いんたーみっしょん2

番外編 お兄ちゃんのひみつ

 最近、お兄ちゃんの様子がおかしい。

 お兄ちゃんが変なのは前からだけど、最近はなんだかキョドーフシン。



 私には三つ上のお兄ちゃんがいる。

 オタクで友達も少なくて、変なアニメとかゲームとかマンガとかばっかり買ってて、友達に自慢なんかできやしない。


 あーあ、神様って不公平だ。友達の、美由紀のお兄さんなんかスラっとしたハンサムで、おまけにまだ一年なのに高校サッカー部のレギュラーに抜擢されたって。地区大会でハットリクン?決めたって。


 うちのお兄ちゃんは確か帰宅部。もし全国大会があるなら優勝するんじゃない?知らないけど。


 「お兄ちゃんさー、少しは身だしなみとかに気を使ったら?」

 「あー?」


 居間でなんか変な女の子のプラモデル?を組み立てながら、お兄ちゃんはこっちを見もせずに返事をする。


 「風呂には入ってるぞ」

 「そういうんじゃなくて」

 「じゃどーいうんだよ。えーとEの7ってどれだ」


 んもう。


 髪の毛はボサボサだし、Tシャツのプリントはいつも趣味が悪いし、まだ高校生なのにお腹は出てるし。たまに遊びに来るお友達の人は、わりと普通なのに。



 そんなお兄ちゃんの様子が変わったのは、五月の連休が終わってしばらくしてからだったと思う。


 休みの日のたびに、どこかへいそいそと出かけるようになった。服装も……これはお兄ちゃん基準であって、一般的にはアレだと思うけど……気を使ってるみたいだ。

 そして夕方になると楽しそうに帰ってくる。何か変な銃とか爆弾のオモチャなんかも、持って帰ってくる。



 なんだろう。オタクの集会でもしてるのかな?



 「佳乃よしのんとこのお兄ちゃんも、オタクだったよね」

 「あー、うちのアニキの話はやめて。死にたくなるぅ」

 「そこまで!?」

 「聞いてよ。こないだあいつ、なんかコスプレ衣装とか買って来てさー」

 「コスプレ!?」


 なんかアニメとかゲームのキャラの、服を着るやつだよねコスプレって。


 「そう。なんか推しがどうとかでさ。メイド服みたいの」

 「はー。それ着ろとか言われたの?」


 うげー、と大げさに嫌な顔をする佳乃よしの


 「その方がナンボかましだよ。アイツ自分で着てやんの」


 !!


 「男のメイド服姿とかもう最悪。ウットリしてうちの中うろうろするし、アイツほんとどっか行ってくんないかな」

 「それはそれは、なんと言っていいのか。災難だったね」

 「ありがとう理香……それで?そういや理香のアニキもオタクだったよね」

 「うん……それでね」


 お兄さんには辛辣な佳乃よしのだけど、大事な親友だ。だからささいなことでも相談するのは当然のこと。


 「うちのお兄ちゃん、最近様子が変でさ。変なオタクの集まりでも行ってるのかなって」

 「どんな風に変なの?」

 「なんかね、休みの日にそわそわして朝から出かけて、夕方にニヤニヤしながら帰ってくるの」

 「ほー」

 「見たことないオモチャみたいなの買ってるみたいだし、こないだなんか香水みたいな匂いまでさせてたんだよね」


 うーん、と佳乃よしのは腕を組んだ。


 「それきっと、メイド喫茶とか変なお店にハマってるんじゃない?」

 「変なお店?」

 「そう。コスプレした女の子が耳かきするとか、デートするお店とかあるらしいよ」

 「げー」


 なんだそれ。そんな所で変な格好してる女の人相手にニヤニヤしてるお兄ちゃんの姿を想像するだけで、気持ち悪い。


 「うちのアニキもそーいうお店行ってたみたいでさ。オカンが店の名刺見つけてもう大騒ぎよ。お陰でとばっちり、あたしまでお小遣い減らされた」

 「うわーひどい連帯責任」

 「マジでアイツどっか行って欲しいわ」

 「あーよしよし、佳乃よしのかわいそう」


 私は佳乃よしのの頭をいいこいいこする。


 「この悲劇を、繰り返してはならない」


 ぎゅっ、と佳乃よしのが私の手を掴む。


 「ん?」

 「今度の休み、理香のアニキを尾行しよう。変なお店に行くようなら、止めよう」

 「助けてくれるの?佳乃よしの……ありがとう!」


 私はこの申し出に感激した。やっぱり持つべきものは親友だ!



 そうして私と佳乃よしのは、三日後の土曜日にお兄ちゃんを尾行することにした。まだ戻れるよ、お兄ちゃん。




 土曜日、朝九時。


 いそいそと出かけていくお兄ちゃんを、私と佳乃よしのは尾行し始めた。帽子とマスク、そしてサングラスにウィッグ。変装道具はカンペキだけど、このサングラスとウィッグは佳乃よしののお兄さんのものだって。女物を持ってるなんて……


 「どこ行くのかな。駅とは反対だよね」

 「モールかな?」


 電柱の影に隠れながらついていく私と佳乃よしの。まるで探偵みたい。こっちの方には公園と、大きなショッピング・モールがある。けど、オシャレなお店ばかりでお兄ちゃんと縁があるとは思えない。


 と、お兄ちゃんり姿が消えた。公園に入ったんだ。

 私と佳乃よしのは後を追った。ここで他のオタクと待ち合わせかも!?



 だけど、そこでお兄ちゃんを待っていたのは……なんかすごい肌が見えるトゲトゲのついた服を着てる、十歳くらいの女の子だった。


 な、なにあれ。パンクロック?女王様?


 お兄ちゃんは後ろ姿で顔は見えないけれど、右手を上げて軽く手を振ってる。その小さな女の子もものすごく嬉しそうに手をぶんぶん振って、お兄ちゃんに向かって走り出した。


 「なにあれ」


 佳乃よしのが、私の思っていることを呟いた。


 「……理香のアニキって、ロリコン?」

 「し、知らない」


 あっ、女の子がお兄ちゃんに抱き着いた!お兄ちゃんは嫌がる様子もなく、その子の頭を撫でてる。


 「これヤバくね?」


 佳乃よしのの呟きに、私は一気に現実に引き戻される。


 「警察に通報したほうが」

 「待ってよ、お兄ちゃん警察になんて」

 「でもマズいでしょ、犯罪だよどう見ても」

 「え、でもまだそうと決まったわけじゃないし」

 「いやどう見ても幼女に手を出してるじゃん!うちのアニキもヤバかったけど、理香のアニキもかなりやばいって!」


 目の前が真っ暗になる。お兄ちゃんが犯罪者!?逮捕されちゃうの!?そして私は学校で後ろ指差されるんだ、犯罪者の妹だ、って。そんな、そんな、そんな!




 「なんだ理香、何してんだこんなとこで」




 はっとした。幼女と手を繋いだお兄ちゃんが、私たちの前に立っている。


 「おっおおおおおおお兄ちゃん!?」

 「しかもなんだその恰好。探偵ごっこか何かか?」

 「なんだポチムラ、知り合いか?」


 可愛らしい声で幼女が言う。


 「妹ですよ。こっちの子は……理香の友達か?」


 佳乃よしのは無言でこくこくと頷く。あれ、お兄ちゃんこのちっちゃな子に敬語?


 「ふむ、あんまり似てないな」

 「ああ、妹は父親似ですからね。俺は母親に似てるって言われます」

 「ちょっとお兄ちゃん」


 私は二人の会話に割り込む。


 「ん?」

 「これはどういうこと?」

 「どういうことって?」


 ずい、と佳乃よしのが前に出た。


 「アンタ、こんな小さい子を毒牙にかけるなんて!一体どういうつもり!?」

 「毒牙?」

 「言い逃れするつもり?このロリコン野郎!?」

 「んー」


 頭をぽりぽりと掻くお兄ちゃん。


 「何か誤解してるかな?この人、四十三」

 「レディの歳を気軽にバラすな!」



 は?



 開いた口が塞がらない私と佳乃よしのに、お兄ちゃんはさらに説明を重ねる。


 「この人は宇宙海賊のキャプテンで、とっくに成人してるレディだぞ。だから合法だ」

 「合法?」

 「合法とか言うな!アタイは立派な成人だ!海賊惑星パイレーツン星人だ!」

 「いやスランさんややこしくなるからちょっと黙ってて」

 「でもでもどう見たって小学生!」

 「人が気にしてることを!ポチムラ!お前妹にどんな教育をしてるんだ!」

 「えっ気にしてたんですんか?……じゃなくて、妹に教育なんてしないですよ」

 「お兄ちゃんが変テコな嘘ついてまで小学生に手を出したー!」

 「こら理香、わけの判らんことを叫ぶな!」

 「アタイはこれでも大学出てるわ!高学歴海賊だ!」


 大混乱。


 「こっこの小娘どもめ、どうあってもアタイを小学生扱いするか!」

 「そんなちんちくりんで大人もないもんだわ!」

 「ちんちくりんだと!?アタイのないすばでぃを愚弄する気か!?」

 「ナイスバディ?どこが?マナイタじゃないの」

 「ムキー!お前だって全然デコボコとしらんくせに!電信柱!」


 佳乃よしのと幼女がヒートアップしてくれるので、私とお兄ちゃんは冷静になる。あるよねこういうの。


 「全部本当なんだよ。ほら、今地球が狙われてるっと話あるだろ」

 「うん、でも別の宇宙人が助けに来てくれてるんだよね?」

 「その宇宙人、うちの高校に転校してきたんだよ。俺のクラスに」

 「うっそ?あのニュースに出てた、きつね耳の女の子?」

 「うん、そうそれ」


 全然知らなかった。そう言えば、お兄ちゃんとちゃんと話すのって、どれくらいぶりだろう。ここのところ、ずっと文句しか言ってなかった気がする。


 「この人はその子の関係者みたいなものでさ、ちょっと前に知り合ったんだよ」

 「宇宙人なの?」

 「宇宙海賊って言ったろ?」

 「ああ、そっか」


 佳乃よしのと言い合いをしている子は、やっぱりどう見ても小学生に見える。肌の見えるトゲトゲのついた服はあの子の趣味なのかな?


 「ポチムラー!こいつなんとかしてくれー!」

 「理香、やっぱり警察に行こう!」


 二人がこちらに来た。お兄ちゃんがやれやれと言った風に、その子の頭に手を置く。


 「スランちゃん、証拠見せたらいいんですよ」

 「証拠?」




 「うっすキャプテン、ポチムラさん」

 「ポチムラさん、今日も来てくれましたね!」

 「親分、ポチムラさん独占しないでくださいよー」


 私と佳乃よしのは、その子がキャプテンをしているという海賊船に招待されて、中を案内された。

 変な機械とか宇宙人がうろうろしてる。みんなあの子とお兄ちゃんに挨拶してる。お兄ちゃんポチムラって呼ばれてるのか……


 「ぽちむらサン、今日モきゃぷてんト駄菓子屋でーとジャナカッタンデスカ?」

 「黙れムーモ。アタイは孤高の海賊だ、デートなどしない」

 「オヤソチラハ?」

 「ああ、俺の妹とその友達ですよ」

 「ソウ……初メマシテ、私ハむーも。彷徨エル最後ノかんぶりあ星人」

 「は、はぁ」


 とにかく、ここが何かのイベント会場でないことは判ったけれど、理解が追いつかない。


 「おーポチムラはん、新しいゲーム手に入ったで!」

 「あれっ珍しいですね?シオマネキ副長がブリッジにいるなんて」

 「ワイも仕事くらいしてまっせ」


 なんか変な知り合いがたくさん出来てる。お兄ちゃんの交友関係って……


 「どうだ!これが海賊戦艦アガルティア号だ!」

 「そんな名前だったのか」


 お兄ちゃんが驚いてる。


 「そしてアタイがこの艦の主、キャプテンスラン様だっ!」

 「いよっお頭!」

 「親分かっこいい!」

 「さすが船長!」

 「キャプテンと呼べと言っとろーが!!」


 手下を怒鳴りつける様子を見ると、やっぱりここの船長みたい。佳乃よしのもあまりの光景にびっくりしてる。


 「ねえちょっと。あの人四十越えてるってホント?」


 佳乃よしのが、手近な海賊子分を捕まえて問いただす。


 「ああそっすよ。キャプテンはうちの母ちゃんと中学で同クラだもの」

 「えええ」


、絶句する佳乃よしの。そしてその子はふふん、と得意げな顔をする。


 「だーかーらー言っておるのだ。アタイがポチムラと付き合っても、なーんにも問題なんてないのだ」

 「モウスッカリぽちむらサンガオ気ニ入リデスネ、きゃぷてん」

 「だっだまれムーモ!これは言いがかりに対する反証であって、アタイはポチムラのことなんて、ぜんっぜん好きでもなんでもないんだからねっ」


 赤面しながら腕を組んでそっぽを向いたら、それはもう認めてるんじゃないの?と私は思う。佳乃よしのはなんか頭抱えてるし、お兄ちゃんは子分の人たちに色々話しかけられて楽しそうに返事してる。



 はあ、まあいいのかな。とりあえず変なお店に行ってるわけじゃなかったし、小学生に変態行為をしてるわけじゃなかったし。



 「じゃあ俺はもうちょっとここで色々してくから、お前たち先帰れや」

 「そうじゃそうじゃ、これから大人の時間じゃ帰れ帰れ」

 「きーっ、見た目ガキんちょに言われると腹っ立つわぁ!」


 佳乃よしのを宥めながら、私たちは海賊船から公園に転送された。

 青空がまぶしい。風が爽やかだ。ああ、日常は美しい。



 「ま、良かったじゃないの。理香のアニキが犯罪者じゃなくて」

 「うん、付き合ってくれてありがとね佳乃よしの。私一人じゃ、真実に辿り着けなかったよ」

 「いやいや、他ならぬ親友のためだもん!佳乃よしのさまにお任せよ!」


 私と佳乃よしのはひとしきり笑い合ってから、ふと公園の時計を見た。まだお昼前だ。


 「どうしよう、モールでも行こうか」

 「いいね、お店色々見てみよ!」


 佳乃よしのが誘ってくれたので、私も笑顔で答える。お昼はハンバーガーでも食べようかな。




 でも、何か引っかかる。





 「ねえ佳乃よしの

 「ん?」

 「ふと思ったんだけどさ」

 「うん」


 そうだ。あまりのことに、そこに思いが行かなかったのだ。



 「宇宙海賊って、犯罪者じゃない?」






-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

 どうもです。


 ちょっとの間に150PVも頂いてしまったので、その記念とお礼を兼ねて、大急ぎで書きました。


 設定にちょろっと出来心で書いた、吉村の妹が主人公の番外編です。あとスランの海賊船の名前を設定してなかったことに今さら気付いたので、そこも名付けて入れました。行き当たりばったりですね。


 艦名の元ネタ海賊戦艦が「理想郷」を意味するということなので、こちらのも同じく理想郷、アガルタをもじって名付けました。結果、似てしまったのは偶然ということにして下さい。これも大宇宙の神秘の一つなんです……


 これは余談ですが、ここに来てようやく読み仮名の使い方を知りました。普段はメモ帳にテキストを書いて貼り付けているので、どうやるんだろう?でもよく判らないからいいか、と放置してたんですよね。ひとつ利口になりましたが、これから使うかは判りません。そんなに読みが難しい字を使わない気がします。とほほ。



 タイトルの元ネタはウルトラセブン第三話「湖のひみつ」です。秘密じゃなくてひみつっていうあたりがいいですよね。完全に余談でした。


 ではでは!


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