第41話

「飛行式組強制解除! 制御噴射で姿勢を戻しなさい! 敵はどこッ!」


「──七時方向ですっ!」


 魔眼航法を発動させてエルラーザを見つけ出す。


 遠ざかるエルラーザ。ということは被害を与えたということだが、噴進弾を食らっても飛べるってどーゆーことよ?! 納得できないわっ!


「お、お姉ちゃん! 五番機と七番機が吹かないよっ!!」


「シズミル!」


「多分、伝送線が切れたんだと思う。八秒待って!」


「──敵がこちらを向きました!」


 ……海面に叩きつけられるか追いつかれるか微妙なところね……。


「お姉ちゃんっ!」


「お姉さまっ!」


「きゃあああぁっ!」


 悲鳴が飛び交うも、あたしは思考中でなので気にしない。


 回避する手は二つ。あたしの魔力で吹かすか代わりに噴いてもらうかだが、どちらも巧い手ではない。前者は疲れるし後者は弱点を晒してしまう。とはいえ、どちらかしかないのだから選ぶしかない。ならば、アレフが喜んでくれる方を選びますか。


 意志と魔力がラ・シィルフィー号を駆け巡り、第二格納扉の止め金──『爆管』へと集中させた。


 ボン! ボン! ボン! ボン!


 止め金が順番に爆発し、扉を蒼い空へと吹き飛ばした。


「さあ、しっかり驚きなさいよっ!」


 魔眼航法に完全移行し、全ての噴射を切り、第二格納庫内──ドゥ・シャトゥーの風進機で船体の姿勢を調整する。


 船首が真上を向いたところで魔進機を最大噴射。紺碧の海を噴出板にして蒼い空へと翔け昇った。


 扉を吹き飛ばしたことでドゥ・シャトゥーを守る壁がなくなり第3の魔力炉を披露してしまったが、アレフが喜んでくれたのならやった甲斐があるというものだわ。


「五番機、七番機、復活したよ!」


「ルミアン、根性の入れどきよ。しっかり入れなさい!」


「了解っ!」


 魔眼航法から操桿航法に移行する。


 急上昇から急旋回。真上から真下へ。視界が次々と切り替わり、重力が荒れ狂う。


 エルラーザの船首に光が集束し、魔砲が放たれる。それを烈光剣で斬り裂き、幾十もの襲いくる炎の槍を烈光陣で跳ね返す。


 怒濤の空戦に怒濤の射ち合い。余りのことに船体が悲鳴をあげる。


「──お姉ちゃん、セーラさんがっ!!」


 飛翔服を纏っているとはいえ、純精霊エルフの魔力器官では対処しきれない。これまで持ったセーラが飛び抜けているのだ。


「ルミアン、シズミルと交換。盾をやりなさい!」


「了解っ!」


「わかった! 魔眼航法使うよ!」


 技法の腕もさることながらシズミルの魔力も狂才級。まったく、ローダー一族はどうなっているのかしらね……。


「無茶はしても良いけど、バカはしちゃダメよ。シズミルの真価は戦いの前と戦いの後なんだから」


「わかってるよ!」


 ラ・シィルフィー号にシズミルの意志と魔力が満たされる。


 人のことはいえないけど、末恐ろしい子。この子は、狂才以上の狂才になるわ……。


 今は味方であることに感謝し、船首図や計器類を式玄に投影させる。


 損傷を意味する赤色が四分の一程ラ・シィルフィー号を染めている。計器類も半分以上が死んでいた。でもまあ、翔ぶことも戦うことも充分問題ない。極端な話、魔力炉と式組が生きているなら飛空船は飛べるのだ。


 さすがシズミルというべきか、滑らかで最小な旋回をしてエルラーザの背後を取った。


 射つ空雷弾にそれを阻止する空雷弾。蒼い空が紅蓮の炎に支配された。


「下にきます!」


 そんな紅蓮の炎が咲き乱れてもラ・シィルフィー号の"眼"を奪うことはできなかった。


「烈光陣!」


 船底に光の盾が生み出され、突き出される炎の槍を弾き返した。


 その隙を突こうとするが、そんなこと織り込み済みとばかりに船体を捻り、真上へと移動した。


 ガン! ガン! ガン! ガン!


 船底にある裂鋼砲が吼え、ラ・シィルフィー号の中央甲板を穿つ──が、槍は突いてこそ真価を示す。


 とはいえ、やられたらやり返すのが礼儀ってもの。こちらも反転して船底裂鋼砲を吼えさせた。


 螺旋を描きながら裂鋼弾の応酬をさせながらお互い己の身を削って行く。


 ……にしても頑丈な船ね……。


 魔力壁に寄る防御を捨てているクセに装甲板はやけに硬いじゃないのよ。通常弾だったら弾かれているところだわ。


「なら奥の手だもん! パルア!」


「いつでも良いぞ!」


 なにをするかわからないが、ドゥ・シャトゥーでエルラーザを追っ払った2人なのだ、口を出すなんて野暮はしない。


 螺旋を描きながら裂鋼弾の応酬をしながら核石弾を正面に発射した──が、二百メローグもしないで強制爆破。灼熱の炎が壁と化した。


「ラ・シィルフィー号、最大噴射! パルア!」


「拘束錨発射!」


 エルラーザを追い越した瞬間に船尾の拘束錨を二つ、エルラーザの船首に射ち込んだ。


 そのまま突っ込むと思いきや魔力壁を利用した制動──というよりは破れかぶれ的なものを行い、ラ・シィルフィー号は木の葉のごとく荒れ狂った。


「拘束錨強制切断! シズミル!」


「飛行式組最大強化! 魔進機、最大噴射っ!」


 荒れ狂う視界にエルラーザが灼熱の炎に放り込まれるのが見えた。


 ……な、なんつー無茶苦茶なことを……!?


 余りのことに絶句してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る