第8話 原作知識でおれは変わる

 そんな折、レイ・ウォーカーが戻ってきた。こちらの動きを察知しているかのように。


「レイ、やることができた。おれたちは帰るぞ」

「ああ。またなにか困り事があれば、このレイ・ウォーカーにお任せを」


 煙たく薄暗い部屋から出ていき、ふたりは外へ出る。

 相変わらずパトカーはサイレンを鳴らしているし、発砲音は至るところで聴こえてくる。


「あの男、嫌いだわ」


 ただ、ルキアはこの街に慣れきっている。自分に危害が及ばなければなんだって良いのだろう。

 カルエは肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。


「そんな気がしてたよ。さて、早いところブラッドハウンズとブルームーンの抗争を傍観しよう」


 *


 ウィング・シティにも富裕層はいる。もっとも、ほとんどは悪事でカネを稼いだ者たちだ。でなければ、警察も消防隊もまともに機能していないこの街に暮らす理由がない。

 というわけで、夜遊びの時間だ。カルエとルキア30階建てのタワーマンションに来ていた。思わず見上げてしまう高さである。


「良い隠れ家だな。あの暴力主義者どものドンがいるとは思えない」

「まあ、私たちのやることも暴力主義だけどね」


 カルエとルキアは黒いバイク用のヘルメットを被り、スーツを着用している。黒いスーツの内側には、M2011という最新のハンドガンが入っており、威力は申し分ない。


「さて、ルキア。シックス・センスを試す時間だよ」

「なんだか貴方、言葉遣いが変わったわね……。まあ別に良いけど」


 まあ、勘付かれるのは仕方ない。暴かれることもないだろう。もし露呈しても、なにか問題があるとも思えない。

 と、考えを巡らせていると、


「護衛は2人ね。あのリムジンの中で待機してる。先に潰しとく?」

「いや、騒ぎを起こしたらあの野郎も気づくはずだ。降りてきたら始めよう」


 そんなわけで、ふたりはブラッドハウンズのボスが降りてくるのを待つ。


「ねえ、カルエ」

「なに?」

「貴方やっぱり変わったわよ。中の人格が誰かに乗っ取られてるみたい。計画を立ててその通りに動くなんて、貴方らしくないもの」


 カルエ・キャベンディッシュというキャラクターは、無鉄砲が売りだ。良く言えば度胸がある。悪く言えば脳筋。

 そんなカルエが、いきなり順序を立て始めたことを怪訝に思っているのだろう。カルエは(原作ではラスボス候補にもあげられていた)オルタナなんて知っているわけがないことも相まって、ルキアがそう思うのも無理はない。


「人間は変わり続けないと退化してくだけだぜ? おれだってしっかり成り上がりたいんだよ。もしこの世界に原作があるのなら、それすらもぶっ壊してさ」

「……ようやく貴方らしい言い草になったわね。それらしく振る舞ってるとも言えるけれど」

「どっちでも問題ないさ。で? ターゲットはいつ来そう?」

「もうエレベーターで降りてきてるわ。近づく?」

「そうだな」


 カルエとルキアは、ヘルメットの黒いシールドをおろし、脚をかがめて標的のもとへ詰め寄っていく。

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