【37】山賊の頭

 闇夜の山中は山賊の一味の縄張りだ。

 しかしながら、ロザリーとレイには関係のない話だった。


「――【アイシクル・スピア】」


 ロザリーは魔力の流れで山賊たちの位置を把握し、次々と攻撃魔法を放っていく。

 そのいずれもが命中し、山賊たちの戦力を削いでいた。そして、


「んー、……はいいっ!!」

「ぐはっ」

「はいはい! そっちも~、はいね!!」

「がはっ」


 レイに至っては、目を瞑ったままの状態で、襲い掛かる山賊たちを一人、また一人と返り討ちにしていった。


「まだまだいくね! かかってこいね!」


 こちらは空気の流れを感じ取り、山中を動く山賊の位置を特定していた。

 ロザリーとレイは背中を合わせて互いの目が届かない場所を減らし、山賊の数を確実に減らしていく。


 そんな中、猛攻を続ける山賊の攻撃の手が止まった。

 かと思えば、暗闇の中から筋骨隆々の輩が一人、ゆっくりと近づいてくる。


「くくく、まさかオレたちが背後を取られていたとはな……」


 空気が変わる。

 その男は一定の距離で歩を止めると、ロザリーとレイの姿を瞳に捉えた。


「オレの名はヤゴン。なった覚えはねえが、一応こいつらの頭をしてる」


 ヤゴン。

 そう名乗った男は、山賊の頭でもあると宣言する。


「なあ、どうしてオレが名前を教えてやったか分かるか? それはな、今ここでテメエらが死ぬからだ」


 ヤゴンが殺気を放つ。冷たくも鋭いそれは、二人の脈を速めた。

 レイは思わず目を開き、ロザリーも冷や汗を掻く。


「逃げられるとは思うなよ」


 一歩、距離が近づく。

 とここで、横から口を挟む者が一人いた。


「――逃げるつもりは毛頭ない」


 真っ暗な山中から姿を現し、息を切らしながらもロザリーとレイの前に立つのは、リジンだ。


「お前が山賊の頭だな?」

「テメエは何者だ。そいつらの仲間か」


 問いかけ、問われる。

 リジンは息を整えると、ヤゴンから目を離さずに口を開く。


「俺の名はリジン・ジョレイド。ここにいる二人とパーティーを組んでいる」

「ほう? なるほどな……良い面構えをしてやがる。テメエがリーダーだな?」


 その問いかけに対し、リジンは答えない。答えようがない。

 ブレイブ・リンツにリーダーは居ない。というよりも、まだ決めていなかった。


 とはいえ、わざわざ決める必要はないとリジンは考えている。

 全員がアタッカーで、全員が同じ立場、それがブレイブ・リンツなのだ。


「見たところ全員アタッカーみてえだが……タンクやヒーラーには仲間になってもらえなかったのか?」


 山賊までもが、アタッカー不要論を口にする。

 それに同調するように、ヤゴンの手下たちも面白おかしく笑う。


「必要ないさ」


 だが、否定する。

 ブレイブ・リンツには必要のない役職だ。


 リジンは口元を緩め、堂々と宣言する。


「俺たちは強い。この国最強のパーティーだからな」

「……大きく出やがったじゃねえか」


 リジンの宣言を耳にしたヤゴンは、同じく笑う。

 アタッカーしかいないパーティーを前に、思うところがあったのだろう。


「せっかくだ、テメエらのパーティーの名も教えろ」

「ブレイブ・リンツ。それが俺たちのパーティー名だ」

「……覚えておこう。まあもっとも、今ここでテメエらが死ぬまでの僅かな間だがな」

「忘れないさ。少なくとも、お前が死ぬまでの間は……な?」


 リジンが言い返す。

 と同時に、ヤゴンの殺気を一身に浴びるも、一切動じない。


 リジンは両手に短剣を握り締め、戦闘態勢を取る。

 ノア・ロークと対峙するかのような感覚を覚えた。それもそのはず、ヤゴンは格上であり、絶対的な強者の立ち位置にいる。


 銀級三つ星か、否、もしかするとノアをも凌駕する実力の持ち主かもしれない。

 だが、リジンたちに後退の文字はない。


 ブレイブ・リンツは、アタッカーのみで構成されたパーティーだ。

 つまり、攻撃する他に初めから道は無い。


「手は出すんじゃねえ……コイツらはオレが殺る。その間にテメエらはあっちを片付けとけ」


 手下に命じ、ヤゴンは腰に下げた武器を抜く。

 そしてすぐさま、戦闘が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る