第5話 監禁

健吾は、朝、昼、晩と地下室に食事を運んだ。

食事の合間に、ミユに筋トレをさせて体を鍛えた。

一日に一回、森の中を一緒に散歩する。

森の中で人に会うことはなかった。

他の時間は読書をさせた。

好みの恋愛小説や女性向けのエロ本も渡した。



「風呂が二日に一度なのは、皮膚から化学物質が吸収されるのを控えるためだから」


ミユがもぐもぐとごはんを食べる様子を見ながら、健吾が言った。


食事は、できる限り添加物が入らない食材や調味料を使った。

服も、綿素材で締め付けのないものだ。



「顔色、良くなってきたよ」


健吾は笑って言った。



「私……イライラしたり、不安にならなくなりました……」


ミユは言った。

不思議だった。

こんな異常な状態なのに、人生で一番安らいでいた。



「砂糖や添加物が抜けると、体の反応が変わるんだよ。腸が生まれ変わるサイクルは二週間。ちょうどここに来てそれくらいだから」


二週間経っていたことに、ミユは気づいていなかった。

筆記用具が無いので、日にちを記録する方法がなかったのだ。



「そろそろ排卵期だね。今日から子作りをしよう」


健吾が言った。



♦︎♦︎♦︎



ミユの初体験は、小学生高学年の時、あの内縁の夫とかいう男だった。

それから中学までの間、そいつの気まぐれなタイミングで行為があった。

母親だって、知っていたはずだ。


高校生になり、友達の家や彼氏の家を転々としながら家に帰らないようにした。

ある日、家に帰らないことを理由に、あいつに半殺しにされた。

それからは家に帰るようにしたが、もちろんあいつの相手をするハメになる。

学校に行き、バイトに行き、あいつがいない時を見計らって家に帰り、お金が入ったらネカフェに避難してやり過ごした。


卒業してからは、ビル清掃と居酒屋のバイトとパパ活を始めた。

稼いだ金は、アイツらにとられる。

早く自立したかったが、住まいが借りられない。


地獄のような毎日に、ミユは疲れていた。 


殴られて、強要されて、暴力的に出し入れされる。

パパ活の男たちの方が、よっぽど優しかった。




ミユは、健吾のセックスが嫌いじゃなかった。


ただの、生殖活動。

鳥が、虫が、鯨が、生命の営みの一環で行う行為。


愛なんて無くてもいいのかもしれない。


新しい生命を生み出す、単純で、神聖な行為。

一方で、一瞬の油断もならない熾烈な命の戦いの始まりでもある。



「ケンさん……」


「何?」


「ありがとう、最後に、こんないい生活をさせてくれて……」


「妊娠したら、産むまでは生きてもらわないと」


「そんときは、そうだけど……」


ミユは、自分のお腹に子が宿ることなど想像がつかなかった。

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