第34話

〈ルミアン。四時方向から空雷弾がきます〉


「はい!」


 ラ・シィルフィー号が急加速。少し遅れて重力結界が働いた。


 ……高度で難易度の高い重力魔術を使用してるのはわかるけど、もうちょっと反応良くならないの? 胃液が口から飛び出しそうだわ……。


「下方から赤いラ・シィルフィー号がきます!」


〈セーラ。煙幕弾を〉


 セーラが返事をする前に結界を無視した衝撃と爆音があたしの脳を激しく揺さぶった。


「左舷翼に被弾。飛行式組に異常! 速度、落ちます!」


 同型船なのにあっちの方が動きが良いってどーゆーことよっ!?


〈ダルナスが撃墜。二人が捕まりました〉


 銀騎が耳許で囁いた。思念波も結構疲れるのよ。


 天女たちに気がつかれないように指で指示を出すと、了解と銀騎があたしの腕に手を置いた。


「両舷から筒状のものが向かってきます。数、四!」


〈キラキラ星発射!〉


「了解。キラキラ星発射っ!」


 魔力を吸うキラキラ星だが、元は金属片。固体弾なら煙幕にもなる、か。銀騎もやるじゃない。


「全弾撃破! 赤いラ・シィルフィー号が急上昇しました!」


〈今よルミアン! 魔進機、最大噴射!〉


「はいっ!」


 さらなる加速で胃が捩れる。意識が歪む。


 どふ! どふ! どふ!


 鈍い音と衝撃が伝わってきた。


 たぶん、徹甲型のものでしょうが、魔力壁と三層構造の装甲板を貫くんだから相当大型のを搭載してるわね。


「上からきますっ!」


〈弾幕を張りなさい。下舷方向に核石弾を発射。出鼻を挫きます〉


「船首から第一格納扉まで被弾! 魔力伝導率低下!」


〈予備の流体金属で対応しなさい。飛行式組解除。第五飛行式組に移行します〉


 銀騎と天女たちのやりとりで敵の性能とこちらの限界が見えてきた。


 ……こちらの未熟さを考慮しても敵の船の性能が良すぎるわ……!


「お姉ちゃんっ!!」


〈ロリーナ!〉


 迫りくる死に堪えきれず、ルミアンと銀騎が叫んだ。


「──諦めるなぁっ!」


 操縦を奪い取り、魔進機を臨界まで噴射させる。


 精神が欠けて行きそうな感覚を無視して敵──『エルラーザ』を見つけ出す。


 今のあたしに弾を当てるまでの精神力はない。やるなら特攻。近接戦しかない。


 上舷八時方向にエルラーザを発見。こちらに突っ込んでくる。


 ギリギリで急回頭。気流を乱してやるが難なく回避され、後ろを取られた。


 けど、それがあたしの狙いだ。


 魔進機を緊急停止。さらに緊急停止用の結界を発動。さらにさらにで逆噴射機を最大で噴射させた。


 無謀な行為にラ・シィルフィー号の船体が悲鳴を上げる。ついでにあたしの精神も悲鳴を上げる。


 こちらのありえない行為にエルラーザが慌てて回避行動を取るが、逃がさん! 船底の制御用風進機を唸らせエルラーザの下を取った。


「──烈光剣ッ!」


 船首に魔力が集中。激しく輝く光の剣となる。


「食らえッ!」


 エルラーザの左舷風進機から船体中央部まで斬り裂いてやった。


「ルミアン、逃げなさい」


 魔眼航法を切り、操縦をルミアンに渡した。


〈敵が風進機を強制排除。飛行式組を再構築しています。大丈夫ですか?〉


「……な、なんとかね……」


 とはいえ心臓は激しく高鳴り、頭の奥で光が乱舞してて吐き気で内蔵が飛び出しそうだわ……。


「……ぎ、銀騎さん。魔力が……」


〈魔進機停止。第七飛行式組に移行。臨界まで噴射しなさい〉


「銀騎さん。敵がこちらを向きました」


〈このまま翔びなさい。もうそれしかできないのだから〉


 ……そーね。それしかないわね……。


「……な、なに、あれ……?」


 船橋が沈黙で満たされる中、ネルレイヤーが呟いた。


〈──鋼騎!?〉


 銀騎が叫ぶ。


〈シズミルとパルアが!? ……ええ、わかりました。ルミアン、このまま飛行しなさい〉


「……は、はい、了解です」


 なにをするのか好奇心が反応し、岩のように重い瞼を開かせた。


 前方でなにかが光る。なんでしょうと目を凝らすと、突然視界が碧くなった。


〈風進機を搭載し、追尾する空雷弾ですって!?〉


 いつも冷静な銀騎が声を荒立てた。


「鋼騎さん!?」


 ネルレイヤーの驚きに視線を上げると、船橋の防風窓に鋼騎がしがみついていた。


 と、鋼騎の目が点滅──発光信号(あたしたちにだけ通じる通信手段の1つよ)を放つ。


〈このまま進め。敵はおれたちで追い返す、です〉


 銀騎が解読すると直ぐに離脱した。


「前方からなにかきます。……飛行艇?」


〈いえ、魔鋼機?〉


 凄まじい速度で前方からきた物体は、雲を引きながらラ・シィルフィー号の真横を通過して行った。


 あの下半身、確かシズミルと初めて出会ったときに乗っていた飛行艇だわ。あん、見えない! どこよ?


「お姉ちゃんっ!」


「お姉さまっ!」


 ネルレイヤーを押し除け、防風窓にへばりつく。


〈すみません、ロリーナ〉


 首筋にチクリと痛みが走ったかと思ったら碧い世界が真っ暗に染められた。

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