備え、ルキアへシックス・センスを通じてテレパスしていた。それが功を奏し、場には無傷のルキアと出血が続くマルガレーテ、そして倒れ込むカルエという布陣が出来上がったのである。


「チッ……。こりゃあ、あたしの負けだな」


 マルガレーテは手を上げ、銃を地面に投げ捨てた。

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