赤ちゃん転生したら2人の英知な魔女に拾われました ~落ち込むと両側からサンドしてくれて乳のパワーまじ凄い、この膨らみに感謝してぼくは最強の魔道師をめざします!~
第13話 海上の大赤斑(だいせきはん)
第13話 海上の大赤斑(だいせきはん)
この世界で「魔力」と呼ばれるものを、ぼくは「気脈」と呼んでいた。
気脈は物質により、様々な形へと変化していく。
ただ共通して言えることは、良い気脈とは川の流れのように
すっきりした流れをしているんです。
すっきりしていなければ、そこには何かしらあると言うこと。
ぼくはほんのひと時、海に背を向けて、お師さまとフーリーさんの喧嘩っぷりに惚れ惚れとしていた。
「うはーっ♡」
「
「ん?」
ぼくはお師さまの背中を見つめる。
おっと、魔法も使わずにとは少し違った。
黒いローブの内側。
お師さまの背中で、気脈が「8の字」にぐるぐる回っているのが見える。
何かしらのお手製の「
お師さまの肩書は五教の修道院長だけど、本職は「魔道具作り」だったりする。
お師さまが作る魔道具は、その界隈でけっこう有名らしい。
だからちょっと思う。
将来はぼくも、その魔道具作りのお手伝いを――
「はうわっ」
ぼくが人生設計のような思考を巡らせていたら、気脈に
ぼくは慌てて顔を戻し、海を見つめる。
「ああっ!?」
通常、海の気脈(魔力)は、海流に沿って川のように流れていた。
妖狐の眼でそれを眺めると、海面のすぐ下に白銀の大河が見える。
その流れの中に、ぽっかりと赤い穴が開いていた。
それはまるで、巨大なガス惑星の
気脈の大河は乱れながら、その穴を避けるように西から東へと流れている。
ぼくは流れに逆らう大赤斑を見た瞬間、白い尻尾がパンパンに膨れ上がってしまった。
「おっ、お師さまー!
お師さまっ、お師さまああああっ!」
「来たのねっ」
ぼくの叫び声に、お師さまは男へアッパーカットを食らわせながら振り向く。
ちょっと鼻血が出ているけれど、お師さまの美しさは損なわれていない。
そして火事と喧嘩は止めようにも、なかなか止まらないもの。
お師さまは勢いの止まらない冒険者たちを、殴りながら尋ねる。
「どこなの!?」ガコンッ
お師さまに、気脈の流れは見えない。
「港の正面に、大きな穴がありますっ、ぽっかりっ!」
「ぽっかりなのねっ!」
お師さまは、全身ずぶ濡れの男を掴み怒鳴った。
「聞いたでしょっ、スタンピードが来るわっ!」
襟首を掴まれた男は、最初に海へ落とされた男だった。
海から上がってもう一度ケンカの最前線にくるなんて、なかなか根性がある。
男は怒りと酔いと鼻血で、顔を真っ赤にして吠え立てた。
「来るわきゃねえだろっ、つまらねえ嘘付きやがってっ!
街のことに、首突っ込むんじゃねえっ。
俺たちが体張って守ってんだっ。
ぽっと出で住み着いたよそ者が、ガタガタ抜かしてんじゃねえぞおっ!」
「だから来るって言ってるでしょ!」ゴキンッ
「ぐはあっ」
お師さまが股間にローキックを食らわすと、男は前かがみとなり、生まれたての小鹿のように足を震わせた。
けれど倒れないっ。
剣士は歯を食いしばって意地を通す。
「俺があっ……俺がいる限りっ。
この俺がああああああっ!」
「お師さまあああああっ!」
剣士とぼくが同時に叫んだその時――海面が爆発した。
突発的に高波が堤防へ襲い掛かり、その上で暴れていた血の気の多い連中を、きれいさっぱり洗い流してしまう。
その中でぼくたち3人だけが、ずぶ濡れになりながら高波をしのいで、堤防に留まった。
お師さまとフーリーさんは拳を、ぼくは妖狐の爪を堤防へ突き立てていた。
ぼくは海水でしみる眼を見開き、口をあんぐりと開ける。
ぼくのすぐ脇の上空。
星の瞬く夜空に、巨大なクジラが浮かんでいた。
いや、なんか違う。
クジラと言うよりも、もっと胴の長いウツボのような形をしてた。
その巨大なシルエットが星空を切り取るようにして、くっきりと見える。
浮かんでいるのではなくて、クジラのように海中から勢いを付けて飛び出したようだった。
さっきの爆発は、大赤斑から巨大魚が飛び出した水飛沫だった。
その巨大さのあまり、ぼくたちの上空を通過するとき、まるでスローモーションのように見える。
全身から海水を滴らせながら、ゆっくりとした大きな弧を描き、港の街へ――
その間、誰も何もできなかった。
ぼくもお師さまも、フーリーさんも、真夜中に泳ぐ羽目になった冒険者たちも、巨大魚が落っこちて、街を押しつぶすのをただ見ているしかなかった。
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