二十二 思いもよらぬ客

「私が見てきます・・・」

 藤正屋の番頭の正太が急いで店先へ行った。暖簾がかかっていない店先に現れたのは加賀屋の番頭の平助だった。

「おや、何でございましょう。ところでどちら様でございましょうか」

 正太は加賀屋の番頭の平助を見知っているが、加賀屋の一件を探索しているのは町方だけのため、平助は特使探索方の顔ぶれを知らない。

「私は加賀屋の番頭の平助と申します。主の加賀屋菊之助と許嫁の多惠様から、この文を預ってまいりました」

 平助は封がされた文を差しだしている。

「なぜ、私どもに文を届けたのですか」

 正太がそう訊いている間に、藤兵衛たちと与力の藤堂八郎たちが店先に出てきた。


「これはこれは、藤堂様。こちらにおいででしたか。実は、多惠様から、この文を皆様にお渡しするようにと・・・」

 藤堂八郎は平助から文を受けとり、封を開いて藤兵衛と徳三郎に見せながら文を読んだ。

 藤堂八郎は文を読み終えて平助に、

「よくぞ知らせてくれた。話はわかった。そう伝えてくだされ」

 と言ってた文を唐十郎に渡した。

「はい、それでは、これで・・・」

 加賀屋の番頭の平助はそそくさと帰って行った。


「日野先生。どう思いますか」

「嘘ではないように思う・・・。皆に話していいですな」

「かまいませぬ」と藤堂八郎。

「では・・・」

 徳三郎は皆に手紙の内容を話した。

「与三郎たちがここを襲うのは今夜だ。そう、加賀屋の多惠が知らせてきた。

 だが、この開店前の藤正屋を、いかにして多惠が知ったか不明だ」

 徳三郎の説明に唐十郎が言う。

「おそらく加賀屋菊之助でしょう。両替屋の佐渡屋がこの藤正屋に二千両を融通したのを知った菊之助が、その事を多惠に話して、多惠が、今夜この藤正屋に与三郎が押し込む、と踏んだのでしょう。

 与三郎は、藤正屋に二千両があるとわかれば、待っていられない、せっかちな男のようです」

「さすれば交代で眠り、夜に備えてはいかがか」

 藤堂八郎は今夜は盗賊の捕物になりそうだと思った。

「藤堂様の言うとおりであろう。刺又、袖絡、突棒など、捕物道具はそろえてある。

 儂らは十人。藤堂様たちは五人。さらに捕り方を増やしますか」

 唐十郎たち特使探索方は日野穣之介と坂本右近を呼べば総勢十人だ。

「同心の野村に捕り方をまとめさせ、大工や左官に扮して一人ずつここに来るよう、策を講じようぞ」

 藤堂八郎は臆することなくそう言った。。

「では、そのように準備しましょう」

 徳三郎の一言で、夜盗捕縛の打ち合せが始まった。

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