Episode3 - D1


--【墓荒らしの愛した都市】1層


【ダンジョンへと侵入しました:プレイヤー数1】

【PvEモードが起動中です】

【どうやらここはセーフティエリアのようだ……】


「よし、今度こそちゃんとダンジョンっぽい」


赤いゲートを潜った先は、木造の小屋の中だった。

ログにもある通り、ここはセーフティエリアなのだろう。ポップした瞬間に敵に殴られるのは敵性モブだけで良い。

……ここは本当にセーフティエリアだけって感じっぽいなぁ。

ただの部屋、家具も灯りすらもない薄暗い木造の部屋。

代わりに敵が出現する事もなく、自身の持ち物をゆっくり確認する事が可能だろう。


「今のうちに紫煙外装の詳細確認しとこっかな」


紫煙外装。今の私が持っている唯一にして固有の武装だ。

ログに流れていた正式名称は……『外装一式 - 器型一種』だったか。


「エデンに出た時には勝手に消えてたんだけど……ふむ」


自身の身体を見渡してみても、特に腰から下がっているなどはない。

どうしたものだろうか、と考えつつもガンマに言われた通りオンラインヘルプを呼び出した。


「紫煙外装、紫煙外装っと……おぉなんか沢山テキスト出てきた」


ある程度文書を咀嚼し自分なりの解釈をしてみると、


・紫煙外装は通常駆動と紫煙駆動と呼ばれる状態が存在する。

・固有の能力を持ち、通常駆動時はパッシブ能力のみしか発動していない。

・STを消費するのは紫煙駆動状態。

・壊れない。


という感じだというのが読み取れた。


「壊れないのは上々。っと、呼び出し方は……頭の中で考えるだけね。オーケィ」


手のひらの上に出現させ、軽く部屋の中で振ってみる。

重くはないが、軽くもない。振り回した時に身体を持っていかれないが、その分ダメージは普通の斧よりも出ないだろう。

……まぁ手斧だしね。


「……そういえばコレの能力ってなんなんだろ。今って通常駆動状態だからパッシブが起動してたはずだよね」


メニューから紫煙外装の詳細データを呼び出し、確認してみる。

すると、だ。


――――――――――

『外装一式 - 器型一種』

等級:壱

形状:手斧

通常駆動:投擲時自動回収(1s)

紫煙駆動:紫煙による手斧の複製

     制限:複製数は等級を超える事はない

――――――――――


「……あれ、強くない?」


等級や形状という部分に引っかかるものを覚えつつ、通常駆動と紫煙駆動の部分を数回読んで頭の中で理解しようとする。

理解しようとするのだが……最序盤という現在の状況が書かれている事の理解を拒んでいるのだ。


どう考えても、投げた後に自動で回収されるというパッシブは強すぎる。

なんたって、この手斧を使えば残弾無限の投擲攻撃が行えるという事なのだから。

紫煙駆動の方は……投擲の頻度が上げられると考えると十二分に有用なものだろう。


「これ、他の人もこれくらいの強さの紫煙外装を持ってるって考えた方が良いよねぇ」


元よりあまり興味はなかったが、PvP要素に対するやる気が自身の中で消えていくのを感じる。

他のプレイヤーもコレと似たようなものを持っている。そして、それを使った上でのダンジョン攻略を是としている運営。


「ちょっと気合入れた方が良さそうだなコレ」


墓荒らしの愛した都市】の攻略が、一筋縄ではいかないと予想させるには十分すぎる情報だ。

……まぁ、今回は本当に小手調べ。どれくらいの難度か確かめていこう。


インベントリ内から煙草を取り出し、口に咥えて火を点ける。

木造の部屋の中で火を扱うのは少しだけ怖いものの、このゲームでは重要な事なのだから仕方がない。

ゆっくり吸い、肺に煙を入れ、ゆっくりと息を吐く。

そうして出た白い煙は、独特の匂いを部屋の中へと充満させていった。


「……よし、STも満タン近くまで来たし行こう」


吸い終わった煙草が光となって消えていくのを見終えてから、私は部屋の扉を開け放った。

新鮮な風が部屋の中へと吹き込み、中に溜まっていた煙が外へと放たれていく。

釣られるように外へと出ると、そこは人気のない街だった。


「これは……モデルは外国かな」


煉瓦を基調とした住居や、白い石材などで建てられた博物館らしき物。

空は開けておらず、ここが大きな建物の中である事が分かる。

所謂、街1つ分を格納した展示ルームのようなものだろうか。実際に街1つが収まっているかは分からないが。


「灯りは……ランタンか」


道路の左右には、鉄柱の上に吊るされたランタンが複数存在し、それらが淡い光を放っている。

中々に雰囲気があるものの、光の届かない場所が複数出来ているため、敵性モブが何処から出てくるかが分からないのが厄介な所だろう。


「ま、進んでみますか」


片手に手斧を握りしめつつ、私はその街へと繰り出した。

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