第41話 決戦前

「お前がやったのか!なぜだ!友人じゃなかったのか!」

「酷い誤解だわ。そんな訳無いでしょ、私も智子は好きよ」

「では何故お前がここに?絶望しない?松原は?やることとはなんだ?」

「らしくないわね玲司、回復させている間に必要な事は話すわよ。そっちの人はどうするの?」

「聞いておこう」

そうだ、何故咲耶はすぐに回復を?助かるのか?あの状態から?


「説明出来る事は少ないし私も全部分かってる訳じゃない。時間も無いから今は聞きなさい。ダンジョンで死んだ魂はダンジョンが捕食する、つまり智子の魂はダンジョンに食われた、だからダンジョンコアを破壊して智子の中にダンジョンコアの魂を入れる。まだ形を残した智子の魂は体に戻るはず」

「は?」

「徘徊しているモンスターが強すぎる。多分あれは元守護者、ダンジョンの守護者が最近入れ替わって追い出されたんでしょう。まず間違いなく鉄平がそこにいるはず。コアを破壊すれば鉄平は開放される。肉体が死んだらダンジョンが複製を復活させるから、まだ一度も死んでいない事を願うしか無い。戦っても殺しちゃダメよ」

何を言っているのか、何も分からない。理解の範疇外だ。


「ともちゃんは、生き返るの?」

「そうね。体を治せるあの子がいて、すぐにダンジョンを攻略する戦力もある。奇跡が重なっているのよ。きっと智子を生き返す事が出来ると信じているわ」

「だったらあたし何でもする!何でも言って!」


ダンジョンを攻略する戦力?お前の事か?セリナは槍を携えている。以前ダンジョンに行った時は擬態していたか。

「お前は俺達を騙していた。それなのにお前を信じろというのか」

「嫌なら構わないわ、元々一人でやるつもりで来たし。智子のことは琴音が担いでくれるでしょ」

クソ女が!悔しいが信じて行動する以外無い。もう引き返すことは出来ない。


「お前のことは聞かない。だが一つだけ教えてくれ、なぜ鉄平が守護者になっていると分かる」

「ダンジョンが気に入った物を飲み込むのはたまにあることよ、殆どは上級だけどね。下級ダンジョンで呑み込むなんてどれだけ鉄平に執着しているのよ。絶対にぶっ殺す」

執着しているのはお前だろう、気色の悪いクソ女が。


「回復を終えました。体は綺麗に戻っています」

「話は聞いた、当然俺も行く」

「話は決まったようだな。俺も行ってやる」

セリナの事は信用できないが、ここで松原を諦めるくらいなら全滅で構わん。松原も鉄平も取り戻せると言うならやってやろうじゃないか。


「それじゃあ確認するわよ。恐らく守護者になっている鉄平を殺さずにコアを破壊する、破壊したらすぐにコアと智子の体を私に渡しなさい。その後は知らない顔で逃げるわよ、管理ダンジョンを破壊するのは重罪だからね。まぁ私は忍び込んだから出る時も隠れるし、あなた達は初級だからたぶん大丈夫でしょう。そっちの人は知らないけど」

「貴様らと一緒にするな。俺にその様な疑いは影響ない」

「あっそう。それじゃ行きましょう、少しでも早い方がいい。琴音、智子は私が抱いていくからアナタは咲耶ちゃんを担いでいきなさい。その子もう倒れるわよ」







咲耶は顔を歪めていたが素直に担がれている。ここまでにも活躍しているのにあの【回復魔法】。倒れるどころかここまでこなせているだけで不思議だ。

セリナもそうだが、この子も何者なんだ?回復魔法の効果は切り傷や骨折の治療程度だったんじゃないのか?あの状態から治せるなんて、薬なら最低でも億単位の金で取引される上級ドロップ品になるだろう。

分からないことばかりだ、全部終わらせて、全員で帰って、全て納得させてもらう。

「鉄平を倒さずにか、イライラしてやってしまいそうだな」

「あぁ、お互い気をつけようぜ」

ソロは危険だからやめろと何度も言っていたのにあの野郎、結局やられてこの様だ。

武具屋の女も妙な感じだったじゃないか、簡単に誑し込まれやがって。

「松原が復活したら鉄平の悪い所を沢山教えてやろう」

「そうだな、あのお姉さんと出来てるとか2股してるとか教えてやろうぜ」

「似たようなものだしな」

「そうだよな」

「鉄平が居ない間にお前と松原がくっついた事にしよう。お前松原が復活したら抱きつけよ」

「あん?それじゃお前はセリナにくっつけよ」

「死んでも御免だ」

「お、また来るぞ」


化け物が嬉しそうに走ってくる、こいつはホブゴブリンじゃなくて小型のトロールというらしい。なんか違うとは思っていたんだ。

「ハッ!」

セリナが槍をぶん投げる、頭を貫いて一発で終わりだ。槍は真っ直ぐにセリナの元に帰ってくる。


「なんか俺、結構熱くなってたんだけどよ。ちょっと虚しくなったわ」

「あぁ、敵は殺すとか考えていたのが恥ずかしいな」

そうだ、俺達はまだまだ始めたばかりの初級冒険者。なにもかもこれからだ。

帰ったらみんなで反省会だな。松原の料理スキルを奮ってもらうのもいい。それが終わったらレベルを上げて、連携なんかも考えたらもっと強くなるぞ。金を稼いだらクランハウスを所有して、本気でランカーでも目指すか。




「ここだ。俺が最初に入る、チンタラするなよ」

「おう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る