吸血鬼はお好きですか?

ばうお

第1話逃げ出したヴァンパイア






私の名はリズ。いたいけで可愛らしい吸血鬼の少女だ。そして吸血鬼の村が嫌になり、飛び出した はぐれヴァンパイアでもある。


何故 逃げ出したかって? だってアイツ等、「フハハハ。吾輩はヴァンパイア! 闇の王なり!」って年がら年中、中2病を発症してるんだぞ。


そりゃ、吸血鬼は不死身で動物の血をコップ1杯も飲めば、1年は何も食べなくても生きていける。


人間に伝わっているような弱点は無いとは言え、あれは……


悠久を生きる者からすれば、どうやって時間を潰すのかが一番の問題だと言うのは分かる。


しかし、幾ら何でも暇つぶしにしては悪趣味がすぎるだろう。


しかも、更に恐ろしい事に、もし逃げ出していなかったら……コッソリ聞いた話では、新しい遊びを思いついたらしく、私に『光の勇者』役を押し付けるつもりだったらしい。


そして私に倒された者は、灰になって死ぬ予定だったのだとか……更にそれを聞きつけた村人が面白そうだと集まって、誰が最初に殺されるか くじ引きまでしていた……ぶっちゃけ頭がおかしいなんてモノじゃない。


幾ら死んでも100年もすれば生き返るとは言え、意味が分からない。


アホ共が死のうと私の知ったこっちゃ無いが、何で私が『光の勇者』役で村人を虐殺しなきゃいけないのかと……アホかとバカかと。


こうして私は特級のアホ共から逃げるために、以前から興味のあった人の世界へと逃げ出してきたのだ。








村から逃げ出し、1ヶ月ほどコウモリに変化して人里を探していると、草原の真ん中に道を見つける事が出来た。


あれを辿ればきっと人間がいるはずだ。あんなアホ共とは違う普通の人が!


私は人間を驚かせないように変化を解いて、人が街道と呼ぶ道を歩いて行く事を決めた。


実は私が人の世界に興味を持ったのには理由がある。私の爺ちゃんは遥か昔に人里へ下りた事があるのだ。


人の世では全ての人間が毎日 必死に働いているのだとか。


しかも、ご飯を1日に2回、多い時には3回も食べると聞いた。


毎日働くなんて飽きないのだろうか? きっと楽しすぎて毎日働いてしまうに違いない!


私はかつて無いほど興味を持って、ほんの1年の間 ぶっ通しで爺ちゃんから話を聞き続けた。


その際には1年に1度のご飯を忘れるほど夢中になってしまい、手と足の先が少し灰になってしまっていたほどだ。


死ぬかと思ったけど、考えてみれば死んでも100年もすれば生き返るので、ぶっちゃけどうでも良い。


そうして、私は爺ちゃんから人間の事を学んだのである。


今の私は人間マスターだ。人の世の常識をマスターした私は、もう人間と言っても過言では無いんじゃないか?


うむ、きっとそうだ。私は人間だー。フハハハハ!


おっと、イカンイカン。あのアホ共が少し写っていたようだ。平常心平常心……


私はかつて無いほどの興奮を秘め、街道をノンビリと歩いていくのだった。








「あー、太陽が気持ち良いな。ポカポカして眠たくなってくる」


季節は春とあって、程よい太陽の光がとても心地良い。


もしかして人が寝るのは娯楽なのかもしれない。そこまでして快楽を追求するとは、人間 恐るべし!


また1つ人間と会うのが楽しみになった。


話は変わるが、冒頭にも言ったように吸血鬼に弱点は無い。


人の世で語られる吸血鬼の弱点とは、代表的な物で太陽の光に十字架、後はニンニクだと爺ちゃんは言っていた。


太陽の光は、昔 ご先祖様が海で日光浴を楽しんでいたら、火竜と水竜がケンカを始めて、ブレスに巻き込まれて灰になったのが原因なのだとか。


火竜のブレスなど浴びれば誰でも灰になると思うのだが、人間は違うのだろうか?


尤もご先祖様は100年もすると素知らぬ顔で復活して、日光浴を再開したと聞いている。


十字架は……爺ちゃんも何でか分からないと言っていた。


十字の物が怖いとか……きっと言い出した人間が、心の病でも抱えていたのだろう。


そしてニンニク。これは村でも栽培する者がいるくらい、皆が大好きな物だった。


不思議に思いながらも爺ちゃんに聞いてみると、ニンニクを食べた人間がゲップをして、隣にいたご先祖様が顔を顰めたかららしい。


誰だってニンニクを食った後のゲップになんか、顔を顰めるだろうと!


人間は違うのだろうか……だとしたら人間恐るべし!


他にも色々とあるらしいが、どれもこれも適当な話ばかりだった。


ふと考えてみる……もしかして吸血鬼には弱点が無いとマズイのだろうか? だったら吸血鬼とバレた時には、私の弱点をムカデの素焼きにしておこう。


大好物なので、持ってきてくれると嬉しいしね!


こうして不安と期待を胸に、私は街道を進んでいくのだった。




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