第7話 ユウ

一ヵ月後、健吾はまた隣県で女を物色していた。


夜の繁華街を抜け、川沿いを歩く。

イチャつくカップルを尻目に、公園にたどり着いた。


黒髪のボブヘアの女子高生が、スマホを見ながらブランコに乗っていた。

健吾は空いているブランコに座って、話しかけた。



「誰か待ってるの?」


彼女は健吾を見た。

凛々しい顔つきで、目には力があった。



「いや、別に……」


「そうなんだ。彼氏でも待ってるかと思った」


「彼氏は、最近別れた」


「へぇ。それは寂しいね」


「別に。そんなに好きじゃなかったし」


「好きじゃないのに付き合うの?」


「付き合ってみたら、好きになるかなと思ったんだけど」


「なるほど、そういうこともあるね」


ミユに対して、そう期待したこともある。

人間として、特別な感情を抱けるようになるのではないかと。



「何してるの? ここで」


「ヒマつぶし。お兄さんこそ何してるの?」 


「俺もヒマつぶし。一緒に過ごしてくれる人を探してるんだ。良かったら、ちょっと付き合わない? ごはん行こうよ」


彼女は健吾をじっと見た。

彼女の顔は、健吾の好みだった。

体型はスレンダーだが、胸は無くても生殖行為に支障はない。



「いいよ」


彼女がそう返事したので、行くことにした。



♢♢♢



彼女がファミレスがいいと言ったので、そうした。

カレーが食べたかったらしい。

注文を済ませて、自己紹介をした。



「俺のことはケンって呼んで」


「私はユウ」


「ユウちゃんか。いつもこういうことしてるの?」


「いや、たまにだよ。ちょっとお小遣い足りない時に、ヒマつぶし兼、寂しいお兄さんたちに癒しを与えるの」


「そうなんだ。たくましいね」


「男の人って、なんでお金払ってまで女の子と遊びたいの?」


「え? まあ、楽しいよね。もしかしたらエッチなこともできるかもしれないし」


「やっぱり、結局エッチ目当てなの?」


「俺はその方が健全だと思うけど」


「どういう意味?」


「エッチは具体的だから。する、しない、気持ちいい、よくない、ってちゃんとわかるじゃない。それを”愛”がほしいとかになると、人によるからこじれるよ」


「なるほどね……」


ミユには、セックスに前向きになってもらえるように配慮したつもりだった。

現に、ミユは妊娠可能な期間以外でも擦り寄ってきた。

懐いていたはずなのに、どうして逃げたのか。



カレーが届けられた。

健吾はサラダを頼んだ。


「男の人でサラダなんて珍しいね。ホントはお腹空いてないの?」


「ベジタリアンまで行かないけど、あんまり肉は食べないんだ。サラダを食べてから、必要なら追加するよ」


「ふぅん。健康に気をつけて……るの?」


「そう……なのかな。食べたいものを食べてるつもりだけど。ユウは何が好き?」


高校生なら実家のごはんがあるから、それなりにまともなものを食べているだろう。

ミユは環境が悪すぎた。

体を整えるのに二ヶ月は短かったかもしれない。

最低でも半年は考えるべきだった。



「えぇ……適当……だよ。出されたの食べてるだけ……。まあ、お金ないから外食は少ないけど……」


「バイトはしてるの?」


「してないよ。そこまでは困ってないから」


改めて、ユウを見た。

中性的で髪や肌の具合からみると、もとの生命力が強そうだ。

話し方や雰囲気を見ても家庭環境もまともに感じる。

だが、そうなると誘拐するにはリスクが高い。

定期的にセックスをして、妊娠がわかったら連れ去ろうか。

別荘がバレたときのために、もう一つ拠点が必要かもしれない……。



「どうしたの? 考え事?」


「ああ、ごめん。ユウちゃんと遊びに行くならどこがいいかなって考えてた。普段、どこで遊んでるの?」


「ゲーセン好きなんだ。あ、クレーンやろうよ」


そんな話になり、二人は近くのゲーセンに行った。



クレーンゲームは好きと言うだけあって、ユウは大きめのぬいぐるみを一つとった。

店員に透明なナップサック型の袋に入れてもらい、それをユウが肩にかけた。

まるで、ぬいぐるみのリュックを背負っているみたいで可愛かった。

ミユにも、何かこの程度の可愛いものならあげても良かったかもしれない。



「ケンさんはゲーセン来る?」


「学生の時はね。大人になってからは来てないな」


「私もあんまり得意じゃないけど、次はシューティングやろうよ」


「いいよ。腕前は期待しないでね」



二人は、ゾンビを倒すシューティングゲームマシンに乗り込んだ。

隣同士で座り、お金を入れるとゲームが始まる。

ゾンビの頭を狙って撃つ。


こんなものが面白いなら、いくらでもリアルにやってあげるのに。

でも、本当の姿を見せたら、人間は受け入れてくれないだろう。



「あー! 私やられちゃった! お金入れるから、ちょっと粘ってて!」


ユウが言った。



「当ててはいるけど、なかなかやっつけられないよ。あ、ほら、やられちゃった」


「えー、残念。ケンさんうまかったのに。もう辞めちゃうの?」


「そうだね。あんまり怖いのは得意じゃないんだ」


「意外。なんか、クールでなんでも大丈夫そうなのに」


「ユウちゃんは平気なの?」


「どうかな……YouTubeとかで怖いのは見ちゃうけど」


「今度、廃墟とか廃村とか行ってみる?」


「えー! ヤバそう! でも、リアルは一回行ってみたいかも」


ユウが笑った。

笑顔が可愛かった。


ミユがそんな風に笑うところは、最期まで見れなかった。

ミユは笑える子だったんだろうか。



ゲームマシンの外に出ようとするユウの手を掴んだ。

ユウは、え?という顔で振り返った。



「あ、ごめん……。あのさ……ユウちゃんのこと、好みなんだ。お金は払うから、今晩……付き合ってくれないかな……」



彼女の匂いは覚えた。

ここで断られたら、後日、強行手段に出てもいい。

健吾はユウを見つめた。



「……いいよ……ケンさん、優しそうだから。でも、怖いことしたら、警察に行くからね……」


ユウは緊張した表情でそう言った。

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