無能な騎士が、副村長の一件について報告すると、近くの洞窟へと足を運ぶことになった件について

 ここは村長の民家

 三人と一匹はこの件を村長に報告していた。


「ふむ……副村長が、まさか……いや、そんなことを考えていたとは……」


 村長は真剣な顔をしてカノンを見る。


「すいません、私のせいで村に厄介事を持ち込んでしまったようで……」

「この村では如何なる人間の過去を散策しない。それはこの村の掟みたいなものだ。それは副村長が《漆黒の烏》だったとしても同じこと。ただ、実際にこのような被害が出てしまうと話は別になる……」


 村長は座っている椅子の引き出しを開け、鍵を取り出す。


「それは……?」

「これは、副村長が使っていた家の鍵だ。私と一緒に副村長の家へ行こう」


 しかし、カノンは少し違和感を覚える。


「あの……」

「ん、なんだ」

「副村長の家に勝手に入っていいんですか?」


 少し考え、確かにもっともな反応だな、と頷く。


「そうだな。ただし」


 村長は言いにくそうに言葉を続ける。


「実は……実はだ、副村長が、新規入村者を追い出しているのではないか、というのが私の直感なんだ」


 カノンはその真剣な口調に、同調する。


「なるほど……要は私たちの畑を荒らしていたのも……」

「そうだ、副村長の仕業だ……」


 カノンはため息をつく。


「しかし、何故ですか?副村長が、私たちを追い出したとしても意味がないように感じますが……」

「まずわかりやすいところとしては、副村長がよそ者を毛嫌いしていたことだ。最も、副村長も、この村で言うと新参なんだがな……次に、副村長が現れてから、嫌がらせが始まったのだ」


 村長は説明がしていると、パーティーの一行はいつの間にか副村長の家へとたどりつく。

 村長は念のため、扉をノックして、声をかける。 


「副村長、私です」


 しかし、中からは返事がない。


 「やはりか……鍵もかかっているし……」


 そう言って、村長は鍵を鍵穴に挿す。

 するとカチャリと音がなり、扉が開いた。

 中に入るとそこはとても質素な部屋だった。家具もあまりなく、生活感をまるで感じさせないような部屋だ。

 そこには机があり、上に幾つかの紙が散らばっている。

 村長はその紙の一枚を取り上げるが、首を傾げる。


「この形に身覚えがあるか?」


 そう言って、カノンにその紙を見せる。

 そこには、見覚えのない、変な象形文字が書かれてある。

 ルルゥもそれをのぞき込むと、ハッとした顔をして答える。


「こ、これは……魔族語です!」

「魔族語?」


 カノンと村長は驚いてルルゥに聞く。


「はい、魔族は独自の言語を持っています。その言語を我々は『魔族語』と呼んでいます。そして、この文字は……」


 ルルゥは紙に書かれた文字を読み上げる。


「『拝啓、私はシグマ副村長です。

 このたびは、また入村希望者が現れましたので、《漆黒の烏》拠点化計画のために、追い出す計画を立ててます』」


「なるほど……そう考えると、全て辻褄があう」


 村長が言ったのはこういうことである。

 確かに入村者への嫌がらせが報告されるようになってきたのは、副村長が村に現れてからのことだった。

 最初は、この村に悪意のあるものが行っていたのではないかと考えていた。あるいは、もしかしたら最近増えているモンスターの仕業か。犯人を捕まえるために監視も行っていたのだが、犯人の糸口は全く掴めることはなかった。

 だが副村長が、あの《漆黒の烏》のメンバーであるとするならば、恐らくこういった裏工作には慣れている筈だから、捕まる必要がない。


「……まさか、《漆黒の烏》によって村を乗っ取ろうと計画していたからなのか……」


 アレクは好奇心のせいなのか、机の紙束を色々と漁っていた。

 すると、その中から、洞窟に赤くバツの書いてある一枚の地図が現れたのだ。

 その地図を見つけたアレクは、急いでそのことを皆に知らせる。


「おい、大発見だ!どうやら村の近くに洞窟があるようだぞ!」


 アレクは地図を村長に見せる。


「これは……あの森の奥にある洞窟か。しかしなぜ故にここにバツがついているのか……」


 アレクは自信満々に答える。


「それは決まっているじゃないか!村を乗っ取る前に、《漆黒の烏》がここを仮拠点としておさえているに違いない!ここで副村長はコンタクトを取っているに違いない!」


 アレクは机を叩きながら熱弁する。机の上では、インクが揺れている。


「うるさいわね。私としては、《漆黒の烏》のような組織がわざわざこんな『わざわざここに居ますよ~』なんていう印を残すかしら?順当に考えれば、罠だと思うけど?」


 しかし、アレクはこの地図が重要であることを主張してはばからない。


「拠点じゃなければ、ここに副村長の宝が残されているに違いない!とにかく、こんな解りやすく赤いバツが付いているということは、ここに何かあるに違いない!」


 アレクは鼻息を荒くしている。


「しょうがないわね……罠かもしれないけど、行ってみましょう。ここにいても仕方ないし、何か手掛かりはあるかもしれないわね」


 そう言うと、ルルゥもコクンと頷く。


「ううむ……確かに、この場所は気になるな。ただ、ご一行、くれぐれも危険だと思ったら帰ってきてくれよ。無茶するなよ」


 心配そうな表情の村長を尻目に、一行は洞窟へと向かっていく。

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辺境の騎士でしかない俺が、勇者じゃないわけがないだろ! アイアン先輩 @iron_senpai

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