第6話 二ヶ月後

ミユが捜索されている気配はなかった。

もしミユが妊娠をして、そこに警察が来るようなら、警察は皆殺しにするつもりだった。


が、ミユとの妊活は二回失敗していた。

やはり他の一般的な個体と比べても、体が健全じゃないのだろう。

このままミユと続けるか、新しい女を探すか健吾は迷った。


鈴木健吾の生活を続けながら、人間を二人飼うのは難しい。

新しい女にするなら、ミユを処分しなくてはいけない。



♦︎♦︎♦︎



ある日の夜。

大雨だった。

地下室にいても、どことなく外が雨音でうるさいような気がした。

健吾が監視する中、ミユが夕食を食べていると、停電になった。



「……ここから動くなよ」


健吾はそう言って、地下室を出た。


ミユがそっと後を追うと、地下室の入り口の扉が開いていた。

ミユは、そこから地下室を出た。

部屋に健吾の姿はなかった。


さらに移動して、玄関から外に出た。



土砂降り。


息をするのも困難なくらいの。


ミユは綿のスウェットの上下に、玄関にあったサンダルをはいてそのまま外に出た。



逃げたかったわけじゃない。


健吾のことは、好きになっていた。


殺されても、別に構わないと思っていた。


ただ、なんとなく、外に一人で出たかったのだ。


雨のにおい、土のにおい、草木のにおい。


散歩もしていたが、なぜかその日はより敏感ににおいを感じた。


懐かしい。


涙が出たような気がしたが、雨に濡れただけかもしれない。


一人の人間。


一匹の動物。


大自然の中の、たかだかの存在。


痛くもないし、寒くもなかった。


どこまでも歩いて行けそうな気がした。



ケンは……

私がいなくなったら、どう思うかな?

きっと怒るよな。

殴られるだろうか。

いや、それはしないだろう。

妊娠のためとはいえ、大切にされている。


少しは悲しくなったり、心配してくれるかな?

こんな、危険な雨の日でも……私を……

捜しに来てくれるだろうか……



そう思ったとき、足を滑らせた。

斜面を滑り、沢に落ちる。

増水した川の水が体にまとわりついて、そのままミユを押し流した。



♦︎♦︎♦︎



翌日、天気は小雨になっていた。

健吾は、岩に引っかかっていたミユを見つけた。

身体中傷だらけで、あちこちが骨折していた。


ここで死体が見つかったら、近くの別荘に住む自分に疑いの目が向けられる。


健吾は、ミユを抱きかかえて走った。



強化した脚力で、どんどん走る。

細い枝が体にあたるが、体の表面を硬化させているのでダメージはない。



健吾は、別荘からかなり離れた別の山まで来て、ミユをおろした。

あの可愛い顔は見る影もない。

ミユは、真っ青でぶよぶよに腫れた、ただのかたまりになった。



ミユは孤独な女だ。

誰もその死を知ることはない。

知ったとて、悼む者もいないだろう。



健吾は自分の爪を伸ばして硬化させた。

そしてメスのように尖らせると、ミユの腹を裂いた。

自分とミユの接点。


――子宮――


それを切り取って、健吾は別荘に帰った。

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